表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
12/35

必要なのはどっちの〝キュウ明〟?

 究明 と 糾明


似ているようで全然違う二つの言葉です。以前ご紹介した〝産婦人科の衰退 ケース:大野病院事件〟において、地裁は判決を以下のように述べています。


「医療行為が身体に対する侵襲行為を伴うものである以上、患者の生命や身体に対する危険性があることは自明であるし、そもそも医療行為の結果を正確に予測することは困難である。死は過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果と言わざるを得ない」


 凄くひっかかる一言がありますね、


〝死は過失なき診療行為をもってしても避けられなかった結果〟


 ……過失なき診療行為ってそもそもなんでしょうか?どの程度なら〝過失ある診療行為〟になるのでしょう?酔っぱらって手術した、だとか、注射する薬剤を思いっきり間違えた、これは〝過失ある診療行為〟として異論はありません。


 しかしながら医療というのは万能ではありません。医者は一目見て身体の異常全てを見抜く神様ではありませんし、看護師だって治療に適切な看護を一目で把握する天使でもありません。


 極論ですが、現在の医療は推測すいそくに推測を重ね、根拠にもとづいて判断しているに過ぎない、〝不確実〟をはらむとても曖昧なものです。万能薬エリクサーなんてそれこそ、異世界にしか存在しません。


 そして医療現場とは様々な医療職にある〝人間〟が患者である〝人間〟を診て・看て・視て回しているのです。人間とは残念ながらミスを犯す存在です。人体とは予期せぬ変調を容易に起こし、呆気なく死んでしまうはかないものです。


・30代の人間がパンを喉に詰まらせて死ぬこともあります。


・ベッドから転落し、頭を打って死ぬこともあります。


・水をがぶ飲みし、水の人体致死量を超え、【水中毒】という症状で死ぬこともあります。


・原因不明の肺炎で3日で死ぬこともあります。


 人生と同じく、人体とは理不尽で不条理です。本当に予期せぬ患者が、予期せぬ理由で、何の手立ても打てないまま死ぬことなど臨床では珍しくありません。


 ……では、上記4つは〝過失ある診療行為〟ですか?


 状況にもよるかもしれませんが、上記4つ、医療裁判に掛けられたことのある事案です。


 

 もちろん再発を防ぐ〝究明〟は必要でしょう。しかし裁判とは〝糾明〟の場です。個人の犯罪・悪事などを問いただす場に置かれた時、医療者としても弁明するしかありません。


 そうなれば事件の〝究明〟はどうなるのでしょう。検証が行われるべき諸問題が存在することは解りました、しかし個人を裁くことで〝諸問題〟は検証されるどころか、あらぬ方向へ飛んでいき、医療者と患者さまに深い溝を作り上げるだけとなります。


 2014年に医療法が改正され、2015年から新たな医療事故調査制度が始まりました。詳細は省きますが、【本制度の目的は、医療の安全を確保するために医療事故の再発防止を行うことであり、責任追及を目的としたものではありません。】とあります。


 それでも尚、医療訴訟に怯える医療者の懸念は払拭されません。ただでさえ他人の命・人生を預かる仕事です、その上民事・刑事訴訟に発展など正直言えば冗談では御座いません。


 また不慮の事故で亡くなった遺族への補償の薄さも問題視されています。現状、遺族への補償とは【医療者に過失があった】場合でなければ受け取れないのです。これが対立を招く原因のひとつであるという指摘もあります。


 本当ならば、〝どんな形であれ、遺族へは補償がある〟というのが理想なのでしょうが、【低コストで高水準の医療】を厚生労働省は求め続けているので、国を動かすのは難しいかもしれませんね。これは〝医療にどれだけお金を掛けられますか?〟というまつりごと……ひいては国民のみなさまの関心が集まることを期待するしかありません。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
産科医療補償制度という、結果が悪ければ過失の有無に関わらず補償される制度があります 産科以外も同様の仕組みを作ろうという流れはあるようですね
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ