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4話 無許可弟子の憂鬱



カストルが茶を持って部屋に入って来た。

それを見てドレスの少女は酷く顔を歪ませた。

「なんであの子動いてるんですの?」

「オレが命令したからだ」

そう言うと、より歪んだ顔がコチラを見た。


「この子は、アルム・セィリムが作った、彼だけの、人形よ!?なんでアンタが命令出来ているの!?」

「…いやだから言ったろ、オレがその、アルム・セィリムなんだって……」

そう言っても「えー?」みたいな顔を見せるだけで信じる気配は無い。


「はぁ……どうやったら信じてくれるんだよ?」

「それは…………、そうですわ!!」

何かを思いついた様に空間に手を突っ込み、再び物を取り出す。

10枚も無い紙束を机に叩き付ける。


「コレは……?」

「レポート、学校から出されている課題、まぁ取り敢えず、それが出来れば一応認めてあげる」

そう紙をめくると、「魔工錬金術学園・夏季休暇課題」と書かれていた。

内容は、「基本4素を同時、同法陣上で使用する場合の注意、要素付与の反発作用の抑止方法」について3000文字だ。


「このぐらい自分でしろよ、こんな事でオレがアルム・セィリムって認めて良いのか?」

「うるさいですわっ!(わたくし)は実技専門なのです!!」

「いや、理論も大事だろ錬金術は」

「そんな事はどうでも良いのです、何日必要ですの?2日?3日ですの?」

「30分で十分だ、3000文字位すぐに終わる。」

そう言うと、少女は驚いた。

そんな大した内容じゃあ無い、昔研究した事もある。

それでも苦手な彼女から見れば異常なのだろう。


「どうぞ、」

そんな中、静かにカストルが机に2つのカップを置く。

その姿を本当に動くんだなぁ、とマジマジ見つめる少女。



「カステル、ペンとインクだ」

「はい」

「ありがとう」

カステルは直ぐに答え、羽ペンとインク瓶を机に置く。

一礼し静かに部屋の壁際に引く。


ペン先をインクに漬け、紙に書き始める。

「なぁ」

「何ですの?」

「お前、名前は?」

「……ウィン。ガルムスト・ウィン」

茶を一口飲み、少女は答える。


「一つ聞いて良いか?」

「何です?さっきから、一度に尋ねればいいでしょう?」

「さっきオレ(アルム・セィリム)の事、”師匠”って言っていなかったか?」


「ぶっ……えっごっ、っ…それは……」

ウィンは酷く狼狽え、むせる。

「………っ」

まるで纏う真紅のドレスの様に顔を真っ赤に染めて、ウィンはようやく口を開いた。


「昔、お母様が病に倒れた事がありましたの。都一の医者に見せても回復の手立ては見つからず、本当に藁に縋る程(わたくし)は色々な物を試しました。そして、見つけたのがアナタの『エリクサー技術的分析書』でした、それに載っていた薬を飲ませるとお母様は直ぐに体調も良くなり、今ではうるさい位です。それ以来(わたくし)は、アルム・セィリムを師匠と敬愛する様になっていました………まぁ、こんな形で出会えるとは思って居ませんでしたが」

「だからって弟子って勝手に名乗るな」


「別に50年前に死んだ人間の弟子を名乗ったって誰も文句は言いませんでしょう?それに、別に風潮している訳では無く、あくまで心の中の憧れという意味です。アナタの様な子供に興味はありませんのよ」

ふん、と顔をそらすウィン、それに対して「肉体的には同じ年齢で精神的にはオレの方が5年は年上だぞ」と言うと「うるさいですわ、早く筆を進めたらどうです?まだアナタをアルム様として認めてはいないのですわよ」と言い返して来た。


「……まぁ良いけどよ、そうだ、レベルシステムはどうなった」

「レベ……ステータスの事ですか、そういえばその様な研究もしていましたわね」

「ステータス?なんだその名前」

「それこそ50年程前、突然変異した魔物(モンスター)が大量発生して、その時に古代儀式の”勇者召喚”を行ったらしいですわ、それから勇者の技量を調べるのに使われたレベルシステムを見て、勇者はステータスと言った事から、ステータスとして一般世間に知られたのです、今ではほぼ身分証みたいな扱いですわね、まぁギルドや軍では普通に使われているそうですが……」

と、ウィンが説明してくれる。


もっとも、一般に浸透しているならまぁ良かった、これで自身の得意不得意、才能を自己判断出来れば社会全体の向上にだってなる。戦闘関係者にも可能不可能のラインを自覚して貰えれば、無謀による死も減るだろう。

しかし、人の研究を奪って売り捌いたシェリット・バートンはだいぶ儲けただろうな、

それに人の付けた正式名称が浸透していないのがなんだか開発したオレにとっては悔しい。



「そうだ、シェリット・バートンだ、アイツはどうなった」

「えぇ…っと、その人はレベルシステムのスポンサーの人でしたわね、(わたくし)は知りませんわ」

「そうか、悪かった………終わったぞ」

ペンを置き、紙束をウィンに投げ渡す。


「……御早いですわね」

「この程度は学院時代に慣れた、お前はもう少し頭を使え、馬鹿に見えるぞ」

ペラペラめくりつぶやくウィンに、言う。


「うるさいですわ、……まぁ一応アルム様という事にしておきます、」

「まぁそういう事にしておいてくれ、」


そう一段落ついた時、

ドンドン!扉を叩く音が響く。


「……誰だ?」

「…不味いですわ、不味いですわッ!!」

「何がだよ」

顔を真っ青にするウィンに問う。


(わたくし)、一応貴族の娘でして、」

「まぁ、見た目道理だな」

「従者が二人程の居るのです、」

「………此処には居ないみたいだが?」


「夏季休暇なので折角だったら、この屋敷を訪れようと3人で麓町まで来ましたのですが…」

「………」

「……課題が終わるまで、行く事を禁止されたのです」

「…………それで?」

なんだか察しが着くのが嫌だが一応聞く。


「睡眠薬盛って、サボりに此処に来たは良いんですが、アナタの様な想定外と出会ってしまって、時間を取られてしまったのです」

「自業自得じゃねぇか、」

「違います!!少し茶を飲んで戻るつもりでしたのに、アナタがいきなり現れるから!!」

「此処はオレの家だ!どんなタイミングで戻っても良いだろうが」

思わず、逆ギレのウィンに突っ込む。


「今の所有権は(わたくし)が持っていてよ?」

「………」

切り返しに返す言葉が見つからず、無視し、窓際に近づく。


扉の前には二人の姿が見える。

一方は燕尾の様な服を着た、釣り目の女、髪も丁寧に一本にまとめた黒髪故、男に見えなくないが胸の起伏が有る。

更にもう一方は、全身鎧の姿をしていた。まるで王宮で見た騎士の像を彷彿とさせる程立派の鎧姿だ。


「嬢様ァー!!居るのはアガってまスー!!大人しく早めに出て来て下サーい!!今ならユッちゃんも大目に見て、勉強3時間で許してくれル言う(ゆー)とりますヨー!!」

再び扉の叩く音、釣り目の燕尾の方だ。



「………結局お仕置きですわぁ………どうしましょう……」

「おい、レポート持ってさっさと行け、ソレをやる為に一人になりたかったとでも言っておけ」

「………アルム様…」

「人の家でうるさくされるのが嫌なんだ、しばらくは此処に居るつもりだが、オマエ等が来るタイミングには開けておく、さっさと行け」

そう言うと、一礼し、ウィンは飛び出て言った。


「抑える所はちゃんと抑えてる良い子だな…」

「楽しそうでしたね、マスター」

「楽しい訳あるかよ、あんな迷惑そうな子供の相手」

「弟子、ですよ」

「まぁ弟子なんて取った事無かったしな、一応弟子って事にしといてやるか」

訂正するカストルに少し笑い返す。


部屋の壁際にある本棚から一冊の本を取り出す。

流し開き、挟まった一枚の写真を取り出す。


「オレが師匠……ね、」

そう呟きながら、かつて師匠と呼んだ人を思い出した。




明日からは不定期投稿です。

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