「歌舞伎者の街」 第49話
俺が桐生を抱えた時には、桐生は眼を見開きぐったりと事切れていた。
桐生をそーっと床に寝かし、茜の肩を抱きながら部屋を出た。
「不動ーーー!!!」
聞き慣れたしゃがれ声が、倉庫一面に響く。
「・・・哲さん・・・・・」
「不動!! 無事だったか!」
「あぁ、俺は大丈夫・・・」
哲さんは駆け寄ってきて、俺の肩をポンポンと叩いた。
「助手さんも、無事で良かった!」
哲さんは、思いっきりの笑みをこぼしてくれた。
「でっ、不動。 あれは?」
「・・・井上だ。 上にも4つと一体ある・・・・・」
「???」
「・・・全部、あの人がやってくれたんだ・・・。 茜も助けてくれた・・・」
「あの人・・・・・?」
「・・・・・桐生・・・さん・・・・・・」
その言葉と、俺達の表情で哲さんは察してくれた。
「・・・惜しい奴を亡くしたぜぇ・・・・・」
「あぁ・・・」
「・・・でも、これで終わったんだな・・・・・」
「いや、まだだ」
俺は首を振った。
「? どういうことだ?」
「・・・この中には警察関係者がいない・・・・・、恐らく時間を経たずしてここに警察が来るだろう。 俺を捕まえにね。 俺は殺人の現行犯、哲さんは麻薬の横流し。 俺達に全ての罪をきせて万事休すさ・・・」
「何ぃ~~~!」
話しが終わるか終わらないかの時に、警官隊が突入してきて俺達を取り囲んだ。
その輪の中から、3人の背広が俺達の前に立ちはだかり、1枚の紙を目の前に晒し、俺と哲さんに手錠を掛けた。
「不動 武。 殺人、誘拐、覚醒剤取締法違反、放火の容疑で逮捕する」
「石神 哲二。 覚醒剤横領容疑で、午後11時58分、逮捕する」
俺達は警察へ連れていかれ、留置された。
何日拘留されただろう。
凄く長かったような気もするし、あっという間のような気もした。
取り調べは酷いものだった。
全く身に覚えの無い事を繰り返し聴かれ、俺が犯人じゃなきゃ駄目なように仕向けられていた。
頭を小突かれ、胸ぐらを掴まれて自白に追い込もうとした。
それはそうだろう・・・、警察組織の上の上、警視庁副総監が命令しているのだから。
この感じでいくと、多分、状況証拠も捏造されてるだろうし、何を話しても太刀打ちできない・・・、なら、せめてもの反抗と、俺は沈黙を貫いた。
何日か経ったある日、留置場の中で。
「不動 武。 出ろ、釈放だ」
「!?」
「釈放だと言っている。 お前の身につけていた物は、そこの机に置いてあるから、とっとと身支度を整えろ!」
「どういう事だ? あんたら警察は誤認逮捕を認めるのか?」
「何が誤認逮捕だ! ふざけるな!! 叩けば埃の出る身体だろうが! 今回は大目に見てやるから、早く出ていけ!」
警察署を出た時、玄関先には、哲さん、楠木親子、そして茜が迎えてくれた。
俺には家族はいない。
そして要らないと思っていたが、割と良いもんだと気付いてしまった。
「先生、お帰りなさい・・・」
「茜・・・心配掛けた・・・・・すまない。 傷の方は大丈夫か?」
「・・・ガラスで切ったおでこの傷は少し残るかもって、根津先生に言われました」
「!? 根津って、なんだ、あの酔っ払いのヤブ医者のところへ行ってるのか?」
「根津先生にこうも言われました。 “女の顔に傷をつけたんだ。 不動に責任をとってもらえ”って・・・」
茜の顔は、少し赤らんでいるように見えた。
俺は、俺が出てこられた経緯を、皆に訪ねた。
・・・つづく




