9話 書架立ち並ぶ部屋
「んん……落ち着かん」
案内された部屋は広く、豪華な客室だった。
シェリット・バートンやその他の貴族の屋敷に招かれた事はあったが、ここまで豪華な装飾などは無かった。
50年の間に、貴族社会や貴族の生活も変わったのかもしれない。
いやそもそも昔の奴等にナメられていただけなのでは?
というかメイドを一人付けようとする程のもてなしを「カストルが居るからいい、」と断ったのはある意味失礼だったかのか?
かというカストルは窓から、夜空を見上げている。
「ご夕食の準備が出来ました」
扉を叩き、メイドの声が掛かる。
「カストル、お前は?」
「私は人形です、食事は必要ありません」
つい聞いてしまった問にカストルは嫌な顔せず答える
彼女と居ると、勘違いしてしまう。
まるで人形らしからぬ言葉使い、動作、そして薄くながらも見せる表情。
「分かった、使命を全うしてくれ」
そう言い残しカストルを客室に残し後にする。
メイドに案内されたのは長机と、椅子が並ぶ部屋。
メイドが壁際に数名待機している。
もっとも他に見える姿といえば椅子に座っているウィンだけだ。
メイドの促しに従いウィンと対面する席に座ると、卓上に皿が並べられて行く。
少し目に眩しい程のフルコースが現れ、驚愕している中、ウィンが
「頂きましょう?」
そう笑みと共に言った。
◆◆
互いに食事に落ち着きが見え始めた頃、軽い疑問を投げる。
「両親は?」
「…領地で頑張っていらっしゃいますわ」
静かに答えるウィンの言葉に考える。
そう、別に屋敷がある。
つまり此処は別荘、つまりこれの数倍の大きさの屋敷を持っている、という事。
ここに来て感じるウィンの貴族的な雰囲気に少し驚きを隠せない。
というかかなりな態度だったが、大丈夫だろうか?冷や汗が頬をつたう。
「そうですわ、後でお見せしたい物がございますの、お時間頂けますわよね?」
と笑い掛けるウィンを見て多分大丈夫だろうと感じる。
「あぁ、分かった」
静かな空間にその返答が響く。
◆◆
食事を終え、一人待たされる事十数分。
一人の老人が現れる。
獣、と例えるのが最も適しているだろう、
灰色の髪と老体でありながら鋭い目。
狼を彷彿とさせる。
「どうも、アルム様。屋敷の管理を任されていますアーネスト・ダンです。セーラがご迷惑をお掛けしたようで失礼しました」
「いえ大丈夫ですよ、こちらも楽しく道中を共にさせて頂きました」
「いえアレは私の孫ですので、何かありましたらご申しください」
「ア、ハハハ……」
セーラからは想像も出来ない程の真面目の塊みたいな人物で乾いた笑いが出る。
「では参りましょう、」
老人、ダンに続いて月明かりが差し込む廊下を歩く。
「この屋敷は、元々奥様の方の家の物でしたが、訳もあり、今ではガルムスト家の所有になっています。奥様は昔から本を読むのがお好きで、王都内でも指折りの蔵書数を誇ります。まぁそれが一番の理由ですが、……部屋の鍵は私が管理しています、入れる者も、私とお嬢様、奥様、そして一部の者だけ。それ程の場所にお嬢様はアナタ様を招くと仰っています」
「……」
「アナタ様は見た目程の若さでは無いと思います、ですから頼みたいのです。お嬢様を支えてはくれませぬか?お嬢様も私にとっては孫同然なのです」
「……」
「別に人生を共に………などと言うつもりはありません、まだ蛹のお嬢様が羽化した時、迷わず真っ直ぐ飛べる様に道導として導いて欲しいと、思っただけなのです」
「……オレには、まずしなければならない事がある」
「お嬢様はその為に力になりたいと言っていました」
「……師匠想いの言い弟子だよ、アイツは」
「何か?」
その呟きにダンが反応するが「いや、何でもばない」と返しておく。
そんな会話が終わり、その一室に辿り着く。
他の扉よりも重厚で装飾の多い扉を、ダンは片手で開く、そのまま促され室内に入る。
そこは階層が別れ、一部が吹き抜けになっている部屋で
大きさは屋敷の半分程、
壁から壁まで人が行き来出来るスペースが取られた間隔で本棚が並んでいる。
天窓から月明かりが入っているが、それでは足りないので、魔法的な光源が部屋全体を明るくしている。
見た事も無い程の本の量。好きとかそういうレベルでは無い……
「お待ちしてましたわ」
「あぁ、すまない」
「こちらの方に使われる物をまとめておきましたわ」
とウィンが机の上の15〜20冊の厚本を指す。
「……思ったよりも少ないな」
「正確さを重視して厳選しましたので」
「…それは、ありがとう」
とウィンに返す。
「それよりも、早く読んはいかがですか?」
「あぁ、そうだな失礼するぞ」
机に備えられたイスに座り、本を取る。
30分程が経った頃、
「なぁ、ウィン?」
「なんですか?アルム様」
本棚から持った来た本を、横で読んでいるウィンが答える。
「オレが師匠で良いのか?」
「今更なんですの?……確かに憧れる人物は何人か居ます。けれど私の”師匠”は、アルム・セィリムだけなのですわ」
ウィンは、嫌味やボヤキなんてなく、すぐに答える。
そしてその目は強い意志を輝かしている。
「そうか……、」
「………そうです、ですからお願いが……」
少し、躊躇いながら、彼女は口を開く。
「この屋敷で雇われてはどうです?アルム君」
「せやせや、それならちゃんと師匠としてのォ、使命も果たせるやろォ?」
ユーリとセーラが現れ、ウィンの言葉の続きを言う。
「!……それは、どういう?」
「アナタの錬金術、そして落ち着いた態度。私達に出来ない事を頼みたいのです、理由は2つ」
「まず1つはァ、嬢様の家庭教師や、教えるのォ上手かったしなァ、そんで師匠って慕ってるなら嬢様も逃げる様な事もォ、しないでしょう」
と二人は言う。
確かにその通りかも知れない、だが、理由はまだある様だ。
「それで、もう一つは?」
「お嬢様と一緒に学園に通って頂きたい」
「っ?………はぁ?…………はぁ!?」
ユーリが端的に発した言葉が理解出来ず、何度かの思考、溢れる疑問、そして驚愕が飛び出た。
今後は少し更新速度が遅くなります、申し訳ありません