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2話 星読みの人形と、見知らぬ少女



………アレから何日だ?

つい数分前にすら感じる記憶を思い出しながら考える。

もし副作用により、オレの身体が時間停止に巻き込まれたのなら、外の時間との差はどのぐらいか、それを知らなければ、時の静止(クロック・フリーズ)を直す時に苦労する事になる。


「ひとまず、外に出ないと何も分からないな、」

岩の中、暗黒の中では何も見えはしない。

外にまだ奴が居る可能だってある、だとしてもこの中に居続けたって、何も変わりはしないのだ。


壁面をなぞり、法陣を書き上げる。

錬金術の基礎、法陣。

それを用いて様々な物を根源物質(プリマ・マテリア)に分解。

それぞれの要素を加え込み、他物質を形成変換する。

が、今回は別に分解だけで良い。


みるみる赤色粉へと変わる岩から光が漏れる。

そのまま外に出ると、周りは草が生える世界に変わっていた。

木々が所々密集して生え、草が広がるそんな世界だ。

最も山岳なのに違いは無いが、とてつもない変化だ。

岩肌剥き出しのゴツゴツしい世界が変わっているのだ。


一体何年の月日が経っているのだ、その感情だけが頭の中を一杯にした。


どうすれば正確な日時がわかる?

そう考えて思いつた時には既に体が動いて居た。


風を起こし空を飛ぶ、これもまた錬金術。

根源物質(プリマ・マテリア)に要素を混ぜ、火水風土、四元素を作り上げ、そこから万物を形成する。

空を飛ぶ事は容易なのだ。


◆◆


馬車で半日かかる距離を一時間もかけず、無事目的地に到着できた。



山の深い森の屋敷、獣道にすら思える薄い道が一本、麓の小さい農村から伸びているが、歩くには長い道のり、そして何より険しい、村人は間違いなく近寄らない。

シェリット・バートンも知らない師匠と暮らした屋敷だ。



地面へ降り立つと、屋敷を見上げる。

未だ変わらずその屋敷は、壁に植物が這え登っていて、屋根は群青(ぐんじょう)色で、二階から伸びたベランダがある。

そこには見覚えの姿が合った。


術を使い、空中を蹴り、ベランダに飛び込む。

そこには長椅子に横になり、空を見る少女の様な存在が居た。


それはアルムには目もくれず、青の空を見続けていた。


「きゃっ、」

小さい悲鳴と共に、陶器のティーカップが落ち、割れる。

おそらくはベランダで飲もうとしたのか、床に広がった液体から湯気が立っている。

それでも後ろの少女は動く気配すらも感じさせない。


「誰よ、アンタ」

尻餅をついた、金髪の、15、16程の少女。

長い金髪に似合う、真紅のドレスに身を包んでいるが、その驚きの表情故か、その美しい顔立ちが勿体無く見える。


しかし何故こんな少女が居るのか?

空を見上げるまるで人形の様な少女は知っている。

だが、このパツキンドレスは知らないのだ。


「こっちこそだ、ここが誰の屋敷か知っているのか?」

「最高の錬金術師、アルム・セィリムその育ちの屋敷よ、出て行きなさい!!ここはアナタの様な()()の遊び場では無いわ!!」


その叫びと共に大きく金の髪を揺らす。その影で横の本棚から一冊の本を取り出す。


その1ページをコチラに向けて構える、そこには見覚えのある法陣が書かれていた。

非錬金術師向けの法陣集だ。微発光と共に陣から旋風がコチラに襲い掛かる。


「それはオレのセリフだ、それにその術がオレに通じるか!!」

僅か一瞬、数センチまで風竜巻が眼前に迫っていたその時、それは同質量の風によって相殺された。


「ッ!……そんな、アルム様の陣なのよッ、()ち負けるなんて!!ありえない!!」

先よりもより力を込めて術を使おうする少女、


「おいバカ!そんな力を込めたりしたら!」

「ふっ、ようやく怖気づいたのかしら?でもアナタには、痛い目を見て貰いますわ!!」

「違うッ!そうじゃ───。」

忠告間に合わず、自身に溢れていた少女の顔は、自分が吹き飛んだ事で驚きに変わり、そのまま後ろの壁に叩き付けられる。

”暴発”した術の旋風が部屋中の窓を割り、ようやくその場は(おさ)まりを覚えた。


「はぁ、……」

ため息をつきながら思う、法陣には力の許容量がある。

それを超えれば暴発だってする。

それに、法陣をまとめた物に直接力を込めると、他の陣も反応する事もある、悲惨な事故になりかねない。


仮にも法陣が使える者なら、その位は理解していて欲しいものだと、少々”今”の時代の危機管理能力を疑った。


少女はそのせいで気絶している。

今の内にと、もう一人の少女に近づく。

依然、長椅子で棒の様に横になっているソレは、


『人形』、だった。

ゴーレム、オートマタ、駆動機、様々な呼称があるそれ等は、錬金術、魔工技術、それぞれの技術の結晶とも言える程の、精密、造形、精度を誇る。

しかし最もポピュラーな言い方をすると、『人形』になるのだ。


そのせいで上級階級の貴族ですらまるで奴隷の様に乱雑に扱うのだ、その癖壊れたら我々製作者に難癖をつけるのだ。

マニュアルは同封している、乱雑、目的以外での使用、自己修理に対する対応、全部が書いてある事だ。実に非合理的行動だ。


その上、「奴隷と人形どっちが安いかね?」だ?

決まってる、どっちも高い。その位自分で考えろ、一族丸ごと滅びろ。



脱線したが、つまり”人形”とは、目的を行う為だけの半機械的半魔法的の生物を象った物なのだ。

そしてこの目の前の空を見上げるだけの”コレ”は、星を観測し、時を見るだけの『人形』だ。


星読みの『カストル』、それが()()だ。

何故知っているのか?そんな事は簡単だ、製作者は俺自身なのだから。


「『カストル』、」

「………、…」

言葉を掛ける、その少女を象った人形はギギギと、した仕草でコチラに顔を向ける。


「カストル?……」

数秒の沈黙、何を思考しているのか、まじまじとコチラをコチラを見つめる。


「お久しぶりです、マスター(アルム様)

「おお、よかった。故障でもしたのかと思ったぞ」

思わず安堵の息が出る、


「いえ、長らく顔を見せに来ませんでしたので、死んだと仮定していました」

「そうか、…」

それだけ眠りに就いていたという事だろう、一体どれだけ、眠っていた?再び言葉にしようとした時、カストルか口を開く。


「それに、大分姿が変わって居ましたので」

そう言った。

「は?」


鏡を取り出すカストル、そこに写っているのは、15、16歳程のオレの姿だった、




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