7話 いざ行く王都道
夜間襲撃からほぼ毎日、訪れては課題をする為に居座るウィン御一行。
何気に過ごして5日目、眼前でオレの説明を受けていたウィンが改めて言葉を掛けて来た。
「明日の朝に王都に発ちますので、準備をしておいて下さい」
「ん?王都?………あぁ、」
そういえば、そんな話もしていただろうか。
そうだ、情報収集の為、王都に行きたかったのも事実。
であればこの出舟に乗らない手は無い。
正確に言えば、錬金術で風を起こし空を飛べば時間を気にせず行けるが、万が一場所が変わっていたり、などがあったりしたら”今の”王都が何処にあるのか知らない、オレでは辿り着くのに手間が掛かる。
だからこのまま一行に着いて行けば一番確実なのだ。
「あぁ分かった、明朝だな」
◆◆
そう言って一日、朝だ。眩しい光を常に降らせる太陽がその姿を見せて半時も経っていない位に、屋敷の前に馬車が止まる。
「お待たせしました、お乗り下さい」
ユーリの操る馬車に乗り込む。
「どゥも、アルム君」
「よろしくお願いします」
「私がお誘いしたのです、構いませんわ」
セーラとウィンがオレとカストルを迎え入れてくれる。
席に座ると、馬車が動き始めた。
馬車、そして窓枠と外の風景。
シェリット・バートンとの一件を思い出す。
結局、あの後レベルシステムはバートンにより世に放たれた。
恐らくはあの男は大金を手にしただろう。
名誉を手にしただろう。
しかしそれも全ては半世紀近く前の事だ。
だが今も、あのバケモノが生きているのならば
──その報いを受けるべきだ。
いや受けさせる、そうでもしなければ以前として首に感じる、恐怖や死に似た残り香が払拭されないのだから。
「チッ、」
胸の奥がムカムカして来たので舌打ち、一旦忘れる事にした。
再び窓から外を眺めて30分程、静かな空間に耐え切れなくなったのか、それとも単に思い出したのか、向かって斜め前の燕尾、セーラが口を開いた。
「そういえばァ、嬢様はアルム君の事を師匠ゥ言うてましたよね?」
「あぁその事?私の師匠はアルム・セィリム。この人がその人なのよ、ただそれだけ」
「………?イヤァ、アルム・セィリムは50年前の死人ですよねェ?確かに名前も同じで、抜けてる嬢様でも分かる様に教鞭出来る程にィ錬金術にも精通している、けど流石にこのほぼ嬢様と同年代をそう見るのは…………」
「難しいかしら?かつての偉大な錬金術の師、アレク・テレスは言った。錬金術は星を見る。人を見る。その先に待つのは人の進化、と。つまり最高の錬金術師と呼ばれた人、アルム・セィリム様はその力で若返りをして今もこうして生きているのです。………そうなのでしょう?」
と長々しく言ったウィンだが結局こちらに振ってくる。
まぁ、そもそもこの状況になった理由も経緯も話していなかったのだ、仕方ない。
あまり言いたくは無かったが、この際だ。
旅のツマミとして話すとしよう
◆◆
「…その様な事が……」
「有ったのですのね…」
休憩時にセーラと入れ替わったユーリと、ウィンがそう言いこぼした。
セーラは「良い所でェ交代とか止めてやァ、後で教えてくださいよォ!!」と言っていた。
「まぁそんな所だ」
「これからはどうするのですか?」
「シェリット・バートンの事を調べる、死んでいればまぁ良いが、───生きていれば殺す。」
「……そうなのですか?」
はっきり言った言葉にウィンが首を傾げる。
「確かにアルム様の言う事も理解できます、けれど私は感謝しています。おかげで時を超えて有り得なかった事がこうして現実になったのです、本当の師弟になれたのですから」
そう笑みを向けて来る。
「……オレはお前を弟子として認めて無いぞ」
「酷いですわ……昨日も懇切丁寧に教えて下さったのに…」
「あれはオレが見ていてイライラするからだ……どれだけ出来ないんだ、オマエは」
「私は実技専門なのです!」
「だから錬金術は理論も大事だっつーの、何回目だコレ」
はぁ、ため息をつくとすぐ横の静を体現していた筈のカストルが口を開いた。
「四回目です、それにウィン様はもう立派な弟子ですよ、」
「……どういう事ですの?カストルちゃん」
「夜中、マスターが教える事を楽しみに準備をしている所を見ました」
「ブッ……おい?カストル?なんでそんな事を見ているんだ?オマエは」
「星を見る為に与えられたこの瞳、コレの認識能力の高さのお陰です」
「……っ、」
今度グレードダウンでもしておこうか、と思考が過ぎったと同時に、ウィンが
「そんなッ!楽しそうに………準備まで……やはりアルム様を師匠として生きてきたのは間違い無かったですのね!」
「………そういう所が弟子として認めたく無いんだよ、全く、もう少し落ち着く事を知れ、オマエは…」
「照れてますね?マスター」
「んなぁ!?」
カストルからの2撃目の不意打ち、ボディーにヒット。
別に師匠と呼ばれる事がこっ恥ずかしい、とか
誰かに慕われる事が無かった、とか
そんな事では無い。決して無いのだ。
「ふふっ、最高の錬金術師も可愛い所が有って良い事じゃないか、その方が打ち解けやすいさ」
と笑うユーリ、そのの無骨な鎧姿が浮いているが気にする者は居ない。
馬車が和気藹々と包まれ、皆が笑っていると、急に馬車が止まる。
「セーラ?まだ休憩には早いぞ?」
そう扉を開け外に出るユーリの息が詰まる。
「盗賊か……、」
「そうみたいなんやァ、今年もコレやホンマに疲れェわ」
外に出れば、30人程の野蛮人が馬車を取り囲んでいた。
「大人しくしろぉ!そしたら命は取らねぇよ!!」
一人の大男が一歩前に出る。
大斧、バックリと入った顔の切り傷、奴がリーダーだろう。
「お嬢様はここに、私達で対象します………アルム君、力添え、頼めるかい?」
「良いですよ、その方が早くケリが着くでしょうし、何より、少し本気が出したかった」
純黒の騎士とコートを揺らす錬金術師が構える。
「……そうかい、オメェら!!痛い目見せてやれ!!」
リーダーの大男が吠えると同時に怒号を叫ぶ男共が襲いかかる。
「禁縛布ッ!!」
地を蹴り、指を鳴らすと同時に地面から無数の帯布が盗賊達を捉える。
それらを僅か一瞬でユーリが剣で、セーラがナイフで地に伏させる。
コレが一番安全な戦い方だ。
けど、けれど、
「なんか味気ないんだよな!!」
法陣を二つ同時に展開する。
一方は水、そして風。
冷、湿、熱の要素を折り込み、形成する。
「氷槍柱!!」
作りあげた水に、風で冷気を集める事により形成した、巨大な氷柱がリーダー、及びその一集団目掛けて降る。
「そんなデカイ魔法攻撃に当たるかよぉ!!」
「?魔法じゃないが……まぁ良い、」
直ぐに避ける男共、しかし地から氷柱目掛けて4、5程の禁縛布が突き刺さる。
そして氷柱が砕け、避けたと思っていた盗賊団に降り注ぐ。
一応セーラやユーリに当たらない様に配慮はした。
もっとも、盗賊の攻撃を一度も受けて居ない二人には必要ないだろうが。
「ぐッ……このままじゃあ…」
大斧を地面に突き立て、立ち上がる大男。
一方的な攻撃で成す術無く、怒りに血管が浮き出ている。
「まだ終わりじゃ無い、上を見ろ」
オレがそう言うとすぐ様異様な雰囲気を感じて、上をみる。
竜巻、その中で砕けた氷片がぶつかっている。
「学術書で読んだ事があってな、試して見たくなったんだ、雷の原理。簡単に言うと氷の粒がぶつかり合う事で静電する、それの放電現象が雷。受けてみろ!!」
雷鳴が響く、閃光が走り、次に轟音。
閉した瞼を開くと、大斧が崩れ砕ける。
男は近くで伸びている。
恐らく大斧を捨て逃げようとしたのだろう。
金属の塊に雷は落ちる、衝撃と電撃で気絶に誘われたのだ。
「……やり過ぎですわ、」
「でもこれ程の力。流石と言った所ですかね」
「これならァ、アレ?にも役不足では無いでしょうゥ?」
「………何の話しですの?二人共」
「いやァ、ですねェ?」
「学園内での………」
3人が会話している。
「なぁ、お二方?拘束するの手伝ってくれませんか?」
一人だけでするには頭数が多過ぎる。