「歌舞伎者の街」 第7話
俺は、じっと修の眼を見つめた。
「・・・うっ、うぃっす。 だっ、大体の見当はついていたっす。 封筒を渡された時、重さをあまり感じなかった。 ・・・少し振ってみても、何にも音がしないっす。 自分は、ビニールに小分けされた白い粉を想像したっす・・・」
「覚せい剤か・・・」
「いや、本当にわかんないっす。 これはヤバい物だとは想像ついたんですが・・・。 だから、知らないまんま渡しちゃえば良いや・・・って、そう思ったっす。 それが、こんな事になるなんて・・・!? イテッ、イテテテッ」
修は腹の所を押さえて、顔を歪めた。
朝食は、大体摂り終えた。
スクランブルエッグにベーコン、トーストに胡瓜が1本だったが、何故だかセンスの良さを感じた・・・が、話はまだ続く。
「こうなる事は、容易く想像ついたはずだ」
「・・・いやぁ、結構すんなりいくかと・・・!? イテッ」
今度は、俺が包帯してある頭を叩いた。
「馬鹿かお前は。 こうなる事は想像出来た。 その理由は2つある。 1つ目はこの封筒・・・、大体取り引きというのは、ブツの中身も現金も受け取る相手が確かめる。 なのにこの封筒は、完全に封がしてある・・・って事は、取り引きする相手とは、信頼関係ができている。 それにもう1つ・・・、そのお前の友達は、相手の名前をお前に言っていない。 普通は偽名を使うだろうが、今回はそれすら必要無かったのだろう。 話を聞いた限り、この2つの点から、お前の友達は売人だ・・・、それも顧客を持った売人。 その取り引きに永成会が噛んでいればいいが、噛んでいなかった時、永成会としては面白くない。 なんせ自分達の縄張りで、自分達の知らないヤクが流れてるんだからな」
修は、口をポカンと開けて、阿保面を曝した。
「・・・なんだ?」
俺は、阿保面を曝した修に聞いた。
修は、ハッとして、首を小刻みに振りながら言った。
「いやっ、凄いっすねぇ~。 あれだけしか話してないのに、そんなにわかっちゃうっすかぁ。 はぁ~、やっぱ兄さん違うわ~」
修は腕組みをして、うんうんと頷いたが、包帯している方の腕が少し痛むらしく、眉間に皺を寄せた。
「お前、馬鹿にしてんのか?」
「!? 何言ってるんですかぁ~。 そんな事、ある訳無いじゃないですかぁ」
「俺は探偵だ。 これぐらいの事は解らなければ、この業界で飯は食えない」
「あっ、なるほど・・・って、えっ!!! 探偵ーーーっ」
とうとう修の顔は、阿保面を通り越してしまった。
「何を今更驚いている。 表に看板があったろう? 不動探偵事務所って・・・」
「えーーーっ!? 全然知らなかったっす・・・」
(そっか。 昨日こいつは、俺に抱えられてここに来た。 その時こいつ、意識飛ばしてたな・・・)
「で、兄さんが不動さん?」
「そうだ」
修はいきなりソファーから降り、グレーのカーペットに土下座をし、頭をカーペットに擦り付けた。
「兄さん!!! いやっ、不動さん!!! どうか自分を弟子にして下さいっ!!! お願いしますっ!!!」
「はぁ~???」
阿保面を曝すのは、今度は俺の方だった。
「俺、ずーっと憧れだったっす! 不動さんみたいな探偵って! だって恰好良いじゃないっすか! 何っつ~か、ハードボイルドっつ~か、漢っつ~感じで・・・。 いやっ最高っすよ!!!」
修は正座をしながら、怪我のしていない腕と包帯の腕で、身振り手振りをしながら、自分の興奮を俺に伝えようとしていた。
・・・つづく