決意
歌声があった。
幼い少年の声だ。狭く身を寄せ合って、内緒話のようにささやく歌声は淡い緑色になって彼と彼の友を包んだ。
外に声が漏れてしまわないよう、二人ぼっちの音楽界は毛布を引っかぶって行われた。
優しくテンポを落として歌を終えた少年を、友人は手を叩いて賞賛する。
「すごいよフォルテ! 楽譜を一目見ただけで歌っちゃうなんて!」
スラーは純粋にフォルテを尊敬のまなざしで見ていた。
それがなんだか照れくさくて、当時六歳のフォルテはスラーの顔もろくに見ずにもじもじと毛布のすそをいじった。
「すごいのはスラーだよ。こんなにきれいな曲が書けるんだもの。ぼくはその通りに歌っただけだよ」
「ぼくに作れるのはただの紙っぺらさ。誰かに演奏してもらってはじめて音楽になるんだ。君はすばらしい歌い手だよ」
いつだってスラーはそうだ。誰にその才能を褒められても浮ついたりはしなかった。
歌が好きなフォルテにつられて、スラーはいつしか即興で短い曲を作ることを趣味にした。そしてフォルテはスラーが作って来てくれた曲を歌うのが日々の楽しみだった。
フォルテは居心地悪くなって、まだスラーの額の上に残っている【力ある音】を眺めた。
「今日の曲は、とってもきれいな緑色だね」
「音に色があるの?」
「どんな音にだって個性はあるさ」
「ぼくには見えないな。君の審美眼にはかなわないからね。でも、緑色っていうなら心当たりがあるよ。こないだ美術館に行ってきたんだ」
何でもないことのように言うので、フォルテはぽかんと口を開けた。
それがおかしかったのか、スラーはくすくすと笑う。
「ぼくは音楽家じゃないもの。展覧会にくらい行くさ」
「くらい、だって? 父上にばれたら怒られるどころじゃない! スラー、そんなことよそで言っちゃだめだぞ!」
スラーの家は貧しい商人だった。母親がスタッカート家の使用人をしていたので、時々フォルテと年の近い息子を連れてきていたのだ。
身分の違いなどフォルテは気にしなかった。
音楽に境界はないと信じていたから。
「もちろん。君だから教えたんだよ、フォルテ。ぼくの誠実な友。ぼくの頭の中にも君の声に負けない楽器が音を鳴らしているけれど、そいつを奏でるには刺激がいるんだよ。前にみた絵がとてもすばらしい風景画でさ。浅葱色の田園風景なんだけど、近くによると風の音が聞こえてくるんだ! 建物の中にいるのに大自然に囲まれているようでさ。ぜひ君にも見せてあげたかったなあ」
「だからこの曲を?」
「あの絵の壮大さを表現したつもりなんだ。気に入ってくれたかな?」
フォルテのために書いてくれた曲だ。気に入らないわけがなかった。
何度も頷くフォルテに、スラーはほっと息をついた。
「良かった。絵をもとにした曲なんかいらない、なんて言われたらどうしようと思ってた」
「そんなこと、思うもんか。君が作った曲だもの。でも、今度絵を見に行く時は気を付けるんだよ。作曲家が造形派に関わりがあるなんて思われたら、君の身に危険が及ぶかもしれない」
「ぼくは君のそういう所が好きだよ、フォルテ」
スラーはにっこりと笑った。
◇
心優しい少年は、あっという間に大きくなって天才作曲家と呼ばれるようになった。同時にフォルテも王都で名をはせるようになっていたから、二人で世の音楽界を開いていくのだと互いの顔を見合わせて意気込んだものだった。
思えば、不幸はこの時から始まっていた。
二十歳を目前にして、スラーが病に倒れたのである。
決して珍しい病ではなかったが、生まれつき身体の弱かったスラーは病を直す薬の副作用にさえ耐えられなかった。日に日にやつれていく友を、フォルテはただ見ていることしかできなかった。
「フォルテ、ぼくが死んだらさ」
見舞いに行ったある日、ベッドに横たわっていたスラーがふいにそう切り出した。
その横顔は陶器のように白くて、今にも壊れてしまいそうだった。
「縁起でもないこと言わないでくれ。君は良くなるさ」
「言うだけならタダだよ。いいから聞いてくれないかな」
いつもはおっとりしているスラーが、この時ばかりは強情に譲らなかった。
フォルテは根負けして、椅子を引っ張ってきてスラーの枕元に腰かけた。
「なに?」
「うん。ぼくが死んだら、いつも遊んでいた樫の木の下を掘ってくれないか。君とぼくの友情の証がそこにある」
「えぇっ友情をそんなところに埋めてたの?」
素っ頓狂な声を上げたフォルテに、スラーは破顔してくっくっと身を震わせた。
「昔、君の歌を聞いていた時に思いついて書きとめた曲が、そこにある。組合の誰も知らない未発表作さ。それを君に持っていてほしいんだ」
「でも、知っているだろう? 楽譜の管理は組合が全部管理してる。ましてや君は、偉大な作曲家なんだよ。持っていてほしい、なんていうけど……」
と言いかけて、フォルテははっとしてうつむいた。
「ごめん」
「いいさ。君の言う通りだよ」
スラーは頓着せず天井を仰いだ。
一言しゃべる度、スラーの体力は奪われていく。
汗のにじんだ額をタオルでぬぐってやると、スラーは言葉少なに礼を言った。
息を整えてから、話の続きを始める。
「ぼくがその曲を、今日まで君に存在さえ知らせなかったのはね。その曲がきっと、無形派の人たちに認めてもらえないだろうと確信していたからなんだ」
フォルテは目を見開いた。
なにかスラーは、とんでもないことを告白しようとしている。
あわててフォルテは部屋の窓や扉を閉め切った。新鮮な空気はせき止められ、代わりに静寂が室内を覆う。これで外に声は漏れないはずだ。
ここまで周囲に目を光らせたのは、互いに名もない時代にこっそりと開いた毛布の中の音楽会以来だ。フォルテの父は今でこそスラーの実力を認めてはいるが、当時はしょせん平民だとフォルテとの交友関係を快く思ってはいなかったから。
「まさか……また絵をもとに?」
フォルテがささやくと、スラーは力なく首を横に振った。
「近いけど違うよ。君があの楽譜を見つけた時、きっとぼくの言っている意味が分かる。……ぼくはね、フォルテ。昔からずっと思っていた。音楽も絵や彫刻も、突き詰めたらみんな同じところに辿り着くんじゃないかって」
窓を閉めておいてよかった。他の芸術家などに知られたら、きっと世にも恐ろしいことが起きる。
「スラー……君は一体、何を考えている?」
「君が考えている通りのことだよ、フォルテ。芸術は人の心を映し出す鏡みたいなものだ。人の心を具体化させるのが造形芸術なのだとしたら、人の心の無限性を表すのが音楽。この二つは相反するようでいて、実はとても似ているんだよ。それなのに、いつまでもいがみ合ってるなんて滑稽じゃないか」
「造形作品と音楽が、同じだって? 本気で言ってるの?」
途方に暮れた顔をするフォルテに、スラーは悲しげな目を向けた。
「君は小さい頃から音楽だけに囲まれてきたものね。だけど、音楽の世界から一歩外にいるぼくには分かるんだ。芸術なんて、上手下手で決まるものじゃない。それを鑑賞した人が何を思うかが重要なんだって。ぼくはね、万人の気を引く奇をてらった作品や、優越感にひたるための勇ましい作品なんか本当は書きたくないんだよ。わざと曇った鏡を作るようなものだ。ぼくは本当に書きたかったのは……」
突然スラーはむせこんだ。
水を飲ませようと身体を支えたフォルテは、強い力で腕をつかまれた。
苦痛にゆがむスラーの目が、しかとフォルテを見据える。
「あの楽譜は、ぼくの夢そのものなんだ。頼む、フォルテ。あれをただの紙切れなんかにしないでくれ」
「スラー……」
「頼む」
スラーは懇願した。
しばらく彼の顔を見ていたフォルテは、ためらいがちに首肯した。
そうすると、スラーは本当に安心したように力を抜いたのだった。ベッドに身を沈め、大きく息を吐いて。
「ありがとう、親友。おかげでぼくの心残りはたった一つだけになった」
聞き返す前に、スラーは眠るように目を閉じて小さくつぶやいた。
「君の歌う姿が見られないことを、本当に残念に思うよ」
それから三日後、スラーは自身の名声からは程遠い所でひっそりと息を引き取った。
◇
フォルテは顔を上げた。がらんと静まり返ったとらねこ亭の景色。どうやら知らぬ内にテーブルに突っ伏して眠ってしまっていたらしい。
伸びをしようとして腕を上げた時、肩からブランケットが滑り落ちた。
誰かが気を利かせてかけてくれたのか。
「おはよ、ねぼすけ」
誰もいないと思ったホールに、一人だけいた。
中央のテーブルに腰かけ両足を組んでいる、とらねこ亭の歌姫の姿が。
「爆睡だったじゃねぇか。お気楽なもんだ」
「コシュカ…」
彼女はお気に入りらしい炭酸ミルクのグラスをくゆらしていた。フォルテの顔を見もしない。
その緋色の髪はうなじ辺りですっかり切りそろえられていたが、肩に当たって外向きに跳ね始めていた。
「他の人は…?」
目が覚めてから引っかかっていた違和感の正体にやっと気が付いた。
静かすぎるのだ。
四六時中満席御礼のとらねこ亭が、暗くなったにも関わらずこんなに静寂に包まれている。
「店なら日暮れ前にとっくに閉めた。店長命令なんだよ。コンサートは中止。明日も……別に来なくていいって」
乱暴にグラスをあおるコシュカ。
「君は帰らなくていいのかい?」
「どこに?」
問われた意味を悟るのに、時間がかかった。
「まさか、君、家がないの?」
ようやくコシュカは背もたれから身を浮かせて、こちらを向いた。
不機嫌そうに研ぎ澄まされた翡翠の視線がフォルテを射抜く。
「驚くことじゃねぇだろ。別に孤児なんてめずらしくもねぇよ。ラグだってそうだし。親がいたって、帰る場所があるとは限らねぇ。メニなんかはどこぞの令嬢だったらしいけど今じゃ立派な家出娘。カルミナは昼に見た通りだ。ガレキ通りにゃ、そういう居場所を失ったはみ出し者がごまんといる」
東西の繁栄を光とするなら、時間の停滞したガレキ通りは影のようなものだろう。
壊れたら壊れっぱなしの建物、争いごとを見て見ぬふりをする自警団、酒と汚物の匂いがまじる雑多とした大通り。まるで町のど真ん中にある、大きなゴミ箱だ。
だけどそんなゴミ箱も、人が集まれば立派な町になる。
「とらねこ亭はさ、あたしらみたいなはぐれ者にとっちゃ家みたいなもんなんだよ。こんなやかましいトコだけど、ここに来るといつも帰ってきたって思える。あのステージの上がこの世でたった一つ、あたしの居場所なんだ」
どんな境遇でも、ここでは一切関係ない。貴族だろうが貧民だろうが、酒の前ではただの一個人だ。
足を踏み出すだけで、とらねこ亭は温かく迎え入れてくれる。
コシュカがこれまでどんな人生を歩んできたかなどフォルテは知らない。しかし、彼女がとらねこ亭を心の底から愛しているのだということだけは分かった。
コシュカだけではない。ラッグも、メニも、カルミナも、コラットも、とらねこ亭に特別な想いがあるのだろう。
「なあ、ヘタレ」
「フォルテだけど」
「いいじゃん。あんたさ、歌手なんだろ」
「だったんだよ。もう音楽家じゃない」
「今でもそう思ってんの?」
改めて尋ねられて、フォルテは躊躇した。
迷いをたたみかけるように、コシュカは思いもしないことを口にした。
「歌ってよ」
「は?」
「なんかレパートリーあるんだろ。どうせ誰も聞いちゃいねぇ」
「で、でも」
「でも、なに?」
「いや、だって」
「……」
「……」
「だぁぁぁっ、もう! ぐじぐじ鬱陶しい、このヘタレが!」
突然イライラが爆発し、コシュカはテーブルをぶっ叩いた。
びしっと指を突き付け尊大に命じた。
「いーから、歌えっ!」
「はいっ!」
ついぴしりと背筋を伸ばしてしまうのはヘタレの性か。
とはいえいきなり言われて、何を歌ってよいものかも分からない。
必死に頭をひねっている内、思いつくより先にある旋律が口からついで出た。
小川のせせらぎのように流れる三拍子。のどの奥から久々に出てくる歌声は少しばかり頼りなく、しかしそれでいて静かな短調を紡ぎだす。
自分の声から生み出された【力ある音】が空より深い青をしているのに気が付き、これがずいぶん昔にスラーが作った曲だったと思い出した。
確か、テーマは〈深海のしじま〉。
夜闇にさざめく波の音、星明かりの冴える静けさ、水平線の下ひっそりと寝静まる海を歌った。それは時に子守唄のように優しく、時に無関心を装って冷たく、移り変わる自然の姿そのものであった。
小手先の表現など考える必要はない。
スラーの目が見た海の情景を、ただ思い浮かべるだけでいい。フォルテの心はスラーと重なる。いつか熱心に語ってくれた景色、美しさ、そしてスラー自身の思いを【力ある音】に乗せる。
気が付くとコシュカは目を閉じフォルテの歌声に耳を傾けていた。
夢のような一時は、あっという間に終止線までたどり着いた。
「あの……どうかな?」
いつまでたってもコシュカが喋らないので、フォルテは心配になって尋ねた。
彼女は目を開ける。
「フォルテ、さあ」
初めて名前を呼んだ。
コシュカは顔をしかめ、感想を述べた。
「見てくれはいいし、歌もうまいのに、なんっかおしいんだよなぁ」
八割褒められたはずなのに、ちょっとショックでよろめいた。
(おしいって、どういう意味!?)
「それで食ってただけはあるぜ。悔しいけど、やっぱ血筋ってのはあるのかね」
ぶっきらぼうにコシュカは言った。
その中に失望の色を聞き分けて、フォルテははっとした。
「ひょっとして、気にしてるのかい? アヴェ=マリアに言われたこと」
「別に。あたしが芸術家の血を引いてないことは事実だし。あの女はいつもそうなんだ。あたしの顔見るたび嫌味を言ってきやがる。音楽家でもねぇあたしが歌姫名乗ってんのが気に食わねぇらしい。確かにあの女から見りゃ、あたしの歌なんざガキのお遊びみてぇなもんなんだろうよ」
グラスを傾けかけて、中身が空っぽなのに気が付きコシュカは舌打ちする。
「あたしがどんなに歌っても【力ある音】は出せない。審美眼もないから、音を見ることもメニほど作品をうまく利用することもできねぇ。結局、歌姫なんつっても名ばかりだ」
想像以上に昼間のことがコシュカの心にのしかかっているようだ。そうでなければ、フォルテなどにこんな気弱な言葉を漏らしたりはしないだろう。
短くなった緋色の髪を見て、フォルテは胸が痛んだ。
「聞いてもいいかな? なぜ君は、歌姫になろうと思ったんだい?」
コシュカの緋色の瞳が揺れた。
「あたしが歌ってんのが、そんなにおかしいかよ」
「そうじゃない。でも、君だって気まぐれで歌姫を名乗っているわけじゃあないだろう?」
そう尋ねると、コシュカは押し黙った。
次に唇を割った時、彼女の声はかすれていた。
「別に、あたしはもともと歌姫になりたかったワケじゃねぇよ」
言ってしまってから、コシュカは早口で続ける。
「ただ、金のあてがほしくて、仕事探してた時にラグのヤツが『じゃあうちで歌ってみたら』って……。あたし昔から性格こんなだし、ムカつくことがあったらすぐ手ぇ出るし、全然働くのって向いてないって思ってたけど、ただ店の隅で歌うくらいならできるかなって……そしたら」
「人気、出ちゃったんだ」
コシュカは小さく頷く。
「最初は冗談じゃないって思った。着飾んのもバカらしいし、歌姫らしく可愛くふるまうのなんざ虫唾が走る。でも、いざ歌ってみたらさ……みんな喜ぶんだよ。あの歌良かった、感動した、元気が出たって。そうやってる内に、なんかあの安っぽいステージに立つのが……その、楽しくなってきて。あたしが出てきたら、みんなが口笛吹いて手ぇ叩いてくれる。歌い終わったら、また明日も頑張れるって帰ってくれる。歌うのだって別に……嫌いじゃないし」
コシュカの言葉が尻すぼみに小さくなっていく。
「ぼくの親友が言っていたよ。芸術は上手下手じゃない。それを聞いた人が何を思うかこそが一番大事なんだって。君はすばらしい歌姫だよ。ぼくが保証する」
スラーの言葉の真意がやっと分かった。
【力ある音】を出せるかどうかなど二の次だ。誰のために音楽を奏でているか、それこそが芸術なのだ。
コシュカは目を見開いた。
そして、ラッグとよく似たしぐさで髪をかきむしり、顔をそむける。
「……ありがと」
「え?」
「聞こえただろ! 二度も言わねぇぞ!」
ぱちりと瞬きをした後、フォルテは満面の笑みを頭一つ分背の低い少女に向けた。
「礼を言うのはぼくの方だ。君のおかげで、やっと決心がついた。ラッグはまだ店にいるかな?」
コシュカは厨房を指し示したので、フォルテは空っぽのグラスを持って足を向けた。
「なんだよ、店員が板に付いたんじゃねぇの?」
「自分でもちょっとそんな気がしてきたよ。この件が終わったら、正式に雇用契約結ぼうかな」
コシュカはにやりと笑った。
「うちは厳しいぞ? なんてったって、天下のとらねこ亭だからな!」
ラッグは火を落とした厨房のかまどを掃除していた。昼間暴れすぎたから店長から罰をくらったのだと気恥ずかしげにもらした。
「ラッグ、あなたの人脈をお借りしたいんです。明日の朝、ガレキ通りに残っている人たちをとらねこ亭に集めてもらえませんか」
フォルテのお願いを聞いたラッグは、渋い顔をした。
「今からかぁ?」
「三十、いえ、二十人いればいい。屈強で、芸術家に反感を持っている者。戦う意思のある方々を」
「へえ?」
ラッグの片眉が上がる。
「ずいぶんすっきりした顔つきになったじゃん。決めたのかい?」
「ああ」
フォルテは強く頷いた。
今まで自分はずっと逃げてきた。
戦うことを避け、人を傷付けることを恐れ、自分を守るために言い訳を続けてきた。
だけど、もし争いが止められないのなら。
もし逃げることで誰かを傷付けてしまうというのなら。
自分は、もう逃げない。
フォルテの覚悟が固いのを見て取り、
「わあった。片っ端から声かけてやるよ。二十と言わず、五十は集めてやる。ちょうど今日の騒ぎで芸術家に痛い目見せたいヤツは増えただろうからな」
快く了承してくれた。
「ありがとう。それから、厨房のものをいくつか借りても?」
「調理器具なら倉庫にも中古品があふれてる。好きに使えよ」
フォルテが奥の倉庫をのぞくと、たしかに木箱につめられた山のようなカトラリーやフライパンなどの器具があふれていた。
指で弾き、その鈍い金属音を聞いてフォルテは何とかなるだろうと算段をつけた。
「作戦は?」
尋ねたラッグに、フォルテは肩越しに不敵な笑みを浮かべて見せる。
「ガレキ通りの流儀をあなたに教えてもらった。強行突破と」
スラー、君との約束を果たすよ。
こんなくだらない争いは、ぼくが止めてやる。
次回は8月31日23時に更新します。




