「歌舞伎者の街」 第48話
俺を、あの緑荘で殺せと指示を出した張本人。
(・・・井上が死んでいる・・・・・、それも撃たれている。 内輪揉めか?・・・まさか。 じゃっ、口封じ? 等々力医院長と同じか!? ・・・すると、茜はもう・・・・・)
頭を振り、邪推を払おうとしたが振り払えず、この邪推を抱えたまま先へ進んだ。
コンテナ沿いに階段脇まで来た。
階段を見上げると、半開きのドアが俺を誘っていた。
慎重に階段を登り、残り5段ぐらいになったところで頭を屈め、半開きになったドアの中を覗き込む。
部屋の中は、殆ど見えない。
俺は拳銃を持つ手に力を入れ、意を決して残りの5段を駆け上がり、ドアを押し退けて銃口を部屋の中に向けた。
薄らとオレンジ色の灯りが射す部屋の中は荒れに荒れていて、壁際や奥に倒れている人間らしきものが4つ。
部屋の真ん中に、人間らしきものを抱えた女が、しゃがみこんで首を項垂れていた。
動くものは何も無かった。
「・・・・・茜・・・か?」
しゃがみこんでいた女が顔を上げる。
その顔は、額から血を流した跡があり、鼻血の跡も見てとれたが、涙を流している顔は紛れもなく茜だった。
「・・・・・せ・・・ん・・せい・・・・」
「茜!!!」
俺は茜に駆け寄り、肩を抱いた。
俺にも思わず涙が溢れ出した。
「・・・無事で良かった・・・・・・無事で・・・。 遅くなった・・・」
「・・・せん・・・・・せい・・・・・・・・・・き・・・りゅう・・・・・さん・・・・・・・・・・・」
「あん? 何だ?」
「・・・・・先生・・・・・桐生さんが・・・・・・・」
茜が抱えていたのは、血塗れになった桐生だった。
「・・・・・不動さ・・・ん・・・・ウブッ・・・あぁ・・・・こち・・とら・・・・くたばり・・・かけてる・・・・・のに・・・ラブ・・・・・シーングハッ・・・・・・ちゅう・・・です・・・・かい・・・・・・・」
「桐生!!!」
「ゴボッグゥ・・・不動さん・・・・・あんたの・・・大事なグヘッ・・・もん・・・・・無事・・・・返しましたでぇ・・・ハァッ・・ハァッ・・・・ちょっと傷モンになっちまいましたけど・・・・治りまさぁ・・・・・・・大丈夫・・・・・・・・・」
「桐生!! しっかりしろ!!! 桐生!! 今、救急車呼ぶからな!! しっかりしろよ!! 桐生!!!」
何発喰らったか解らない桐生の身体からは、ダラダラと血が流れていて止まる気配がない。
俺は携帯で救急車を呼ぼうとした・・・が、桐生がその腕を掴んだ。
「・・・不動さん・・・・・拳銃・・・・・・持ってます?・・・・・拳銃・・・・・・」
「あぁ、ある。 ここにな、ほらっ」
桐生は、俺が渡した拳銃を、血塗れになったYシャツで大事そうに丁寧に拭きだした。
「・・・・・不動さん・・・・・大事に・・・使って貰わないと・・・・・ハァッ・・ハァッ・・グハッ・・・・・駄目・・・でさぁ・・・・・」
桐生は、拳銃を丁寧に丁寧に拭った。
「あぁ・・・悪かった・・・・・」
「・・・・・不動さん・・・立たせて貰えません・・・かねぇ・・・・・」
「馬鹿言うな!! 力を入れたら、余計に血が出ちまう!」
「ハァッ・・ハァッ・・・・・一生のお願いでさぁ・・・・・・」
俺は仕方なしに桐生の腕を自分の肩に回し、腰を抱えて立たせた・・・・・と、その瞬間、桐生が眼が輝いたように見えた。
俺を突き飛ばし、部屋の中に倒れている人間らしきものに向けて8発発泡し、窓際に倒れかかりながらも、外で大の字で死んでいる井上の死体にも4発発泡した。
カチッ カチッ カチッ
桐生は拳銃の空音と共に、その場に崩れ落ちた。
「桐生ーーーーーっ!!!」
俺が桐生を抱えた時には、桐生は眼を見開きぐったりと事切れていた。
・・・つづく




