「歌舞伎者の街」 第40話
爺は笑みを浮かべて答えた。
「知らん方がええじゃろ・・・。 同じ道を行く者として、いつの日にか懐を分かつ時が来るやもしれぬでな・・・」
「・・・同じ道って・・・、俺は極道じゃ無い・・・・・」
爺に目が、ギラリと光った気がした。
「極道じゃのうても、お主、人を撃ったの初めてじゃなかろう? 構え、撃ち方を見れば解る。 人を殺めなきゃ進めん道なら、然程わしらと変わらんて・・・」
考えさせられた・・・、歌舞伎町という魔物のせいなのか、この事に然して疑問を持たなかった自分に違和感を感じた。
どんな手を使ったのか解らないが、4人は割と簡単に吐いた。
やはり権田組の鉄砲玉だった。
鉄砲玉は、当然の事ながら何も知らされちゃいない・・・が、ただ1つ、不可解な事を言った。
「権田のとこの新しい若頭、井上の指示じゃそうじゃが・・・・・知っとるか?」
「・・・・・・・・あぁ、顔ぐらいは」
「そうか。 じゃがのう、あいつら変な事を漏らしおった」
「!? 変な事?」
「うむ・・・。 “警察の事は気にせんでええから、どんな手を使ってでも資料を入手し、2人を始末しろ”と言われとるそうじゃ」
「チッ!! また警察か・・・」
「国家権力というものは、厄介じゃのう」
ブーーーッ
ブーーーッ
「電話じゃぞい」
「あぁ」
ディスプレイには、“公衆電話”と出ていた。
「・・・・・・・・・」
「俺だ!!」
「!? 哲さん?」
「あぁ・・・、やべぇもん見つけちまった・・・・・」
「!? 何をだ!?」
「ディスクだ! 楠木の社長さんから“ルポライターの件を調べて欲しい”と言われて調べていたんだが、その筋から風俗の女が出てきた。 その女、ルポライターの女らしいんだが、ルポライターが調べた資料を、写真付きで持っていやがった・・・」
「何!! 当時の捜査で、警察はその女に行き当たらなかったのか?」
「いや、捜査線上には、名前は出てたらしい・・・、ただ女が言うには・・・・・」
その女が言うには、ルポライターが殺された晩、女はルポライターと逃げる約束をしていた。
東京駅に20時に待ち合わせをし、もし時間に来なければ、20時04分発の最終列車に乗れと言われていた。
女は、ルポライターが来なかったので、最終列車に乗った。
行き先は、青森県三沢市。
ルポライターは、米国連邦航空局に知り合いがいた。
三沢基地で少し時間を費やし、海外へ逃げる算段が出来ていた。
「で、その女は今、米チャンのとこで働いてるよ・・・」
「!? って事は、哲さんは今!?」
「ピンポーン! 三沢にいる。 流石の警察も、米チャンを相手には出来なかったとみえる。 3日間張り付いて、ルポライターの敵を取りたいと懇願したら、渡してくれた」
(・・・本当にあったのか・・・その資料。 それで、罠だと解っていても誘いに乗って来たんだな・・・権田組は・・・・・)
「それで哲さん! 黒幕は誰になってるんだ?」
「聞いて驚け! 天下の警視庁副総監! 雨宮 大二郎様でぃ!!」
「!? ・・・副総監・・・・・」
頭の中が、一瞬止まった。
多分、宝くじに当たるとこんな感じになるんだろう。
相手があまりにデカ過ぎて、ピンッと来ない。
「・・・不動! 聞いてんのか! てめぇ! 俺は明日、朝一で戻る。 明日の昼には、これをおめぇに渡せるぜ! 例のとこで会おう」
「あぁ、解った。 63255324」
「おぅ! 待ってるぜ・・・」
電話が切れるのを待っていたかのように、爺が鍵を投げて来た。
「!? これは?」
「本当の隠れ家じゃ・・・」
・・・つづく




