5話 夜空の下で
「………まるで分からない、どうすれば…?」
夜がまだ続く深さの月明かりの下、ベランダでアルム・セィリムはテーブルに広げた紙たちと激戦を繰り広げて居た。
時の静止。
かつて師匠と呼び慕った人が残した原初根源論。
重力と光をも切り裂く伝説の邪竜の爪の粉末。
それ等を用いて作った、いわばお守りだった物だ。
師匠が残した『時の静止』の原型の法陣は複数方向から写された立体的の法陣だったが、どれも紙に書かれて居た。
しかし、どうしても分からない部分があった。
その部分をなんとか埋め、生まれたのがオレ式の時間停止制御法陣だった、が完璧では無かったせいで肉体の50年の停止と5年の遡行が起こってしまったのだ。
しかしそれさえどうにか出来れば、とてつもない力になるのは間違いないだろう。
「だが、それがどうにか出来ないもんなんだよなぁ………」
そう、時の静止を作った時も苦労してようやく出来たのだ。
正直正解だと思った物が間違いだったのだ、改善しようにも師匠が書き残した物だけではどうにもならないのだ。
かと言って原初根源論の文献なんて見た事も無い、師匠の書斎にも無かった。
今の所は改善しようが無いのだ。
「はぁ……」
諦めを吐き捨てながら、資料を空間保存術で隣接空間へと仕舞う。
夜空を見上げる。
無限の星々が煌めいている。
「カストル」
「はい、何でしょう」
「オレがお前を作った理由って何だったけ?」
長椅子に横たわる人形に問う。
そんな事を聞いた理由は、多分わからなくなったからだ。
師匠が居た頃は、わからない事すべてを聞いていた。
けれど師匠は消えてしまった。
それからは、わからない物は自分で、考えた。調べた。解明した。そして最高の錬金術師になった。
けれど、師匠が残した物が、
今こうしてオレをわからなくしている。
だから、何でも聞きたかった。
その問の答えは知っている、作ったのはオレなのだから。
星を見上げる彼女は、静かに答えた。
「ミクロを知る為、マクロを解明する為、ですよね」
「……あぁ、そうだった」
どんな物にも答えがある。
そう再び理解し、心を切り替える。
「っし、そんじゃあ………」
ご飯でも食べるか、と思った時。
視線を感じる、殺意や害意も感じる程鋭いのが。
「カストル……何人だ」
「二人です」
「わかった、直ぐに戻る」
それだけを言い残し、ベランダから飛び降りる。
「出て来い、それとも森の中で燃え尽きる方が良いか?」
それを聞き、夜風に揺れてざわめく木々の中からその二人は現れ、月明かりが姿をはっきりさせる。
漆黒の全身鎧と燕尾服の2人、ウィンの従者だ。
「こんな夜中に何の用だ、これから飯を食べようとしていた所なんだが」
「ナメられたもんですネー、ユッちゃん」
「夜中に訪れた事は詫びよう。しかし、其方にも非があるだろう?」
燕尾に続き、全身鎧が剣先を向け言う。
「何?」
「自覚は無しか、ならば、その身を断罪してくれる」
自身の前に円を書き、そこに黒の鎧が飛び込むと同時に、豪風と化した斬撃が飛来する。
サイドステップで直ぐ様躱すが、頬から血が滴るのを感じる。
さっきまで数メートルは離れていたその巨影は、先まで居た場所に剣を突き立てていた。
「…躱したか」
「まさか手加減してるのちゃうナー?ユッちゃん」
「そんな訳があるか、何時だって全力で敵を払うのが騎士の指名だ」
「はぃはぃ、失礼しましター」
外野からの会話を終え、再び鎧がコチラを向く。
「実力があるのは理解していたが、まさかこの一撃を見切るとは思っていなかった、騎士として名を聞いておこう」
「はぁそりゃあどうも、オレはアルム・セィリム。残念だが剣は苦手でな、錬金術で相手させて貰うぞ」
「禁縛布・五連波!!」
地面を叩くと同時に叫ぶ。
地面中から5枚の長布がその鎧目掛けて飛び掛る。
錬金武具、錬金術を使い制作した武器。
材料は身近にありふれた、土や木を元にしているが、一度分解、再構成をした完全規律の物質並列をしている布故、
「切れない……!!」
飛来する布を剣で叩き斬ろうとした騎士だが、その刃が通らず残りの4撃を受ける事になる。
「ぐぁっ」
中を数メートル飛び、地面に落ちる全身鎧の姿。
それでも立ち上がり、再び剣を構える。
「お嬢様に傷を付けた事に対する怒り、この程度で折れる物ではない!!」
再び円を描き、飛び込む騎士。
剣を振るいながら、高速で飛来するソレに対し、コチラは
「禁縛布・防波壁」
その唱えと同時に呼び出した布を操る。
5枚の布が折り合い、2人を隔てる壁となる。
「くぉおおお!!」
騎士は切り裂く事の出来ない壁に対し、決して折れる事なく剣を振るい続ける。
「なぁ、アイツを傷付ける事をした覚えが無いんだがやめて貰って良いか」
「ふざけるな!!故意だろうが、なかろうが、お嬢様が許そうが、私が!!許せぬのだ!!!」
「そうかよ!!」
壁を解除すると同時に騎士を吹き飛ばす。
「ぐぅぅぅう」
「決め手にィ、欠けてる様なので姑息ですがァ、この子を使わせて貰いますよォ」
目線を声の方に向けると燕尾服が、ベランダの手すりに立っていた。
その手にはカストルの首が握られている。
「………お前、今すぐ離せ」
「あぁ、コワい目は苦手なんで止めて下さい、思わず手から力が抜けそうになっちゃイますヨー」
カストルを持つ手を揺らす燕尾。
そちらに気を取られたせいで騎士に組み伏せられる。
「んもォ、カストルは、要らなッ───オッ?」
カストルを投げ捨てようとした燕尾の腕、そして顔が2本の足により組み付かれる。そしてバランスが崩れた燕尾とカストルはそのまま地面へと落ちる。
しかしカストルは何事も無かったかのように地に立っている。
「私の星読みを邪魔するなら、容赦は無しです」
万能型をベースにしたカストルには一応基礎戦術を入れてはあるが、これ程の物だったかと少し驚く。
「コイツ……鼻ァ折りおったな、絶対ゆるさんからな?幾らお嬢が手出し無用言ったッて、流石に鼻折られちゃァ止めれんわ」
首をゴキリ、と鳴らし、燕尾は袖から鋭い爪の様なナイフを取り出す。
両手8本のナイフ、指の間に挟み込み構える。
「辞めなさい!!流石にそこまでしては駄目です!!ソレはお嬢様のお気に入り、我らの一族に泥を塗る事に──」
「ユッちゃんは黙ってソイツをボコしときィ!!」
「ッ、」
「余所見してて良いのか?」
「!?」
鎧の騎士は下からの声に目を流す。
腕を掴んでいた篭手が赤色粉になり、崩れていた。
「な…にッ……」
「仮にもアイツに仕えてるんだったら、錬金術についても知っとくんだったな」
これ以上の接触は不味いと、騎士はアルムから離れる。
「アダマンタイト合金で出来た鎧を崩す……厄介ですね、しかし隙を与えなければ、良いだけ!!」
「隙?要らないよ」
「何?」
「剣で相手してやる、対抗出来ずに倒すのはアイツの沽券に関わるだろうからな!!」
地に手を叩く。
分解、再構成、要素付与を行い、地中から剣を引き抜く。
「錬金術……厄介だ、だが剣術を知らぬ者に負ける程の力量ではない!!」
大振りの一撃を作り上げた、シンプルの剣で受け止める。
「……何故だ?この剣とてアダマンタイトの剣、そこ等の地中で作った剣など一方的に破壊出来る筈だ」
「そうかもな、だが……」
剣を弾き、反撃する。
「この剣はオレが作ったんだ、硬さだって、切れ味だって、」
剣での防御を切り抜け、その鎧に一撃を届かせる。
騎士はその痕をなぞる。
「傷が……着いた?」
「アダマンタイトクラスで作れない道理は無いんだぜ」
「───ッ、ならば受けてみよ!!我が一族相伝、剣舞・烈旋風!!」
「辞めなさい!!!」
騎士が構えを終えると同時に声がその場に響く。
「お嬢様……!」
「なんで…嬢様が……ここにッ」
燕尾と騎士が止まる。
そこにはウィン、ガルムスト・ウィンという2人の主が居た。