6話 お話し合い
「何をしているの!!アナタ達!!」
その言葉と同時に皆の動きが止まる。
「何故お嬢様が?」
「何故も無いでしょう?夜中に鎧を着て出て行くのに気付かない訳無いでしょう?」
「………、」
「ッ、」
「まぁ良いですわ、それより”何を”しているのかしら?ユーリ?セーラ?」
「いえ、コレは……」
「ちゃいますねェん……」
「何が?違うのです?」
言葉を濁す2人にウィンが詰める。
「取り敢えず、お話しましょう?」
◆◆
「だぁから!言ったでしょう?背中の打撲は私の不注意だと!」
「……いやしかし、お嬢様の事ですので怪我を口実に課題をやらせて不問にでもしたのかと思いまして……」
ユーリと呼ばれた鎧騎士の言葉、あながち間違いでは無い辺りから、普段の彼女が伺える。
「……まぁ今回の事は互いに有事にはならなかったので、不問にします、勿論アナタ達が私の身を案じてくれたのは理解しています、ですが今後私の命令を無視する様な事があったら、お母様に報告させて頂きます」
「どゥかしましたか?嬢様。何時もならこういう時に何時もの仕返しの様に無理難題を押し付けて来るのに、もしかして後ろめたい事でもあるんですかァ?」
その燕尾、セーラの言葉を無視しウィンがこっちを向く。微笑の影に見える怒りに気付かないふりをする。
「という訳で、ご迷惑をお掛けしました」
「いや、誤解されても仕方無かったし、こっちに実害があった訳じゃ無いから別に良いよ」
実際、オレもカストルも無傷。
「………、そうですわねお詫びと言っては何ですが、王都までの道、ご一緒しませんか?」
「いや別に構わないよ、王都ぐらい………」
詫びは要らないと断ろうとした時、彼女の背後から声が出た。セーラだ。
「何言ッてます?!こんなよゥ分からん奴を。そもそも屋敷はガルムスト家の所有物ですよ!?」
「……セーラ、うるさい。」
「んなァ!?」
正論を言っただけの燕尾が不憫に思える。
「ユーリ、アナタはどう思う?」
「私は、仕える方の命に従います。それに別段王都までの行路を共にする程度なら、問題は無いでしょう」
「ユッちゃん……裏切りおったな……」
「従者として当然。問題が無ければ我々が、横槍を入れる必要はありません」
鎧の横でぐぬぬと燕尾が唸る。
鎧を見て思い出す。
「そうだ、さっき手の部分分解してたな、治すから貸して貰えないか?」
「!出来るのですか?」
「まぁ、分解出来れば再構成ぐらい余裕だよ」
思ったよりも好反応で良かった。
あぁは言って居たけど、根に持たれてたら何だか良い気がしないからな。
かくして、欠けた篭手を借り受けた後外に出て来た。
そして分解で地に穴を作り、篭手を入れてから埋めた。
「何ィしとるんや、そんなんでェ直るんかいな」
燕尾の言葉を無視して、埋めた場所を中心に法陣を書き始める。
「今回は陣を書くのですね」
「あぁ、今回は要素付与以外にも構造が複雑だからな、要素の吸収と付与は陣の方で管理する」
「そうする事で、構造の方に集中出来るのですね」
「そういう事だ」
ユーリの疑問に答え、ウィンが補足する。
要素付与を管理する演算法陣を書き終え、手を法陣の中心に添える。
分解されてないもう片方の篭手を見ながらイメージする。
力を込めて形を形成していく。
「済まない手の平の方も見せて貰えるか?」
「…はい、構いませんよ」
鎧騎士から手を借り、触れる。
若い手だ。しかし幼い頃から鍛練してきたであろうその手は、熟練の戦士を思わせる。
それを参考に内側の形も整えて行く。
十分程、調整を繰り返しようやく終える。
土中から取り出すと、ちゃんと同等の物が出て来た。
「着けてみて」
「……あぁ、」
土をほろい手渡すと、ユーリは手に嵌めて感触を確かめる様に、何度も手を握り込む。
「……どうです?」
「…………ん、いや完璧だよ」
何か考え事をしていたのか、遅れて反応が帰って来た。
そうだ、剣で出来た傷もあった、そっちも直せば完璧だ。
「鎧の方も直すので、貸して頂ければ……」
「すまないが、このまま頼む。騎士としてこの鎧を脱ぐ事は極力避けたいのだ」
騎士道的な精神なのだろうか、と思いながら納得しておく。
「わかりました、届かないのでしゃがんで下さい」
「あぁ、すまない」
実際15歳程の身長でも騎士の身長には及ばない。
元々、あまり成長期を健康的に過ごせた訳では無いので、身長は高く無いのだ。
ユーリは直ぐに片膝を地に着けてくれた。
土を一摘みし、分解しながら胸部の傷跡部分をなぞり、要素を付与していく。
「っ…」
「どうかしましたか?」
「いや…何でもない、続けてくれ」
「いえ、深くも長くも無いのでもう終わりです」
「…そうか、終わりか」
「はい」
「わざわざありがとう」
「いや、出来る事があればする。その方が自分や他人の為になるでしょう?」
「……ふふっ、違いない」
自分の考えを伝えるとユーリは同調してくれる。
力があるなら、誰かの為に使いたい。
昔からだ、だからこそレベルシステムを作った。
最初は自分の力が気になっただけだったが、考えれば誰かの、世界の為になる物だった。
そこから改良し、わかりやすく、広く普及しやすい様にしたんだ。
勇者のお陰とはいえ、認知、活用されているなら嬉しいものだ。
騎士もだからこそ、その鎧を着ているのだろう、誰かの為にと戦うのだから。
「君を見ていると弟を思い出して何だか懐かしく感じてしまうよ」
「そうなんですか」
そう会話を続けていると、声が横から突いてくる。
「随分お仲がよろしい様ですね……?」
ウィンの顔が、怒りか何かでヒクついている。
「この方は私の師匠です!!ユーリには譲りませんのよ!!婚期遅れを気にするのは分かりますけど!流石に出会ったばかりの方は少々……」
「えっ……?ユーリさんってもしかして……」
「この鎧姿故、勘違いされがちですが、一応女です」
「……それは、失礼しました」
「もう慣れてるから構いませんよ、それにそう勘違いされる方が、お嬢様を護衛する身としては面倒事が少なく、便利なのだ。それに別段迷惑が掛かった訳でも無いんだ気にする事は無い」
そう軽く笑いながら彼女は言った。
「そやそや、ワイも真似てェ、男装してみたんやけど、溢れる魅力は隠せんのやなァ?街ィ歩いてるだけで男が寄って来おるでェ?まぁうるさいからボコるんやけど、そんなんやから婚期遅れるんやでェ?ユッちゃん?ハハハハ!!」
燕尾のセーラが胸を張り、とても硬い鎧のユーリの胸を叩き、笑う。
「誰の魅力が無いって?誰が婚期逃してるって?もう一度言ってみろ、裸で屋敷前に吊るすぞ」
「ワイが負けるゥ、思っとるんか?何時の話や。ええわ久しぶりに本気でヤリ合いたかったァんや」
取っ組み合いながら仲良く喧嘩する二人を見ながら、ウィンと一緒に笑う。
夜は深くなって行くばかりだ。