誕生日。
なんか話の流れが遅い気がしますね。
無駄なことに文字使ってるような。
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「お母さん、どう?似合ってる?」
「えぇ、似合ってるわ。」
ヘレナがドレスを着ている。
白を基調としたドレスだ。若干赤みがかっている。
そんなにフリフリしたドレスではない。
「ベル、どう?」
「にあってるよ、ヘレナねぇ。これならどんなおとこもイチコロだね。」
「ふふっ、たのしみね!」
ニコニコしてる。
こうしていると可愛い女の子だが、ヘレナは剣に魅了されたらしく、セバスチャンと時々庭で稽古してる。
女の子なのにだ。
本来なら俺がそれをするようになるのだが、まだ俺は三歳だからやっていない。
小さい頃から筋肉をつけると身長が伸びなくなるらしいから。
こっちの世界の顔はあっちのと違ってそれなりなんだから低身長になったら勿体ない。
…彼女つくりたいし。
公立の中学、都内の併願私立高校のあんまり人気のない剣道部、部員は全学年合わせて三人、女子部員の勧誘に鼻の下を伸ばした男部員。臭いからと男ですら寄り付かない部活。
そんな青春を過ごした俺にはもちろん彼女などいるわけがなかった。
この世界は二度目の人生と思って謳歌したい。
…まあ、あっちの世界で死んだのかはまだ分からないけど。
「あとはパーティーが始まるのを待つだけね。あなたの誕生日なんだから、楽しみなさいよ?」
「うん!いっぱい食べていっぱい飲む!」
「ヘレナ、家の印象とか考えなくていいぞ?お前が選ぶ人付き合いなんだからな。」
「わかってるわよ、お父さん。お喋りもしないとね。」
パパさんは偉い人だからヘレナのお披露目会も兼ねてるってセバスチャンは言ってたけど、これって結婚とかにつながるあれだよな。政略結婚的な感じの奴がいっぱい来るってやつ。
…俺がヘレナだったらやだな。
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「ヘレナの七歳の誕生日を祝して、乾杯!」
パパさんが会の音頭をとる。
…ガヤガヤ…ガヤガヤ…
貴族っぽい人がたくさん来た。
でぶっちょなおじさんとその子供。
「初めまして、ヘレナ嬢。アレン家当主の…」
「あー、初めまして…」
「お会いできて光栄です。私は…」
「あぁ、はい。それはどうも…」
ヘレナは貴族の親子に挨拶責めにされている。
…なんか身内がこういう風にされてるの見ると腹がたつな。
なんでだ?
パーティー前に言ってたたくさん食べてたくさん飲むっていうのは難しそうだ。
セバスチャンとソニアは料理の出し入れ等、忙しそうにしている。
俺は三歳児故誰も話しかけて来ない。
「ひまだなぁ。」
「あら、あなたのお姉ちゃんの七歳の誕生日なのよ?もっと嬉しそうにしなきゃ。ほら食べなさい?」
ママさんはニコニコしながら料理を美味しそうに食べている。
お酒も飲んでるらしく、頬がうっすら赤くなっている。
料理は豚?の丸焼きとサラダ、なんかよく分からないやつ、あんまり美味しくないやつ、そしてトマトパスタだ。
あ、後向こうにでかいケーキもある。今の俺の身長を優に超える大きさだ。
一通り食べて満足したため、何もすることがなくなった。
化粧の濃いおばさんも沢山いて、匂いがきつい。
「そういえばおかあさんってけしょうしないね。」
「あら、すっぴんが綺麗じゃないって言うの?」
「いや、うつくしすぎてめをあわせるのがこわいぐらいなんだけど。」
「あら、それは嬉しいわね。」
そういえばママさんの歳を確認しないとな。
…この流れで聞けるかな。
「おれはさんさいでヘレナねぇはななさい。」
「そうね。」
「ここでもんだいです。おかあさんのとしはヘレナねぇのとしのなんばいでしょう。」
「えーと…去年で…だから今年は…で、ヘレナは七歳だから…十七倍と二年ね。」
「…えーと…ひゃくにじゅういっさい?!え?おかあさんなにものなの?!」
「あらエイトールが言ってたけど、本当に計算できるのね。しかも暗算じゃない。あなたすごいわね。」
「いや、あなたがひゃくねんいじょういきてることのほうがもう…」
百二十一歳と来た。十一の二乗歳だ。世界記録更新だ。
ギネス審査員の人呼ばないと。
「…もしかしておかあさんひとぞくじゃない?」
「あら、話さなかったかしら?私は龍人族と人族のハーフよ。だからあなた達はクウォーターよ。」
「りゅうじんぞく?って、じゃあおかあさんはりゅうにへんしんできたりするの?」
ママさんの書庫で龍人族については知った。
龍人族は体のどこかに角が生えていて、龍に変身でき、身体能力高めで、高度な魔術を使うらしい。
最強部族の一つだ。
…でも、角は生えてないな。
「お母さんはハーフよ?龍人族みたいに龍にはなれないわ。角もないしね。まぁ、ちょっと魔素で力むと体の一部が龍みたいにはなるけどね。ほら。」
と、左腕をそっと前に出す。
左腕に鱗と脈打つ血管、鋭い爪が出ている。
淡く光っている。
「…かっこいいね、おかあさん。」
「あら、気持ち悪くない?…お母さんはちょっと嫌よ。」
「それっておれもできるの?」
「やろうと思えばできるんじゃないかしら。ベルは私の血をヘレナより多く受け継いでるみたいだし。」
そうなのだ。
ママさんと俺は目の色から髪色まで一緒なのだ。
「でも、今は無理にしちゃダメよ?今日倒れたばかりなんだから。ちゃんと魔術の練習して魔素容量を増やさないと。」
「まそようりょう?ってどうやってふやすの?」
「毎日毎日魔術を使って少しずつ増やしていくのよ。長い距離を走れるようになるには毎日走らないといけないのと同じね。」
「そっか。じゃあ、あしたからやろっと。」
「あなたは勉強熱心ね。こうやって会話もできるし計算もお母さんたちが教えなくてもできるし。ベルってもしかして天才?」
「いやべんきょうねっしんなんじゃなくてきょうみがあるからやってるってだけだよ。」
「あら謙遜までしちゃって、お母さんは誇らしいわ。」
ママさんが抱きついてきた。
「…やめてよ、はずかしい。」
「ふふっ、もっと喜んでいいのよ?」
正直嬉しい。
いや、女性に抱きつかれるのが嬉しいって訳ではない。
あっちの世界の母親は模試の結果が良かったと報告しても「ふーん、でもまだ上にいるんだから。H高校の子たちと比べたらなんでもないわよ。」とあしらわれた。
上には上がいるのはわかっている。
まだ一位じゃないのだから。
でも褒めてほしかった。
「あらベル、どうしたの?早く食べないとなくなっちゃうわよ?」
「うん。」
いや、わかっていなかったのかもしれない。
勉強しなくてもそれなりに取れてしまった。そんな状況に、偶然の連続に、自惚れていたのかもしれない。
…忘れよう。そんなこと。
今は違う人生を歩んでいるんだ。
暖かい家族、暖かいご飯。
レールを切り替えなきゃ。
「おかあさん、これおいしいね。」
「あら、それお母さんが作ったのよ。嬉しいわ。」
「全然食べれなかったわ…」
パーティーが終わり、お客さんも帰っていった。
ヘレナは疲れた顔をしている。
「ヘレナねぇ、どうだった?たのしめた?」
「楽しめるわけないでしょ?あんなに押しかけられて。水だってまともに飲めないし。もう…」
そこで俺はお皿に切り分けたケーキをこっそり取り出して、
「このケーキおいしいね。」
とヘレナの目の前で食べ始めた。
「あら?今日って私の誕生日よね?」
「?…うん、そうだけど?」
「そのケーキ、ちょうだい。私一口しか食べてないんだから!」
ヘレナに皿を奪われた。
「わー、けものがでたぞー。」
「なんとでもいいなさい。」
…まぁこういうことになるだろうなと思って取っておいたんだけどね。
まぁ、何も言わないのが男だよな。
甘いのそんなに好きじゃないし。
「はぁ、幸せ。やっと誕生日を実感できたわ。」
「あ、あとこれも。おれからのプレゼント。」
「あら、何かしら…羽ペンとインク…何か食べ物が良かったわ。」
えっ…渡した直後に言われると悲しいな。
「あ、ごめんってベル。書きやすそうなペンね。白くて綺麗だわ。気に入ったよ、ありがとう。」
「うん…じゅうごさいのたんじょうびはなにかたべれるものにするね…」
初の女の子へのプレゼントは失敗に終わった。
こういう時は食べ物ね。覚えておこう。
"something to eat"ね。
「そういえば体調は大丈夫なの?」
「へいきだよ。なんともない。またああならないようにあしたからまじゅつのれんしゅうするんだ。」
「そうなんだ。私は今年から学校に行くから少し予習をしないとね。計算とか歴史とか…はぁ、やだな。」
歴史は俺もやだな。聞くのおもしろいけど、テストとかはやりたくない。
だって覚えられないもん。
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ヘレナの誕生日会は終わった。
今はベッドで魔術の本を読んでいる。
…もう一回守護霊の召喚やってみようかな。
あとは寝るだけだしやってみるか。
魔素を感じて…
「えっと…"親愛なる霊よ我が心身を護りたまえ"」
…ニュルッ…
「ワンッ!」
「…。」
お、成功したみたい。
さっきとは違う感じがしたけど。
意識もしっかりして…ないな。
なんか体がだるい。
「クゥン?」
二匹でてきたが、一匹は犬らしくハァハァしてて、もう一匹は大人しく口も閉じてる。
…名前でもつけるか。
「…うーん…やっぱり"あうん"だよな。よし、おまえが"アイヌ"で、おまえが"ウンヌ"だ。」
「ワン!」
「…。」
阿狗と吽狗。
元気でハァハァしてる方が阿狗、おとなしい方が吽狗。
アイヌって北海道みたいだな。確か"人間"って意味だった気がする。
吽狗、うん狗、うんいぬ、ウンイヌ…ウンヌって感じに。なんか頑張って引っこ抜いてる感じがする。
「おまえたちはおれをまもってくれるってことでいいんだよな?」
「ワン!」
元気に吠える。
…いまさらだけど言葉通じるのね。
「じゃあ、あらためてよろしくな。」
「ワン!」
「…。」
俺の手のひらに頭を擦り付けたと思ったらアイヌは消えた。
「え?どうなってんだ?」
「…。」
ウンヌも同じようにして消えた。
すると、
「御主人様、私めの名は今日から改め、ウンヌとなりました。光栄の至りでございます。御主人の心身を護るという任を努力を尽くして全うしたい所存でございます。」
「ごしゅじんさま!わたしの名前は改めて、アイヌになったよ!ウンヌと一緒に頑張ろうと思うからよろしくね!」
「うわ、なんだ?」
「失礼しました。これは御主人様の魔術がまだ未熟なため、御主人様の精神に直接語りかけています。」
「そうなんだ。テレパシーてきなかんじか。おれのまじゅつがよくなったらどうなるの?」
「えっとね、感覚を共有できたり、あとは私達の姿が最適化されるよ。戦いやすいようにね。」
「かんかくのきょうゆうとかすごいな。これはまじゅつがんばらないと。」
「流石御主人様。」
「うん!頑張って!私たちもごしゅじんさまの力がないといざという時に守れないから。」
「あ、そうなのね。」
「はい。御主人様の魔素を利用して体を作ったりしているので。」
「へー、そうなんだ…そういえばまそようりょうをおおきくしたかったらまじゅつをまいにちつかえってママさんがいってたな。ってことは…おまえたちがそとにでてたほうがまそようりょうふやせるんじゃね?」
「うん!少しずつだけどね。」
「…姿を保持したままの方が宜しいですか?」
「…うん。おねがい。」
…ニュルッ…
「ワン!」
アイヌが頭を押し付けてくる。
「頭に触れてくれれば話せるからね、ごしゅじんさま。」
「お、わかったよ。」
二匹とも白くて毛並みがいい。
「じゃあ、おれかみさまのとこいくから、ねるね?」
「了解です。」
「わかった!おやすみ!」
えっと…夕焼け空に鏡のような水面…
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「お、きた!」
真っ白な少年が嬉しそうに駆け寄ってくる。
「本当にママさん百歳超えてたよ。…本当に神様なんだね。」
「そうだよ。やっとしんじてくれた?」
キャピキャピした目で訴えてくる。
「うん、まあな。で、神様が俺の心にいるのには何か訳があるのか?俺も神の使徒として教えを説かないといけないとか?」
「いや、きみのまじゅつできみがじんじゃになったからきてるだけだよ。きみはふしぎなこころをしてておもしろいし、ここいごこちいいから。」
俺の心ってそんなに綺麗じゃないと思うけど。
「神様も外の世界へに出ればいいのに。アイヌとかウンヌが出れてるんだからできるでしょ?」
「アイヌ、ウンヌ?…あぁ、あのこたちね。できるけど、ぼくはかみさまだからそんなにかんたんにでちゃダメでしょ。」
「なんで?」
「なんでって…なんでだろ?」
「神様って言っても喋れるし、自我があるし、自己と他人とを認識してるし、ほぼほぼ人間だろ?もっと自由に楽しく人生を送ったらどうだ?」
「いや、ぼくはオオガミ、ばんぶつのかみなんだよ。だからふよういにそとにはでちゃダメだとおもうよ…で、そこでなんだけど…」
「お、どうした?」
「ぼくとともだちになってくれない?なにかたいかをはらうからさ。」
「友達は対価を払ってなるもんじゃなくないか?」
友達になるために何かを差し出すってなんかちがう気がする。
「え、じゃあどうすれば…」
「友達っていうのは自分が相手の友達になった時点でもう対価を貰ってるのと同じことだ。苦しみや悲しみを共有できるし、八つ当たりできるからな。」
「え、それっておもってたのとちがうな…」
人と付き合って嫌な事があったり、面白かったりする、それが人間関係の難しいところだよな。
嫌だからって突っぱねたりするのもなんかちがうような気がする。
「…まぁこんな大口叩いてるけど、友達は片手で数えられるぐらいしかいないけど。」
俺には小、中、高校でそれぞれ親友と呼んでいいやつが一人はいた。
…まぁ奴らが俺のことをどう思ってるかはわからないが。
小学校の時はオオカワくん、中学校の時はマツマエくん、高校ではサイトウくんだ。
彼らは総じて頭がいい。
頼り甲斐がある奴らだ。
だからそれなりに頼って信頼していた。
昨晩は母親がマンドリルみたいな顔をして怒っていただとか、父親のくしゃみが臭かっただとか、この問題解けるだとかたわいもない話を唯一できる存在だった。
「"友達は数じゃない"か…」
ぼんやりと覚えている小学校低学年の頃の担任がそんなことを言っていた。
「…わかったよ。じゃあぼくもきみにいやがらせしたり、わざとピンチにさせたりするからともだちになって。」
「うん…なんか真正面から言われるとなんか違う気がするな。」
「よろしくね!」
そして俺は神様と友達になった。
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「貴志っていつも勉強してるよな。」
「え?俺はいつも興味あることしかしてないよ。小学生みたいに。」
「お前のそういうところ尊敬するわ。」
「いやぁ…尊敬されるような人間じゃないよ、俺は。」
「…ただいま。」
「…俺はお前と離婚してもいいんだぞ?!」
「それとこれとは話が違うでしょ?!」
「…またか。なんで結婚したんだよ、ほんと。」