8話 到着、王都
あの後、巡回していた憲兵に盗賊団を突き出し、王都にも直ぐの所までに来ていた。
もっとも昔と場所は変わって無かったが。
「それで、オマエ達はこれからどうする」
「屋敷に戻ります、それこそお二人はどうなさるのです?」
「宿でも取る。明日からは図書館にでも居座って情報収集だ」
「………それでは屋敷にお泊まりになられては?手持ちも少ないでしょうし……」
「いや金は作れる」
そう言うとウィンはむぅ、と唸りをこぼす。
そして横からのセーラとカストルの視線が刺さる。
まるで「そこまで言わせておいてそれか、」と言いたげの目だ。
「何だオマエ達、……分かった、分かりました、そこまで世話になるつもりは無かったけどさ、そこまで言われて引くのも失礼だからな、お邪魔させて頂きます」
結局折れた。
押しに弱い、と自傷しながら笑う。
そして王都に着いた。
夕焼けに空が燃えている、それに照らされる王都の街を包む壁。
そして外内を繋ぐ門。
馬車が門からの街道に並ぶ、その横を通り門に辿り着く。
馬車の戸をノックする音が聞こえる。
それにウィンが答え戸を開く。
「恐縮ですがステータスの方を見せて頂けますか?」
その門番の帯刀した若い男は少し萎縮しながら言った。
それにウィンは顔色変えず、”ステータス”と呟いて、見せた。
空中に浮かぶウィンドウ、それを男に見せて数秒。
「はい、確かに………そちらの方々は?」
ウィンの素性を確認した男はその目をオレとカストルに向ける。
確かに、古めかしいコートの少年と人形だ、怪しまれても仕方は無い。
「従者ですが?」
「そうですか、お手間を取らせしまい申し訳ございませんでした」
「いえ、お仕事頑張ってください」
一礼をする男にウィンは笑みを返す。
そうして門を通り抜ける事が出来た。
「なぁ、」
「なんですの?」
「従者って…なんでだよ」
「あの状況ですぐにステータスを出せてましたか?少なくとも50年の間にレベルシステムとステータスは違う物という程に進化しています、あの時は……その方が怪しまれずやり過ごす方法でしたので……」
そう少し嬉しそうな声色でウィンが言う。
確かに、レベルシステムはあくまで紙等に投写するものだったが、もはやステータスは別物だ。
先のウィンドウ、錬金術由来の物では無いだろう。
では何か?
そして真っ先に思い付いたのが
「魔法……って何だウィン」
「あぁ……そうでしたね、まだ魔法が作られる前に眠りについたのでしたね、ユーリが使っていた高速化や、先のステータスの表示。それらが端的に言って魔法です」
そうドヤッと言い切るが、
「いや理論の方だ、」
「むぐッ……法陣を書く事は同じです。しかし違うのは物質分解を行わない事です、陣で術式を制御して、魔力を術に変換して放つ。それが魔法です」
「………いや待て、要素はどうした?」
「魔力、適正によりその属性を使う事が出来ます、勿論周りの要素を使って魔法を使う事も可能ですが適正の有無で強さが変わります」
ウィンにしては良く理解している様だ。
「………なるほど、それで聞くがステータスはどういう仕組みだ、陣は書いてない様に見えたが」
「言葉です、陣の術式を言語変換して唱えたのです。これを詠唱と言います」
「………簡単な制御が売りか、確かに理屈ばかりの錬金術よりかは使われても仕方無いか、」
「はい、約50年程前に召喚された勇者御一行のキャスター様が考案された物です」
勇者は一人じゃなかったのか?と言いたくなったが、それよりも
「また勇者か、」
レベルシステムも勇者が広めたし、しかも魔法も勇者が作った、しかも錬金術よりも普及しやすい物を。
勇者様は文明ブレイカーか?というかナチュラルに文明に介入し過ぎだろ、
と勇者に対するヘイトが貯まるが、流石に居ない相手にキレる様な事はしない。
「はい、そうです!情報収集のときにご一緒に調べては?」
とウィンはキラキラと目を輝かせいる。
いや元から50年間の事については可能な限り調べるつもりだったが、というか……さてはコイツ勇者にも憧れてるな?
「師匠はオレだけにしておけよ、勇者なんてロクな奴じゃ無いだろうしな」
「何故そう言うんですか〜、カッコイイじゃないですか!伝説の勇者4人のパーティー……良くお母様の蔵書を読み漁りましたわ………」
と思い出に浸るウィン、
「お前本読むんだな」
「失敬ですわッ!!むぅ……」
と拗ねる。いや実際理論放置の文嫌いなタイプだろうし。
物語や実験の記録みたいな比較的に考えずに読めるのはイケるのだろうか?
「というか、オレにもステータスを見せてくれ」
「えっ……」
「?何か問題でも?」
「……いえ、構いません…ステータス、」
呟きと共に手のひらから再びウィンドウが現れる。
家系、名前、レベル、スキル、年齢、身長、体重、適正、
等が羅列している。
適正というのは、魔法における属性の物だろう、ウィンは風だけだ。
レベルは17、スキルは良くわからない羅列ばかりだ。
他の情報はプライベート故あまり見ない。
というか、まだ文字が表示されるのは良いが、このウィンドウそのものがどういう仕組みなのか理解出来ない。
ウィンドウそのものに触れて見るが、実態が無く触れられない。
これは、一種の幻覚に近い物だろう、自身の生体データを魔力を通じて光、もしくはそれに類する何かで自他の思考に送って居るのだろう、だからソレさえ認識していれば横目でも、距離を変えても文字を認識出来るのだろう。
レベルシステムも基本的には一緒だ、血液を術式法陣に垂らし、紙に文字として表示する。
それだけだ、表示方法が変わっただけだから、そう難しくは無いだろう。
最もこうして改良した相手に会ってみたい。何をどう考えたらこんな発想に至るのか、聞いて見たいものだが、十中八九勇者のキャスターとか勇者御一行関係者だろう。
「はぁ………ステータス、」
試しに考えて見た術式を言葉にして唱えてみる。
手中にウィンドウが現れる、ウィンと同じ様な文字羅列が現れる。
レベルは35、スキルは良くわからない、
適正は、無し。
「……適正が無いのは、魔法には向いて無いという事か?」
「…………まぁ、そうですわね」
「くひッ、イヤァまさか最高の錬金術師様がァ、どの属性にも適正が無いのはある意味皮肉ですねェ……プハハッ」
ここに来てセーラが言う。
「それでも使えなくは無いんだろう?」
「まぁそうですわね、周りの要素を用いれば可能です」
「まぁなら良いさ、オレには錬金術があるし、研究が出来る位の適正で十分さ」
そうして馬車が止まる。
「もう着いたみたいですねェ」
セーラ、ウィン、カストルに次いで馬車から降りる。
そこには、オレが居た屋敷の10倍程の大きさの建物が有った、メイドが左右に別れ列を作り出迎える。
寸分違わぬ、お帰りなさいませ。が響く。
「……ここがオマエの屋敷?」
「えぇそうですわ、ここがガルムスト家の屋敷ですわ」
超が付くほどの立派な建物。
それを背にしてウィンは言う。
あぁ、性格が残念だけど、貴族令嬢なんだな、コイツも。
と静かに実感した。