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【パスティーシュ】  「シャーロック・ホームズの異世界訪問」

作者: 安倍アキラ

今のところプロローグだけですが、よろしくお願いいたします。

舞台は霧の町倫敦、ベイカー街の下宿『B221』の一室

 

 それは1896年10月、私はこれまでの多くの事件記録を執筆していたが、今年の初めごろからは記録を整理、未発表の事件の中からどれを執筆するか思索した挙句、全く何も書かない月日が続いたある日のこと、わが友であるシャーロック・ホームズが、愛用の陶製のパイプで煙草の煙をくゆらせながら耳を疑う事を言い出した。

「ワトスン、君は妖精というものの存在を信じたことはあるかい?」


あまりに唐突なホームズの発言に驚くとともに、事件解決に関しては誰よりもリアリストである彼のこの言葉に非常に興味をそそられた。

「妖精だって? ホームズ、君にしては珍しい発言だね、確かに興味深いけどこの霧深い倫敦(ロンドン)にだってそんな存在を目にした人はいないんだよ、もちろん本当に居たとしたらなかなか素敵なことだとは思うけどね。」

その言葉を聞くと、待ってましたと言わんばかりにホームズはパイプを置き奥に引っ込み何か引き出しを開けたような音がしたかと思えば、いたずらっ子のような笑みを浮かべて一枚の写真を手渡した。

「写真は真実のすべてを写す訳では無いが一つの真実を明確に写す、ワトスン、コレが何か解るかい?」

手渡された写真を見て、私は驚きのあまり唖然としてしまった。

「何という事だ! ホームズ! これはひょっとして、さっき君が言っていた妖精というものかい?」その様子をホームズは愉快そうに見ていた。

「ワトスン、この間の『あの事件』の時のように推理してみてくれ、君の率直な意見が知りたい。」

ホームズにそう促され、私は改めて写真を観察し始めた、写真の印画紙を保護するために革製の枠とガラス板がはめ込まれたその写真には一人の少年…恐らく少年のはずだが、そこに写っていた。

 「写真には蜻蛉(トンボ)のような羽をはやした少年が映っているね、しかし奇妙だな」

「ほう、それはどうしてかい?」

「この写真の背景が酷く奇妙に見えるね、確かによくある庭園の一角、恐らく葡萄(ブドウ)の木だと思うがその傍に少年がこちらに向かって微笑んでいる、だがブドウの木は大陸の南ではよく見かけるが、英国では庭園の木と言えばブナやカエデだ。」

私の推理を聞いて、ホームズは満足そうに頷く。

「いいぞ、その調子だ…他に気づいた点はあるかい?」

ホームズの言葉に少しだけ気をよくした私は、さらに続ける。

 「という事は大陸に渡った時に撮影したという事になるのだが、私の記憶する限りじゃ、あの「最後の事件」から「あの事件」以来大陸に渡ったという事はない、ホームズ、この写真は一体いつ撮ったんだい?」


その言葉にホームズはニヤリと笑うとマントルピースに置いたパイプを手に取り、再びゆっくりと煙をくゆらせながら

「ああ、これは君と再び会う前、『最後の事件』の後で僕が死んだとされていた時期のものだよ。」


その言葉で、一部の謎が解明できた、しかし、まだ腑に落ちない点がある。

「しかしホームズ、以前あの滝…『ライヘンバッハの滝』でモリアーティ教授との死闘に勝利し生還してから、フィレンツェを経由してチベットへ二年間旅をしていたと言っていたじゃないか」


私はホームズと出会う前は従軍医師としてアフガニスタンまでは行った事があるが、ブドウの木を庭園に植えた場所は記憶して無かった。

「やはり君の観察眼もなかなかだね、提案なんだが、これから僕が話すことを物語として書いてほしいと言ったら、君はどうする?」


ホームズも私が執筆活動を一時的にとはいえ止めていたのを気にしていたようだ、とすればこれは彼なりの気遣いなのかもしれない……ならば友人としてここは応えるべきだろう。

「こんな面白そうな話を書かないわけにはいかないよ、しかし資料はこの写真一枚だけかい?」

その言葉にホームズはニヤリと笑うと再び部屋の奥、寝室の引き出しを漁り、大きなブリキの箱を部屋の真ん中に置いた、ふたを開けると一見ガラクタのように見える奇妙な品物や書類、そして数枚の写真が入っていた、その写真にはさっきの少年とは違う人が映っていた。


「これは凄い! これだけの資料があれば執筆が出来るよ。」


ホームズは箱の中から一冊の手帳を取り出して、私に手渡した。

「これはこの箱の中にある資料にあった出来事を僕が端的に書き綴った日記だよ、恐らく資料を読めば直ぐ分かるだろうけど、この日記が無いと混乱するだろうからね。」


ホームズの言う通り、何枚か資料を読んでみたが、時系列がバラバラで、その時々の事件を書き綴ったらしい資料の背景が別の資料と繋がっていかないのだ、私はホームズがくれた日記の最初のページを読む。

 

 6月のある日、宿泊していた部屋に見目麗しい婦人が訪ねてきてこう言った『私のいる世界で起きた事件を解決して下さいませんか』と。

「ホームズ、この婦人が言っていた『私のいる世界』とは何だい?」

ホームズはパイプ煙草をくゆらせながら、なにか懐かしいものを思い出すような目でこう答えた。

「異世界だよ、ワトスン、此処とは似ているがある意味においては全く違う(ことわり)が存在する世界さ。」


当時、この僕「シャーロック・ホームズ」はノルウェー人の探検家「シゲルソン」としてチベットに向かって旅をしていた、その時はアテネに滞在していて、ギリシャ建築の素晴らしさと共に巨石建築の研究をしていたある日の夜の事だった、ギリシャ人のご婦人がわざわざ僕に会いに来たという、そういえば過去に「ギリシャ語通訳」という事件で兄のマイクロフトと共に事件を解決したことを思い出し、これも何かの縁なのだろうかと面会を了承した、使いは婦人が直ぐにこちらにやってくると言ってきたので僕は慌てて身なりを整え、一階のロビーへ向かうと、既に到着して待って居たらしく

こちらを見るとゆっくりと近づき、品のある会釈をして自己紹介をしてくれた、…婦人の身長はなかなか高く、恐らくは少なくとも6フィートはあったと思う、ギリシャ人特有のふくよかな体型ではなくスラリとした細身の体で肌は白磁の陶器の如く白くその体は白を基調としたロングドレスに覆われていた、胸元にはホーリーシンボルと思われる奇妙な形の首飾り、ドレスの裾は少し茶色く汚れていて恐らくは道路の土埃ではないかと思われた、端正な顔立ちで長い睫毛が特徴的な黒髪の女性だった。

「初めまして、シゲルソンさま、私はセア・バシレイアと申します、シゲルソン様は、このアテネにはどのくらいご滞在ですか?」


 僕は彼女の言葉に耳を傾けつつ、その真意のさぐるべく思案を巡らせる

セア・バシレイアー(王国の女神)ね、恐らくは偽名だろうがそこまでする必要があるという事か? 何かしらの事件の可能性を見出した僕は彼女に対して非常に興味を持った。

「ここには五日程泊る予定ですよ、しかしわざわざ無名の探検家であるこの私を探すとは珍しい事ですね、まあそれはともかく婦人はこの私に何の用事でしょう?」

そう答えると婦人は憂いを含んだやや重い表情でこう答えた。

「此方では些か話しにくい事ですので、お部屋でお話したいと思いますが、よろしいでしょうか?」


やはり、こちらの正体を知った上での面会だったか、しかし自室はギリシャ建築の研究の為に書類を広げたままだったので、使用人に5分ほど待ってから案内するようにと依頼すると直ぐに自室に戻り部屋中に散乱している書類やテーブルの上にあった手紙ををかき集めて大きなボックスに詰め込み寝室に運ぶ、そして一時的に片付いた部屋に婦人がやってきた。

「今晩はホームズ様、今日は折り入って頼みがございますの。」

部屋に入るなりバシレイア婦人は最初から分かっていたかのように僕の本名を呼び、依頼を持ち掛ける、ギリシャ建築の研究は未だ興味の中にあったが、この奇妙なご婦人の相談というものを聞いてみたいという欲求に駆られた、だが先ずは正体が見破られていないと高を括る婦人の鼻をへし折ってやらねば。

「依頼というならば、婦人の本当の名前をお教えいただけませんか? 依頼をする相手に隠し事を貫くのはアンフェアだと思いますよ? 兎も角、現時点で僕が知りえるのは、貴方がギリシャ人などではなく別の国の…というよりも全く価値観の違う世界の人物で、身分は高く、宗教的な場所に長くとどまることが常にあり、多くの信者を抱えている、その地位の高さゆえに少々一般常識に疎い部分があり、緊急の問題が起こると周りが見えなくなる欠点を抱えている、普段は常に監視されており、今回は無断でこちらにやってきた、というところでしょうか?」


婦人は僕の指摘に驚くが、しかし平静を装いこう反論する

「初対面の方でこれ程無礼な事をおっしゃる方は、わたくしあまり存じませんわ、そもそもそれは憶測、推測ではなくって?」


しかし僕は婦人にこう告げる

「あいにくですが、僕は推測はしません、先ほど言ったことは全て簡単な推理によるものです。」

婦人も負けてはいない

「では話してくださいませんか?先ずは私がギリシャ人では無いという事から。」と返す


僕は軽くため息をつくと彼女は怪訝な顔を見せた、ワトスンならもう少しうまく対応したのだろうが、やはりすんなりとはいかないものだ


解り切った事を説明するのは何とも退屈だが、僕の推理能力を証明するためにも言っておかねば

「簡単なことです、貴方の発音はギリシャ人特有の訛りが無くむしろフランス人の発音に似ています、ですがあなたはフランス人ではない、何故か? あなたの胸元を飾るネックレスは恐らくホーリーシンボルと呼ばれるものでしょうが、キリスト教の十字架とは違う別の形に見えることから、貴方は別の国の宗教を信仰していると見るべきです、そしてフランスは一部の芸術を除いて異端を好みません、ですからあなたを別の国の方と判断いたしました。」

この言葉に流石の夫人も驚愕の顔を浮かべる、しかしそこは身分の高い女性の習慣故か、とっさに少し移動して顔が陰に隠れるような位置に立ってからこちらに向き直る、そのせいで僕の立っている位置からは彼女の表情が良く見えない、だがその行動が彼女の心の動きからくる反応であるのは明らかであったので、僕は少し満足していた。






もし、好評であれば続きを書いてみたいと思います。

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