【医療の闇】宇都宮病院事件
【医療者が悪い事して起訴され、懲役になった】事件---です!
今までの事例が〝医療崩壊を語る上で欠かせない事件〟ならば、この事例は〝日本医療・福祉の闇を語る上で欠かせない事件〟です。
舞台は920床の巨大精神科病院、1983年、栃木県宇都宮市にある報徳会宇都宮病院で発生しました。概要は--
『強制入院させられていた精神科患者2人が、看護師に角材で乱打・リンチされ嬲り殺しにされた』
ーーというものです。この組織的な人権軽視・蹂躙の一件は日本どころか世界を震撼させました。
日本政府は事件の以前から世界保健機構(WHO)より『精神障害者の人権蹂躙』についてクラーク勧告を受けておりましたが無視していた経緯があります。
事件発覚後、国連人権小委員会において国際法上の問題として日本政府が非難され、また、1985年には国際法律家委員会(ICJ)が、日本の精神科医療の実態を調査するために訪れるなど、国際問題にまで発展します。
--世界保健機構(WHO)からクラーク勧告
こんな恥を政府名指しで食らったの、2019年現在、先進国では日本だけです。どの位厳重な勧告かというと
《 国連麻薬委員会に脱法ドラッグ(現:危険ドラッグ)の脅威を指摘し、世界各政府の法改正を求める。》
《 中国政府がSARS(重症急性呼吸器症候群)の発症を隠匿し、世界をパンデミックの危機に陥らせた事件に今後の改善を求める。》
こんなレベルです。世界保健機構の介入というのは国際問題に発展するので、それほど重たいものなのです。(※中国は発展途上国扱いです。)
そして調査を行うと、恐ろしい事実が次々明らかになっていきます。
・看護師やコメディカルに診療を行わせる。
・医師・看護師が角材や木刀・鉄パイプ・ゴルフクラブ等を持って歩き回っている。
・反抗的な患者は保護室(隔離部屋)に連れて行き集団でリンチする。
・電気痙攣療法(脳に直接電撃ショックを行う)を罰則として悪用。
・作業療法と称して院長一族の企業で働かせる。
・病院裏の畑で農作業に従事させる。
・ベッド数を上回る患者を入院させる。
・死亡した患者を違法に解剖し、脳や臓器を医大などに転売する。
・比較的知的な患者にX線や脳波機材の扱いを覚えさせ、無理矢理働かせる。
はい、もうわたくし書くのも嫌です。しかし事実です。
何故こんな非人道的な行いがまかり通ったのか?それは当時【精神科病院】が、今以上に【隔離施設】の意味合いを持っていたためです。
法的にも他科と異なり優遇されておりました、医師・看護師の人数は医療法で定められていると以前のエッセイに書きましたが、精神科は適応外で、1/3の人員でOK。
しかも『その基準さえ満たさなくてもいい』と厚生省の医務局長通知があった程です。それ故、どれだけ人手がいなくても〝病院〟として認識されました。
また、閉鎖性が高かったため、患者が助けを求めることも出来ません。病棟には公衆電話がありましたが、患者は金銭を持つことを禁じられており、外部との連絡は不可能でした。また面会には看護師が必ず付き添っており、いらないことを口にしようものならば隔離部屋でのリンチか、地獄の電気ショックが待っていました。
……事実、死亡が判明した被害者の1人は前日に知人へ宇都宮病院の実態を告発し、翌日〝突然死〟しています。
そして、この病院が受け入れる患者は例により『どこの精神科も、家族さえも見放した患者』でした。身よりの居ない精神障害者・薬物依存症患者・アルコール依存症患者・触法精神障害者……そういった患者を積極的に取り入れていました。当時は今以上に、精神疾患患者を受け入れる福祉が皆無で、政府の方針も徹底した『患者隔離収容政策』でした。
流石に世界から非難の目を向けられた日本政府は、精神保険法を制定させます。内容は〝自分の意思で入院する【任意入院】の制定〟などです。……考えてもみて下さい、30数年前まで精神疾患を持つ患者には〝自分の意思で入退院する権利〟すら法的に無かったのです。
当然院長と看護職員は逮捕され、有罪判決を受けています。そして報徳会宇都宮病院ですが--
2019年8月現在も存続しています。530床へベッド数が減ってはいますが、それでも大型の中軸病院として機能しています。理由は……謎です。筆者のリサーチ不足です。
普通であれば国際問題まで発展した病院です。日本政府にこの上無い恥を晒した病院です。解体されてもおかしくありません。しかし、そうはなりませんでした。理由は……謎です。
そもそも、この病院は行き場のない患者を収容する【必要悪】だったはずです。もし充足できるだけの福祉が整備出来たなら、【必要悪】など必要なくなります。しかし、そうはなりませんでした。
理由は……謎です。




