「歌舞伎者の街」 第45話
「ご名答!」
「しかしだな・・・不動。 その根拠で等々力医院と断定する事はできねぇぞ」
「確かにね。 でもね、そのディスクにも書いてある通り、等々力医院長は雨宮と柳沢に脅されていた事は間違い無い。 最初は些細な薬の横領だったのだろう。 それを柳沢に勘付かれ、脅迫され無理矢理協力させられた。 精製する機械をあてがわれ、薬を作らされるようになった。 覚醒剤精製、販売の主犯。 これが公になった時、国家権力とマスコミによって犯罪集団の主犯格に仕立て上げられる。 等々力医院長は裏切れる立場では無くなっていたんだと思う。 雨宮と柳沢にとってみれば、いつでも切れる従順な尻尾を手に入れたという事なのだろう。 で、考えたんだ・・・この場所をね。 この横浜の医院は、埠頭の近くにある・・・。 何故こんなところにあるのかをね。 こんなコンテナばかりのところに・・・。 実は、ここでは診察は行われていなかったんだ。 ハートフル商事に人に聞いたら、“あっ、あの病院の倉庫ね。 たまに荷物は取りに来てたみたいだけど、診察はしてないよ”と言われたよ。 外観がそっくりにできているのだって、カムフラージュじゃないかな。 四谷の等々力医院を印象付ける為に。 マスコミはそれに乗ったよね」
「・・・・・大体解った。 で、俺に頼みってぇなんだ?」
「多分、その病院の近く、ABC埠頭のどれかに等々力医院長名義のコンテナ置き場があると思うんだ。 その機械と一緒に写ってる場所・・・多分ね」
「わかった。 そこに助手さんがいるとおめぇは思うんだな」
「あぁ、行ってみる価値はあると思う」
調べを哲さんに任せバイクに跨った俺は、赤らむ空に溶け込むように高速道路を走り続けた。
きっと、ツーリングなら相当綺麗な夜空だろう。
帰宅時間の渋滞も重なって、山下埠頭出口で高速を降りた時には辺りは暗くなっていた。
街灯が規則正しく並ぶ国道16号。
大型トラックとカーチェイスをしながら埠頭の近くまで来た。
山下公園から、港が見える丘公園。
その公園沿いの結構急な坂道を上がり、右手の無人交番を右。
突き当たりの外人墓地を左に曲がり、フェース女子学院を通過すると等々力医院はあった。
灯りは落ち、誰かいるような気配は感じられない。
裏口へ回る為の石畳を調べたが、最近人が踏んだ痕跡すら見当たらない。
この辺りは、まだ19時だというのに人通りが全く無かった。
(・・・・・ここはゴーストタウンかぁ? 誰もいやしない。 ・・・やはりここではないか・・・・・流石に自分の名前を付けている建物には監禁しないわな・・・・・ん?)
ブーン
ブーン
ブーン
ブーーーン
携帯が暴れだしたがいつもと違う。
携帯を見てみると、“着信あり”とディスプレイに表示されている。
時間は30分前、慌ててかけ直す。
「てめぇ! 何してやがった!!」
「・・・何って、バイク運転してたら出れないだろう」
「!? バイクだぁあ~」
「そっ、バイク。 バイクだと監視カメラに映っても、ナンバーも顔も映らないから安全でしょって、何イラついてんだ? 哲さん・・・」
「おぉよ。 ・・・実はヤベぇ事になった」
「!? どうかしたのか?」
「あぁ・・・さっきおめぇに頼まれていた事、俺のデスクで調べてたのよ。 そしたら、署長がやって来て“もうすぐ公安が来る”と言い出しやがった。 何でも経費横領の件で話しが聞きたいんだと」
「!? なんだ哲さん、そんな事やってたのか・・・フッ」
何故か、自分に余裕ができた。
・・・つづく




