「歌舞伎者の街」 第42話
封筒を拾い上げ、引っ繰り返すとヤマハと書かれたキーと便箋が1枚入っていた。
便箋を読んだ。
“殺人犯になり損ねた者へ”
お主が撃ったヤクザ者、命を取り留めおった。
お主は、まだ引き返せるというこった。
と、書いてあった。
便箋を手で挟み、玄関先の誰ともつかぬところへ拝んだ。
“よし!”と一声かけ両頬をバーンと叩き、気合いを入れて表に出た。
隠れ家の鍵を植木鉢の下に入れ、バイクに掛かっていたヘルメットの1つをかぶり走り出した。
時間は7時を過ぎようとしていた。
四谷の駅に着いたのが8時過ぎ。
やはり等々力病院の前は、マスコミでごった返していた。
何をする訳でもないが、一度病院を見ておこうと思い、ただ病院の前を走り抜けた。
その後、新宿へ戻り、公衆電話を探して時間を見計り、とある人物の携帯に電話を掛けた。
「誰!?」
子供の声。
「・・・宇宙、俺だ」
「不動兄ちゃん!?」
「あぁ・・・今、何してる?」
「今、登校中。 ちょっと遅くなっちゃったけどね。 良かったぁ、無事だったんだね。 茜姉ちゃんの事? まだ帰って来ないんだよ、心配だよ・・・僕」
「宇宙・・・その事で、ちょっと力を借りたい。 今日、学校休めるか?」
「うん!! 大丈夫!!!」
宇宙の声は弾んでいた。
やっぱり男の子だけあって、冒険は好きなようだ・・・、それにも増して、茜の事で手を借せるとなれば尚更の事だろう。
宇宙に、楠木家に連絡を入れさせ、暫く新宿の街を歩かせた。
誰もつけていない事を確認すると、バイクを横付けにし、時間をかけずに後ろに乗せて走り出した。
少し遠回りをしながら思い出横丁まで来て、その入口にバイクを置き、ビニールで仕切られたラーメン屋に入った。
「チャーハン食うか?」
「朝からチャーハン?」
「朝っていっても、もうすぐ10時だぞ。 朝飯というよりは、ブランチだな・・・嫌ならいいけど」
「!? 嫌じゃないよ! 食べる! 食べます!」
なかなか絶品のチャーハンを食いながら、宇宙と話した。
「宇宙、前、パソコンのゲームの話をしてたよな。 パソコン使えるか?」
「当たり前じゃないかぁ。 今は授業でもあるんだよ」
「その腕前を借りたい」
「!? もしかして不動兄ちゃんはパソコンダメ?」
「あぁ、恥ずかしながら・・・」
「なんだよ~。 ちゃんと勉強しとかなきゃダメじゃん」
「面目無い」
宇宙はケタケタと笑いながら、チャーハンを口に運ぶ手も止めずに器用に笑った。
「で、パソコンで何をすればいいの?」
「そのチャーハン食ったら、バイクのところで待っててくれるか?」
勘定をすませ表に出る。
橋の下には、例のサンドウィッチマンがティッシュを配っていた。
俺は、橋とは逆の思い出横丁を突き抜け駅の方へ向かい、東口に向かう小さなガードに潜り、ぐるっと回って橋の下へ侵入し、サンドウィッチマンからティッシュと一緒に1枚のディスクを受け取ってバイクまで歩いた。
「これを見たい」
宇宙にディスクを見せると、“わかった”と言って南口にあるマンガ喫茶まで案内された。
「ここ、僕の行きつけなんだぁ」
「おや、坊ちゃんいらっしゃい」
「いつもの部屋、空いてる?」
「はいよ501ね。 空いてるよ」
「うん、借りるね」
この歳から“行き付け”なんて言葉、知ってて良いのかと思いつつ、宇宙に手を引かれて部屋に入った。
・・・つづく




