「歌舞伎者の街」 第50話
俺は、俺が出てこられた経緯を、皆に訪ねた。
会長が待っているので是非との誘いを受け、場所を楠木邸に移し、会長も含む中、皆が話す言葉を聞かせて貰った。
「もう、ニュースで不動君の逮捕を聞いた時には、どうしようかと思ったぞ」
会長が話す。
「父は、腕組みをしてジッと見ているだけだったから、“何してんだ!”って怒鳴っちゃいましたよ。 でも、あんな手を考えているとは・・・」
守氏は、苦笑いを混ぜて頭を掻いた。
「僕の働きも役にたったでしょ?」
宇宙が、自慢気に人差し指で鼻を摩り、笑顔で俺を見る。
横で小ちゃく座っているハツさんが、笑顔で頷いた。
「不動、聞いて驚け! 俺もその話しを聞いた時には、この人達を敵にはしたくねぇと思ったよ」
哲さんが、俺の肩に手を置く。
俺が留置場に入っている間、この人達は、全力で俺を助け出そうと努力してくれていた。
まず、繁華街でのビラ配り。
茜が検査入院している間、新宿、渋谷と守氏と宇宙、クスクスレイクの社員の何人かで、警察の犯罪を世の中に訴えていた。
「ディスクの写真を引用してね」
「!? そんな危険な事を? 相手は警察そのものなんだぞ・・・」
やはりビラの配布中に、警察に引っ張られそうになった事もあったそうだ。
しかし、ビラ配りだけでは効果は薄い。
そこで会長がとった策は、凄いものだった。
「昔に金に困っていたローカル放送局があってな。 助けた事があった。 そのプロデューサーが今、街頭やらででっかいスクリーンに上映する管理会社の専務でな。 ちょっと頼み込んでみたのだ」
あのディスクにナレーションをつけて、写真ごと実名で街頭のスクリーンに上映したらしい。
「少しでも、ビラ配りの力になればと思ったのだよ」
「少しでも? 何言ってんですかお父さん。 効果絶大だったじゃないですか」
守氏が身を乗り出した。
ビラを配っている後ろでのスクリーン上映。
効果が無いはずがない。
その情報にマスコミが飛びつき、もうこの話は全国へと飛び火した。
警視庁副総監の犯罪として、雨宮副総監への事情聴取。
マスコミの槍玉にあがり、国会でも問題になった程だった。
雨宮副総監は“局長がやっていた事で、私は知らなかった”と弁明。
結果は、斎藤局長の自殺。
事情聴取の最中だったらしい。
自宅のマンションの屋上から飛び降りた。
「消されたな・・・」
「あぁ・・・」
俺と哲さんは同じ考えを持っていた。
これからも、副総監には追求はあるだろうが、管理責任の追求が関の山だろう。
権田組の柳沢は、舎弟が犯した犯罪といえど、暴対法に法り共犯の罪で逮捕。
ただこれも、等々力医院長と斎藤局長との写真があるだけで、柳沢を落とすだけの証拠がある訳でも無く、自白もするはずがない。
実行犯では無いのだから、何年かで出てくるだろう。
主犯格の2人は、まんまと逃げ果せた形になる。
(残念だが、今の俺には戦えるだけの材料が無い・・・すまん、桐生)
「で、この出来事は、全てこの2人、斎藤と井上がやった事になったのだ」
会長がまとめてくれた。
「皆、ありがとう・・・」
・・・つづく




