「歌舞伎者の街」 第41話
「本当の隠れ家じゃ・・・」
「本当の・・・」
「お主、ここに朝までおる訳にはいかんじゃろ。 わしらも事務所に移るけぇ、お主はそこを使え」
「・・・ありがとう」
「えぇて」
爺は、照れ臭そうに手を振った。
「それから、足がいるじゃろう。 何を用意する? ん?」
「・・・じゃぁ、バイクを頼めるか? 排気量のデカいやつが良いんだが・・・」
「解った。 明日の朝・・・っていってももう数時間後じゃの。 届けさすわい」
「・・・ありがとう。 ・・・・・でも、なんでここまでしてくれる?」
「フッ、お主、国家権力に喧嘩売るんじゃろ? こんな愉快な事あるかい! やるんやったら、力は少しでも均衡しとった方が、見てる方も面白いけぇのう。 わしら傾奇者には、祭が1番じゃ。 祭りじゃ~、祭りじゃ~」
「フッ・・・」
久々に笑った気がした。
東中野にある“隠れ家”は、古びた一軒家。
茜の事を考えると、目を閉じても眠れず、ただ時間だけが過ぎていった。
俺の中に、沸々と煮えたぎる怒りが増していくのに、十分な時間だった。
(今日が勝負!!)
俺はそう感じていた。
朝6時、時計を見て、何の気なしにテレビをつけた。
何かテレビが騒いでいる。
「ただいま西新宿4丁目に来ています。 あのブルーシートで覆われている先が事件の発生現場です。 発生したのは昨晩、深夜0時頃、こちらに住む等々力病院医院長、等々力 喜樹さん62才が殺害されました。 ご家族は、全員2階で就寝していて無事でした。 奥様が1階で物音を聞いたらしく降りていったところ、夫の喜樹さんが殺害されているのを発見したとの事です・・・」
(!? 等々力病院だと!?)
画面の右上に、薄くLIVEと書かれていた。
「凶器に関する事や、他の情報などはありますか?」
司会者が、レポーターとやり取りをしている。
「え~、警察への取材によりますと、胸と額に拳銃で撃たれた跡らしきものが3つあるという事でした・・・」
「怖い世の中になりましたねぇ~。 で、犯人は今は?」
「はい! 犯人は未だ逃走中との事です。 近所の方々に聞いてみたところ、深夜にヤクザ風の男が彷徨っていたという情報もあります・・・」
「暴力団の抗争ですか。 他に情報はありますか?」
「はい、え~、四谷にある等々力病院は、ここ2、3日休診していて、警察ではこの事件との関連性と、医院長の喜樹さんしか狙われていない事、そして居間が一切荒らされていない事から、怨恨の可能性が高いとみて、捜査を進めていく方針です」
「は~い。 また何か分かりましたら伝えて下さ~い。 ・・・どうですか、コメンテーターの皆さん、拳銃での殺人ですよ、日本も銃社会になったんですかねぇ」
チャンネルを回した。
どこも同じような情報しか流れていなかった。
(・・・誰だ、殺ったのは。 ヤクザ風の男?・・・・・喫茶店に火をつけた男達・・・、でも、これは桐生の舎弟の情報では、顔は一切知らないと・・・・・・口封じとも尻尾切りとも考えられる・・・・・。 であれば、権田組の仕業であろうか・・・)
頭の中には、何故か桐生の顔だけが残った。
表でバイクの止まる音がした。
玄関に目を向けて身構える。
扉についてる新聞ポストから光が漏れたかと思うと、何の音もせずに何かが玄関に落ちた。
玄関の土間に白い封筒。
封筒を拾い上げ、引っ繰り返すとヤマハと書かれたキーと便箋が1枚入っていた。
・・・つづく




