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プロローグ

 季節は春も終わりに差し掛かり、大型連休が近づいてきた頃。


 中学二年生の教室の黒板前に立つ古文の先生が「今日はここまでにしようか」と言って雑談を始めた。


 一年の時と同じ先生が一年の時から変わらず、妖怪の話を古典的な成り立ちも交えて話している。


 俺はそれを眠たげな眼で外を見ながら聞き流していた。


 先生の話の内容や喋り方がつまらないとかではなく、単にその話題に対して興味がない。


 小さい頃は怪談話で盛り上がる事もあったが、何時からかそういった類の話題に興味を持たなくなった。


 怪奇現象も妖怪もある筈も居る筈もない。


 そんな事は情報が発達した現代社会においては常識だ、と。


 証拠に昔はあっていたらしい怪奇現象などを取り扱うテレビ番組も、今は夏の恒例だという時期以外は殆ど見ない。


 全てはフィクション、昔に起きたブームの一つ。


 それでも意外とその手の話題が好きな人が多いのは、根本的に人は未知の事に対して興味を持ちたい生き物なんだろう。


 誰しも友達の知り合いなんてあやふやな人から聞いたりとされる噂話で未知の世界への想像を膨らませていく、


 例え話の舞台がこの、不思議も何も詰まっていない普通でつまらない世界であっても。


 馬鹿馬鹿しい。


 そう思いながら俺は組んだ自分の腕に顔をうずめた。


 まぁ、そんな物でも同じ空想話なら幽霊の話でもしている方が、前で女子がヒソヒソと同じクラスの女子の根も葉もない噂を話しているよりはましか。


 


 チャイムが鳴る少し前から先生が話を切り上げ、チャイムと同時に授業の終わりを告げた。


 今日の授業はこれで全部だ、クラスの担任が教室に戻ってきて短いホームルームを終え放課後となる。


 前に座る女子二人は、まだ噂話を続けていた。


 はっきり言って内容は聞いていて気持ちの良いものじゃない。


 やった所で意味は無いが、少し強く椅子を鳴らして立ち上がる。


 鞄を持って友人二人が集まっている所に自分も行き、放課後どうするかを話ながらダラダラと教室から出ていった。


 普段と変わらぬ日常、恐らく今年一年は何となしに続けていく風景。


 しかしその日は廊下を歩いている途中、視界の端に何時もとは違う物が映った。


「……犬?」


 廊下の窓の向こう側、学校の別館と言われる所に向かって、黒く長い髪の女性が白い犬を連れて歩いている。


 それだけなら別に気にしなかったかもしれないが、その犬は大型バイク並みの大きさがあった。


 普通なら学校中が騒ぎになってもおかしくない大きな犬は、誰にも気にされずに女性の横を一緒に歩いていく。


「でさ、この前漫画にうちのクラスの……って、おい鷲崎、どうした?」


 足を止めた俺に友人の一人の藤原が声をかけた。


「ん、ああ、向こうに大きな犬が」


「犬?どこどこ」


 俺が外に向かって指をさすと、もう一人の友人の田辺が窓に顔を寄せて外を覗く。


「ん?どこにも見えないけど」


 田辺の言う通り、目を離した隙にその女性と犬は姿が見えなくなっていた。


「あれ、でもさっきまで別館の方に向かって女の人と一緒に歩いていたんだ。見間違う相手でもないし」


「ふーん、じゃあ別館の中に入ったのかもな。何か気になるし、そっち行ってみるか?」


 同じく外を覗いた藤原の提案に俺達二人が同意し、下駄箱へと向かっていた道を逆戻りして別館へと向かっていく。


 別館は下駄箱がある場所とは逆側、教室の前を通って体育館などに繋がる渡り廊下の先にある。


 次第と人通りが少なくなる廊下を歩いて行くと、藤原と田辺がピタッと足を止めた。


「あー、やっぱ俺いいや」


 そう言って藤原が来た道を戻り始めようとする。


「何だ、行かないのか?」


 突然引き返す藤原に聞くと、藤原は頭をかきつつ首を傾げて答える。


「いや、別にただの犬だし別に良いかなって思ってよ。なあ?」


「まぁ、ただの犬と言えば犬だし。僕もやっぱり帰ろうかな」


 そう言って田辺も突然行く気を無くして帰ろうとし始めた。


「行こうと最初に言ったのは藤原だろ、いきなりどうしたんだ?」


 そう聞くも二人は「うん、だって、別にな」と曖昧な答えしか返してこない。


 俺は二人の態度に少し腹が立ってきた。


「二人が行かなくても俺は行くからな」


 そう言えば二人は何だかんだ一緒に来ると思ったが、予想に反して二人はそのままこちらには来なかった。


「どうしたんだ?二人とも急に」


 振り返り再度聞くも、二人とも良く分かっていない顔で首をかしげている。


 その二人の態度に何か妙な雰囲気を感じ取ったが「まぁ良いさ」と先に進むことを決めた。


「俺は向こうを見てから帰るから、また明日」


「んん、ああ、また明日な」


 二人を置いて鷲崎は廊下を進んでいく。


 その先で待つモノが彼の日常を一変させるモノとは知らずに。


 彼は人の気配が感じられない渡り廊下へと進んでいく。

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