どこかで私が泣き崩れても、もうあなたは気づかない。
私には仲の良い男がいる。
付かず離れず。友達以上恋人未満。自分達でも特別な存在と認識している相手がいる。
「鈴音」
「ん、なに?成宮」
そんな彼に。最近気付いたことがある…
「斎藤知らない?」
「……」
視線の先が私ではなくなったこと。
「斎藤さんなら、さっき廊下にいたよ。まだ帰ってないんじゃないかな?行ってみたら?」
優しく笑いながら言う私は意地っ張りだ。
「そうだな…行ってみる」
いま止めなければ、彼は私から去ってしまう。
途端に止めたくなって、腕を掴む。
「うおっ、どした?」
「………頑張れ」
「ふっ、お前も気をつけて帰れよ」
頭を撫でて離れて行く彼。
嫌だ嫌だ…行かないで!と心は悲鳴で一杯なのに、可愛くない私は笑顔を貼り付ける。
「成宮君、告白するのかな?鈴音、ちょっと寂しい?」
「そんなことないよ!成宮いい奴だからね。幸せになってくれればそれでいいよ」
「お母さんかっ!」
そうやって仮面を被ってる間に彼は変わってしまった。私が意地を張らなければ、きっと今は違った。
「(トイレ…行こう)」
胸が苦しくて辛い……。
成宮は良い男だ。
きっと斎藤さんもOKするだろう。
次に会う時は、私ではない人の彼氏になっている。
「ずっと、私のこと好きだったくせに…」
違う。
ずっと目を背けてきたのは私だ……。
彼が好き。どうしようもなく好き……
「いま止めたら…今、あなたが好きだと言えば……」
もう一度振り向いてくれる?
『どこで私が泣き崩れても、もうあなたは来ない。』