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通学路は不思議なことがいっぱいです

【通学路シリーズ】--人面犬を飼う男

作者: 白石らいおん

※【通学路】シリーズ第二弾!

 応援ありがとうございます!

 よろしくお願いします!

 朝起きて学校に向かう途中で、空から美少女が降ってきた。

 --と、もしそんなラノベみたいな話が本当だったら、今日の遅刻もきっと許されるだろう。

 しかし、そんな話がなくても、今朝俺が本当にあったことを話せば、皆さんもきっとこの遅刻は仕方のないことだと頷いてくれる。


 人面犬って知ってる?

 伝承や都市伝説に出るアレだよ。人の顔を持つ、犬。

 俺は今朝、その人面犬に会ったのだ。


 いつも通りに6時に起きた。そして時計が6時半を指した時に俺はすでに家を出た。

 信じてくれないかもしれないけど、俺は決して寝坊はしなかった。

 通学路の三丁目にある、あの赤い屋根の家に住む若い夫婦に聞けばわかる。

 その夫婦はとても仲がよくて、毎日6時半くらいになると、いつも一緒に家を出て会社に行っていた。

 だから、「時間厳守」をモットーにしている俺も、ほぼ毎朝その若い夫婦と「おはようございます」を交わしていた。

 しかし、今日その夫婦はきっと証言してくれないと思う。なぜなら、俺は今朝、その夫婦と会わなかったから。

 本当は最近ずっとおかしいと思ったよ。いつも同じ時間に会えるはずなのに、最近は全く会わなくなった。たまに会えたのも夫だけで、奥様のほうは本当に、半年近く姿が見えなかった。

 もちろん、皆さんも知っての通り、俺は学生でり、学校に行く義務がある。たとえどんなおかしいなことがあっても、俺はまず自分の責務を果たさなければならない。

 だから、今朝の俺はそのことをちっとも気にせず、あの家を素通りしようとした。

 ーーが、その時、俺は「ぎゃぁ」という、なんとも言えない奇妙な鳴き声を聴いてしまった。

 声の元を探して、俺の目はあの家へたどり着いた。

 正直、最近その夫婦と会わなくなった理由は、俺もいくつかの可能性を考えたことある。

 たとえば一緒に休みをとってどこかへ旅行に行った、とか。同時にどこかへ出張された、とか。

 でも、今その声を聴いた俺がまず思ったことは、--「空き巣!?」である。

 家には誰もいない。なのに、声が聞こえる。これは空き巣の可能性が大であると見た。

 もう一度言うが、俺は学生である。よって学校に行く義務があるのだ。

 しかし同時に俺はこう思った。

 --俺が学生である以前に、一人の国民でもあるのだ。国民だったら、社会の安全を守るのも、また責務である。

 社会の安全をほったらかして、自分の成績だけ大事にしている「エゴの塊」を育つことは、決して学校が望むことではない。

 俺は社会の安全を守る使命感に駆けられて、その家へ覗き込んだ。

 カーテンが開けっ放しなので、小さな庭を通り越して、あの家のリビングがはっきりと俺の目に映る。

 すると、俺は見てしまった。

 --人の顔を持つ、小さい犬が一匹いる、と。

 もふもふした毛並み。ロイヤルミルクティーのような毛色。人面犬に品種は何種類あるか、そもそも人面犬に種類という概念があるかどうかはわからないが、強いて言うなら、秋田犬に見える。

 そう、もしその犬が振り向いてくれなかったら、俺はあれをただの秋田犬と思い込んだのかもしれない。

 まるで俺の目線に気づいたように、犬は俺のほうへ振り向いた。俺はその顔を見た瞬間、思わず息を止めた。

 糸のような細い両目。その真ん中のちょっとしたに、僅か赤みがかかった小さな鼻。更にその下には、真っ赤な唇が見える。

 まぎれなく、人間のそれと全く同じだった。

 そして、何よりも俺を驚かしたのは、その人面犬の口の周りに、赤い何かが染み付いていることだった。まるで何かを食べた跡に見える。

 見つめられていることに恐怖を感じた俺は思わず目をそらした。人面犬ではなく、俺はそのリビングの様子を観察してみた。

 人間が住んでいるとは思えないほど、散らばった部屋だった。

 俺も昔一度だけ、その家に招かれたことがある。あの時のことを思い出すと、あんなに家を綺麗にしていた夫婦がここまで放置するとは思えない。

 まるで本当に、空き巣に会った家のようだ。

「おい、またかよ……」

 また声が聞こえた。俺はすぐにそれが夫の声だとわかった。

 そして思った通り、夫がぱたぱたと、慌てた足音を立ててリビングに駆け付けた。

 夫の声は、すごく焦ったように聞こえた。

 人面犬を抱き上げて、ティッシュで人面犬の口を拭く。

 俺は目を細めて夫のほうへ見ると、彼の目の下には、酷いクマが付いているのを気づいた。

「また食べてしまったか! 早く吐きなさい! ……それは食べ物じゃないと言ったのに」

 夫がその人面犬の口を拭いたティッシュに、濡れた赤い何かがついていた。

 俺は夫のほうをじーと見つめた。

 酷い寝癖としわだけ毛のシャツ。夫の姿は清潔感の欠片もなかった。しかし、夫が人面犬を見つめるその目は、なぜか一種の愛情が含まれたに見える。

 なぜ夫がああなった? 奥様はどこだ? 人面犬が何を食べたか?

 俺には何も知らなかった。そして考えなかった。それを深く考えてはいけないような気がしたから。

「よしよし……すぐに朝ごはんを用意するから、大人しく待ってよ」

 夫がそう人面犬に話しかけると、俺の鼓動がさらに加速した。夫の様子からすると、まるで夫があの人面犬を飼っているようだ。

 考えないようにしていたが、俺はどうしても、あの恐ろしい考えをやめられなかった。

 --確か、前にこの家に入った時、夫は料理ができないと言ったはずだ。

 どうして料理ができない夫が朝ごはんを作ると言った? ーー奥様が作らないからだ。

 どうして奥様が作らないのか? --作らないではなく、作れないのかもしれない。

 だとしたら、どうして奥様が朝ごはんが作れないのか? --今、奥様がいないから。

 そして最後に、奥様がどこにいたのか。俺はその答えを見つけるために、目をリビングの中に泳がせた。

 すると、なぜか俺が最後に留まった場所は、まだわずか赤みが残っている、あの人面犬の唇だった。

 家にこもる夫、姿が消えた奥様、人面犬、赤い唇……そして、食べる。

 俺はそれらの言葉を何回も反芻して、やがてあることに気づいた。

 --そういえば、夫は朝ごはんを作るとは言ってなかった。夫は用意すると言った。

 用意するって、どういうことだ?

「誰だ!?」

 とその瞬間、夫は俺の存在に気づいた。


ーーーーー


「ちょっと待て。夫に気づかれたお貴様はその後どうやって学校に来られたんだ?」

 話の途中で、先生は俺にそう訊いた。

 今日も俺は遅刻したので、先生に遅刻の理由を皆の前に説明させられたのだった。

「俺だったと気づいた夫はその後、俺を家に入れてくれた。俺は朝ごはんを食べてなかったからついでにそこで朝ごはんをいただきました」

「いや、それじゃなくて、人面犬は?」

 先生の方もかなり人面犬を気にしているらしく、俺にその人面犬の正体を問い詰めた。

「それが俺の勘違いみたいですよ……でもこれ見て」

 俺は自分のスマホを出して、先生とクラスの皆に見せた。

「あの夫婦は1年前に子供が生まれたので、今は会社から産休をもらっているのだ。だから奥様は最近ずっと家にいて、子供の世話をしているらしい。--で、これがその子供の写真。可愛いでしょ? この犬の着ぐるみパジャマは奥様の手作りだってよ」

 写真に映っているのは、秋田犬の着ぐるみを着て、指をしゃぶる赤ちゃんだった。

「確かに、可愛い……」

 意外なことに、先生も俺の賛同した。

 よし! これなら今日は許してくれるかもしれない!

「そうよね! でも子供を持つのって結構大変みたい。この赤ちゃんはお母さんの口紅が大好きで、よくそれで遊んでいるみたい、うっかり食べたりしないかなとその夫婦はいつもはらはらしていたらしいよ。昨日の夜中にも。赤ちゃんが何回も夜泣きしたから、よく眠れなかったと奥様が言いました。だから今日はちょっと寝坊したみたい」

 へい、親って大変だねとクラスの皆が共感してくれた。

「そうそう、でもあの夫婦は本当に仲がいいんだよ。夫のほうも会社を休んで一緒に子供を世話するから、奥様が助かりましたと言ったのさ。ーー本当、朝からラブラブな夫婦が見れて、今日は二重な意味でごちそうさまでしたよ」

「確かに、そういう男がいれば女性としては助かる。--はい、次の授業始まるぞ。席に戻って」

 やった! 今日は席に戻れる!

「ありがとうございます! --先生も彼氏と上手く行くように応援します!」

 と俺はそう言って席に戻ろうとした。

「ちょっと待って」

 振り向くと、先生の顔はなぜかさっきとは全く違って、暗くなった。

「貴様の席はそっちじゃない」

「え? どうして?」

 先生の晴れない顔を伺って、俺は「うん?」と首を傾げた。

 --おかしいな、さっきまでは機嫌よさそうなのに。

 すると、クラスメイトの一人が小声で俺に言う。

「ねぇ、先生は昨日彼氏と別れたみたいだよ」

 --知らねぇよそんなこと!

「あの、先生。--大丈夫です! 大人の女性の魅力もわからない男なんて、損したのはそっちのほうだよ」

 どうしよう、先生の目がさっきより怖くなった。

「せん、先生! 笑顔ですよ笑顔! 常に笑っている女性は若く見えるってテレビも言いました!」

 やばい……こんな怖い笑顔初めて見た。

「俺、先生のこと応援します! 次! 次こそいい彼氏をゲットしましょう!」

 応援したのに、なぜか先生の眉間がしわがさらに増えた。

 俺は慌ててもう一度スマホを出して、赤ちゃんの写真を見せた。

「ほ、ほら! 可愛いでしょ? --この可愛さを免じて」

「ふむ。確かに、これは可愛い」

「じゃあ」

「でも、貴様は可愛くない。--廊下に立ってなさい!」


 ということで、俺は今日も廊下に立たされた。

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