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ピー  作者: はなまさ
2/7

赤ちゃん検定一級

————————————————————————

「おぎゃぁぉぎゃあ…うぁう…おぎゃぁ…」

「お母さん!元気な男の子です!ほら。抱いてあげてください!」

「はぁはぁ…よかった…ちゃんと生まれてくれたわ…あなたの名前はベルナルドよ…ベルナルド・コックス…いい名前でしょ?」




わたし、ヘレナにおとうとができた。

名前はベルナルドだって。生まれたてのあかちゃんだ。

かおはしわくちゃ。でもかわいい。

かみのけのいろはおかあさんとおなじでちゃいろっぽい。めのいろもおかあさんとおなじ黄色だ。すごいないてる。

わたしもああだったのかな…


「おかあさん、みして、みして〜」

「…あら、ヘレナいたのね…ほら…」

「おぎゃぁ…おぎゃぁ…」


おかあさんはベルナルドをうんだから息がはぁはぁしてる。


こどもうむのってそんなにつらいのかな。

わたしもうむのかな。

いたいのやだな。


「かわいいわね、ベルナルド!さすがわたしのおとうとだわ。」

「…ふふっ、あなたが産まれたときのお父さんと同じこと言ってるわよ?さすが俺の娘だって…」

「だってほんとにかわいいもん!」

「…あなたの弟よ。可愛がってあげなさいね…髪と瞳の色は私と同じね…でも、顔立ちはなんだかんだでお父さんと似てるわ…ふぅ…やっと落ち着いてきた。」

「だいじょうぶ?おかあさん?」

「えぇ、大丈夫よ。なんたってあなた()()のお母さんなんだから。」







————————————————————————







おかあさんはべつのおへやにいった。きょういちにちはゆっくりやすんでほしいな。


わたしはいまおとうとのようすをみにいこうとしてる。おおきななきごえがきこえるからだ。


ガチャッ。


ベルナルドがないてる。


「おぎゃぁ、おぎゃあ…おぎゃあぉぎゃあ…!」

「どうしたの、ベルナルド?おかあさんがいないからさみしいの?」

「おぎゃあおぎゃあ…おぎゃあ、お、お…」


わたしはおねえちゃんなんだからしっかりしないと。くびがすわってないからだっこしちゃダメだっていわれたしどうしよう。


…なんかくさい。おもらししたのかな?


「おもらししたのね?ちょっとよんでくるから待ってなさいよ?」

「おぎゃあおぎゃあ…おぎゃあ、ぉぎゃあ…」


メイドさんたちをよんでこよう。


「おぎゃあ…おぎゃあ…おぎゃあ……」


…それにしてもよくなくわね。わたしもああだったのかしら。






————————————————————————







二、三分すると布と桶を持ってさっきの女の子とメイド服のお姉さんとサル顔の男の人が入ってきた。

…よし、彼はセバスチャンと名付けよう。

てか、メイドさんいるとか金持ちかよ。


お姉さんが俺を抱き上げ、そのすきにセバスチャンが俺のおもらしを綺麗に処理していく。

ひとしきり拭き終わると、彼は桶に向かって手をかざして何かささやいた。


「hdoeh sjroehvs hdisiv…bdjevrk!」


…何してるんだ?まさかお湯が手から出てくるとかないよな?…え?まじで?まじでお湯出てくるの?…まじで?!魔法使えるの?変な手品じゃないの?…どっかにあるポットにチューブ繋がってたりしない?


…周りを見てもそんなのないな…まじか…これってやっぱりネット小説とかみたいに異世界に来てるのか?

前の世界で死んだのか?


…まだ夢から覚めてないってことは…無いかなぁ…


まぁいいけど。全く痛くなかったから。


でも魔法とかいいな!俺も使えたりするかな?転移の代償に使えないとかないよな?


おっ、ドライヤーみたいな感じのもできるのか。便利だな。気持ちいい。


「ndisish jdisns.bdiwsodj bdusidi piau.」

「bdusi pale nwj.beiso vdiw.」

「bdusi.」






お兄さんとお姉さんは女の子になんか言って出て行った。女の子は背が低いから俺の赤ちゃん用ベッドの横に椅子を持ってきて、俺をじっと見てる。


…そんなに見んなよ。俺は見世物じゃねえぞ。


そう思っていると、椅子を降りてどっかに行く…と思ったら絵本を持ってきた。表紙に見知らぬ文字と竜が書いてある。


ずっと思ってたけど、この言葉はどこの言語なんだ?もし異世界だとするなら知る由も無いが。なんか英語っぽい文字だな。でも発音は全く違うし。


フランス語に聞こえなくも無いけどな…フランス語ってeとuの違いわかんなかったなぁ。高一の時、独学してやろうと思ったけど。


「vdifof bdhdidbe bdo.csywh vsgab behs.」


…ごめんよ。可憐な少女よ。何を言ってるのかさっぱりだ。


たぶん表紙とか中の文字からして文字ひとつひとつに意味がある日本語みたいな感じじゃ無いな。多分英語みたいな感じ。


文章の構成はどうだろう。SVOなのかSOVなのか。はたまた全く違うのか。






どれほど時間が経っただろう。窓の外は茜さす夕空。

夕焼けチャイムは鳴らない。

紫式部はこんな景色を見ながら「秋は夕暮れがいいのよねー」って言ってたのだろうか。


彼女たちが話してる言葉はさっぱりわからんし。

女の子途中で寝ちゃったし。

おーい、起きろー。


「あーぅ、あーぅ…」

「bdur …vduf bshs.」


あ、起きた。腹減ったな。なんか食べたい。

…また泣かないとダメかな…泣くの疲れるんだよなぁ。


ガチャッ


「vdufje,hrjfirnr crildp.bfitot.」


セバスチャンが入ってきた。なんかいい匂いする。婆ちゃんのミネストローネみたいな。トマトの酸味のある匂いがする。パリパリのフランスパンと一緒に食べると美味いんだよなぁ。食べたいな。

でも俺赤ちゃんだし。そんなの食べていいのか?母乳とかじゃないか?たぶん。


「casr novss cho.」


セバスチャンはなんか言って俺を抱き上げ、扉の外へと出ていく。女の子も一緒に来た。





…それにしても広いなぁ。こんな建物入ったことないぞ。強いて言うなら中学生の時に行った国会議事堂みたいな雰囲気があるな。薔薇みたいな花も飾ってあるし。

窓は大きいし、数多くて開放感がすごい。外見ても電柱とか電線とかないな。


「cdstyh ccstgvv.」

「xfgb.cxstgl.」


大きな扉の前でセバスチャンが女の子に何か言ってる。


扉の隙間から見えたのは長いテーブルにロウソクと花、華、花。


そしてちょこんと一人前のスープとパンとなんかの肉。さっきの匂いはやっぱりこのスープだな。美味しそう。サラダはないのかな。


…このテーブルで女の子一人か。かわいそうだな。教育に悪そう。


女の子はニコっと笑いながら手を振って部屋に入って行った。


俺はセバスチャンに連れられて別の部屋へ。





部屋には修学旅行のバスの中で眠そうにしている女子みたいな顔をしてる女性がベッドに座っている。



俺は女子と相席にされたりすることがわりとあった。

「小山くんなら大丈夫でしょ。何考えてるかわかんないけど。」とか言われて。


…俺、男として見られてなかったのかな。

寄り掛かられたりして後ろの席の友達にスマホで写真撮られたりした。


…あいつ消したよな、あの写真。



ベッドの横の机には先ほどの部屋で見たスープとパン。


「bdigie hwk.haiq bdusj.」

「…bshsh bdkp lla.tehe.」


セバスチャンが俺をその女性に抱き渡した。


髪はこげ茶で目は黄色くキラッとしてる。真っ白な素朴な服を着ている。

…ふつくしい。


「bdhsk.bdjwkw vshejw.」


もちろん何を言ってるのかわからない。

…でもこの体の母親のような気がする。なんでだろ。



その女性はそっと俺を抱き上げ、自分の服の肩のところをそっとずらして、片方の乳房を出した。



え?


「bfeeo.」


…え?俺に吸えって言ってるのか?

この彼女いない歴イコール年齢の俺に?

ちょっとそれは早いっすよ。もっと、こう、ね?お話とかして、相手を分かった上で合意してからそういうのはしないと後々に色々問題になるし…


モニュッ。


いや。押し付けないで。俺のタケノコが…たたない。え?まじか。たたないのか。そうか。


まぁ俺はまだ赤ちゃんらしいからな。そういうことなんだろうな。


モニュッ。


あー、これまじで吸っていいのか?

うーん…

てか吸わないとこの状況終わらなくね?

腹も空いたし、なんか俺の体がどこかで母乳を欲してる。


モニュッ。


…わかりました。吸います。吸いますから。


我、小山貴志、十八歳男子、乙女座、第一志望大学は国立S大学、今、意を決して女性の象徴に口をつけることをここに宣言します。あぁ、慈悲深き神よ、どうかこの罪を許してください。アーメン。


はむっ。ごくっ、ごくっ、ごくっ。


…悪くない。いやむしろ美味だ。うん。なんだろう。牛乳とはまた違う。なんかさっぱりしてるな。うん。


「curmdp bxjwiw?」


何言ってるかわかんないけど、美味いよ。あんたの。今まで飲んだことない感じだよ。


ごくっ、ごくっ、ごくっ。





五分ほど飲み続けた。お腹がいっぱいになった。


ごちそうさまでした。


でもなんか苦しい。なんだろう。この胃のあたりがふくれている感じ。


俺の母親と思われる女性が俺の背をなでる。


…けぷっ。


おっと、失礼。げっぷがでた。

家族以外の女性の前で明らかなげっぷをしたのは初めてだ。


「vsueirj bash.ndjehw bshs.」


何か言って、俺のママさんは俺の頭を撫でた。


ちょっと恥ずかしい。高三にもなって頭を撫でられるのは。


でも悪い気はしなかった。


気付けばセバスチャンはいなくなっていた。



…眠たい。このまま寝てしまおうか。もしこれが夢なら今度こそ覚めるだろうし。うん。そうしよう。



夕焼けに染められた部屋で俺は眠りに落ちた。









————————————————————————









…ゴソゴソ…


俺は目を覚ました。


…うん。やっぱり俺の枕の匂いがしない。


隣のベッドにママさんとあの赤い髪の女の子が寝てる。


まだ起きるには早いらしく、窓から月明かりがほのかにさしている。


体はやっぱり赤ちゃんのままで思い通りに動かしにくい。


…もう一回寝ようかな。うん。そうしよう…


…うん?誰かいる?…首動かせないからよく見えないけど…目が黄色く輝いてるな…ママさんの目に似てる…


あ、消えた。


…え?消えたってどういうこと?…

寝ぼけてるのかな?

まぁ異世界だったらありかな…怖いな。


まぁ、二度寝するか…











…ゴソ…ゴソゴソ…


…眠れないな。寝ようと意識すると眠れないよな。いつもは仰向けに寝てたっけ。いや左に転がってたような気もする。


立てないかな?


ゴソゴソ…


足は一応動くな。でも立てないな。


…もどかしい。












そんなこんなで明るくなってきた。


「vsheir jdiwi.」

「vsheir jdiwi.」


隣のベッドで寝ていた二人も起きた。


…今のがおはようの挨拶だったのかな。


「vsheir jdiwi.」

「vsheir jdiwi lfodo.」


俺にも言ってきた。


「あぅ〜、ああ…」


返事をしようとしてもやっぱり言葉にならない。早く喋れるようになりたいな。


人見知りと言っても知り合いがいない場所だと逆に喋れる系の人見知りだから話したくてうずうずしてる。


俺は自覚してるけどおしゃべりな部類に入ると思う。

あと、寂しがりや。


人見知りで寂しがりやとかタチ悪いよな。


ママさんの表情は元気になってた。

回復魔法とかあるのかもしれない。




俺はその後一度もらして、泣きわめき、授乳された。


…しょうがないだろ。赤ちゃんなんだから。







日が高く昇った頃。


バンッ!


一人の男が息を切らしながら俺のいる部屋に入ってきた。


俺を見るなりそおっと抱き上げた。手はゴツゴツしている。豆があるみたい。剣使うのかな。


「case.vhiklvgh.ddfgbh!」


安心したような顔をして、何かつぶやいた。

するとすぐにニコニコ嬉しそうにしてる。

表情筋が忙しそうだ。


…どっかで見た雰囲気だな。

あー、赤い髪の女の子か。


この男の髪の色も髭まで赤だし、目も同じ色してるし。ってことはあの子のお父さんかな。


バタンッ。


あ、ママさんだ。


「cadrt.cgiioo detcghh.」

「zdtghj.cfggh hhhhjj.」


ママさんこの人と知り合いなのかな。すごい親しげに話してるし。なんか距離近いし。


…あ、男がママさんのほっぺにキスした。…え?そういう仲なのか?…じゃあこの男はママさんの彼氏…いや、旦那さんで…ってことは俺のパパさんか?


あ、女の子も入ってきた…あー、じゃあ、俺の妹になるのか?…あ、姉貴になるのか。


…ややこしいな。











そんな日々を…どれぐらいだろうか。一週間と三日まで数えてそれからめんどくさくなって数えてないが…半年経ったかなぁ?


言葉は理解することはできたが、まだ発音は難しい。「トイレ」「ごはん」「おはよう」ぐらいは伝わってるかわからないが言えるようになってきた。

指差しながら言えば大体伝わる。

俺の名前はベルナルド、ママさんはソフィア、パパさんはエイトールで姉貴がヘレナ。ファミリーネームはコックスみたいだ。セバスチャンはエイメン。もう一人の女のメイドさんはソニアというらしい。


…まぁセバスチャンはセバスチャンだな。


あとは反復練習だ。英語の勉強と同じ。

日本語みたいに脳内翻訳しなくても喋れるようになるかなぁ。



歩くのはもうちょっとかかりそうだ。毎日トレーニングはしている。

ハイハイは難なくこなせるが壁に沿わないと直立二足歩行はできない。早く部屋から出たいなぁ。


赤ちゃんってすごいよな。

だって独学、参考書なしで一言語使えるようになって、歩き方も自分で模索するし。

ホモ・サピエンス万歳!!


検定試験みたいだよな。

赤ちゃん検定みたいな。

俺って一級取れてるのかな。






…夢は覚めそうにない。

信じられないが現状そうなのだ。




俺は異世界に来た。







>——————————————————————<







「ねぇ、ちょっと触っていい?」

「…いいけど。」

「ハハッ、ほんとにお肉だな」

「…痛いから離してもらってもいい?」

「えー、いいじゃん。もうちょっとだけ…あ、我慢比べってどう?俺がつねるからどれだけ我慢できるかってやつ。」

「…。」


グリグリッ…グリグリッ


「…何本気で我慢してるんだよ、キモッ。」

「…。」







「…ただいま」

「おかえり、貴志…何そのあざ?どうしたの?」

「なんでもないよ。ただ遊んでただけ。」


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