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月のいちもつ

作者: 村崎羯諦

 十月初旬の夜。縁側に二人の男女が仲睦まし気な様子で座りながら、煌々と輝く満月を観賞している。夜の静寂に混じり、庭から鈴虫の声が聞こえていた。


「知ってるかい?」


 男が女に話しかける。


「あの丸く大きな月にも、人間で言うところのお尻があるんだ」

「そうなんだ」


 女は男の肩にもたれかかりながら相槌を打った。


「月の表面にはたくさんのクレーターがあるだろ? そのうちの一番小さなクレーターのちょうど中心が穴になっていて、そこは月の体内につながってるんだ」

「全然知らなかった」

「そして、だ。月のお尻のすぐそばには月のいちもつがついている」


 女は肩から頭を離し、大きく目を見開き男を見つめた。


「全然知らなかった。月って、女性っていうイメージがあったけど、実は男なのね」

「そうだ。神話とか民話では、月を女神のイメージでとらえることが多い。だけど、そんなものは科学的じゃないね。なんてったって、男性の性器がついているんだから。もしかしたら両性具有って可能性もあるけど、さすがにそれはないだろうし」


 女性は男の話に楽しそうに耳を傾ける。


「もちろん、それがあることで不都合なことも起きる」

「不都合なことって何?」

「尿管結石さ。尿管があるせいで、人間と同じように、月も時々尿管結石に苦しめられる運命を背負ったんだ」


 女は月へと視線を移し、憐れむような表情でじっと満月を見つめた。


「悲劇的ね」


 男は女の言葉にその通りだねとうなづく。


「月の尿管から出てくる石は意外に人間のやつと変わらないんだ。大体、直径数ミリから数センチ程度ってところかな。だけど、食べてるものが違うからなのか、重力が違うからなのか、出てくる石はガラス玉のように透明なんだ」

「ねえ、その石は月から排出されたあとはどうなるの?」

「いい質問だね」


 男は満足そうに笑った。


「月のいちもつから出た石はまっすぐ地球に向かうんだ。そして、地球の公転軌道上に浮かんだあと、地球の重力に引っ張られる。だけど、大気圏に突入すると同時に、燃え尽きちゃうんだ。つまり、流れ星になるのさ」

「へぇ、初めて知った」


 女は宇宙の神秘に目を輝かせた。


「じゃあ、私が小学生の時に願い事を託した流れ星も、もしかしたら、月のいちもつから出た結石だったのかもしれないってこと?」

「そうかもしれない。でも、本当にそうだったら、逆にものすごく貴重だね。滅多に見られるものじゃないんだから」


 男と女は嬉しそうに笑い合い、そして、そのまま口づけを交わした。

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