「歌舞伎者の街」 第5話
「せんせーーーっ! 不動です! 焼酎持ってきましたーーーっ」
「!? おぉ! そうかいそうかい・・・」
医院長は、ニコニコしながら部屋を出てきて、俺の抱えてるものを見るなりギョッとした。
「・・・不動、嵌めおったな」
「先生、見てもらえませんか? 今日は伊佐美を持って来ましたから・・・」
「ムムッ!! ンーーーム。 解った! 奥へ運べ」
「ありがとう先生!」
奥の部屋へ行き、ベットに餓鬼を寝かせた。
餓鬼は、血を吐きながら咳込んでいる。
先生は、痛がる餓鬼を“五月蠅い!!”と怒鳴りながら、身体の隅々まで調べて、手当てを婦長に言いつけた。
「・・・不動、何故こいつを連れて来た? 骨も折れとらんし、内臓も大丈夫じゃ」
「すみません先生。 この餓鬼は、永成会と揉めてまして・・・、その理由が、ヤクを売ってたと・・・」
「なるほど・・・、普通の病院じゃ、この怪我は、通報される危険がありおるかぁ・・・」
「はい・・・」
「この焼酎は貰っておくぞぃ。 手当てが終わったら、連れて帰ってよしじゃ。 鼻血と口の中の血は、止まっとらんから、喉に詰まらせんようにな。 ヘヘッ、久々の伊佐美、い~さ~み~っと!」
(フッ、ありがとう先生・・・)
部屋に戻っていく先生の背中に頭を下げた。
「はい! 終わりましたよ~」
婦長から餓鬼を預かり、負ぶって事務所に帰ってきた。
居住区のベットに寝かしつけ、俺は事務所のソファーに横になった。
遠くで音がする・・・。
何かいい匂いもするが・・・夢か?・・・・・ゆめ・・・。
何時の間にやら、寝てしまっていたようだ。
「う~~~~~ん」
久々のソファーで、身体が痛い。
「あっ! 兄さん、お目覚めっすか?」
事務所の台所に、包帯だらけの奴がいる。
(!? ミイラ男? 透明人間? まだ夢の続きかぁ・・・・・えっ!?)
「兄さん、朝飯作ったっすよ~。 って言っても、もう10時っすけど・・・」
ミイラ男に兄さん呼ばわりされる覚えが無い。
まして、朝飯を作ってもらうなど・・・。
「・・・お前誰だ?」
覚えて無い訳では無かったが、名前も聞いて無かったし、“おい、餓鬼”とも呼べず、この言葉が出てきた。
「えっ!? 覚えてないっすかぁ? いやだなぁ~」
「覚えている。 お前の名前を聞いている・・・ヤクの売人」
餓鬼は、真顔になって少し蒼褪めた。
「名前を聞いている・・・」
「はっ、はい! 自分は、高橋 修っていうっす。 東大の3年っす・・・」
「東大? 頭良いんだな・・・」
修はハッとして、俺の前に手を広げ、小刻みに振った。
「違うっす! 違うっす! 東大って言っても、東京農科大学っす! それに、頭の良い奴は、クスリなんか売らないっすよ~」
まるで後悔してるかの様に、修は下を向いた。
「確かに・・・。 話を聞こう。 折角だ、作った朝食を並べてくれ」
「うっす!!」
包帯だらけの身体で、素早く?料理を並べた。
修の話しはこうだった。
18の時に福島から上京して、大学へ通いだした。
最初は、訛りのせいか友達がなかなかできずに1年が過ぎた。
ある時、大学のキャンパスで男達に声をかけられ、“遊ばないか”と誘われたらしい。
それからの1年は天国だった。
六本木でクラブにナンパ、五反田で風俗、新宿でキャバクラなど、遊びという遊びを、そいつらから教わった。
・・・つづく




