「歌舞伎者の街」 第39話
4人が入っていった引き戸は、口を大きく開けていた。
俺は、その開いている扉からすんなり入る事が出来た。
埃だらけのロビー。
奥の居間には灯りは点いているが、誰もいない。
上から微かだが声がする。
階段の下から様子を伺っていると、俺の居た部屋だと思われる襖がザァーッと開き、男が一人声を上げた。
「不動さん! 居るんだろう? 出てきちゃ貰えませんかね! ・・・こちとら、罠だと解ってて来てますのんや! 面~見ねぇと話になりませんや! ・・・・・出て来ねぇというんなら、どちらか1人、怪我しまっせぇ!!」
俺は、拳銃を腰に戻し、階段下の正面に姿を出した。
「!? ・・・やっぱりおったぁ~。 不動さん、例の資料、渡して貰えませんか? それとも、嘘でっしゃろか? もし嘘だとしたら、3人とも生かしちゃおきませんぜ・・・」
その男は、ドスを効かせて、階段の上から凄んでみせた。
俺は、相手の出方を伺う為、黙りを決め込んだ。
「・・・・・そうですかぁ~。 黙りですかぁ~。 しゃぁないなぁ~。 では・・・・・、まず! ひ~と~り~め~~~!!」
男は視線を俺から外し、部屋の方へ銃を向けた・・・、その時、俺は賺さず腰から拳銃を抜き、その男を目指して3発発射した。
1発は外れたものの、2発命中。
その男は、階段の後ろへ吹っ飛んでいった。
俺は、階段を駆け上がり、奴が銃口を向けた部屋に銃口を向けた。
部屋には3人の男が、爺と守氏を囲むように立っていた。
不意を突かれたのか、俺が丸腰だとでも思っていたのか、こちらを見て唖然としていた。
「きっ! 貴様!! チャカを持っていやがったか!!」
3人の銃口は、何故か3人とも、3人の真ん中に座らされている2人に向けられていた。
「おいおい! 銃口の向きが違うだろう。 俺を殺りに来たんじゃないのか?」
「うっ! 五月蝿ぇ!! チャカを捨てろ!! じゃないと、こいつらを撃ち殺すぞ!!」
「やってみろ・・・。 俺もお前らを撃ち殺す・・・・・」
暫く睨み合いが続いた。
すると、銃口を向けられている爺が、何やら声を上げた。
「やれやれ、退屈になってしもぅたわい。 お~い!」
その掛け声と共に、左右にあった押入れだと思われていた襖が開き、その襖から拳銃を持った男達が6人程飛び出して来て、拳銃を爺達に向けている3人の頭に持っている拳銃を付けた。
流石に俺も、これにはビックリした。
「なっ! なっ! なんじゃ~~~!?」
1人の男が慌てたが、7本の銃口が自分達に向けられていると解ると、拳銃を畳の上に落とし観念した。
それにつられて、残る2人も同様の行動をとった。
「・・・・・爺、・・・あんた・・・・・・・・・・何者だ?」
俺も、拳銃を腰に戻しつつ聞いた。
「不動よ。 お主はどうするつもりじゃった? わしは良い。 身を隠せと言ったお主の忠告を幾何なんだからな。 しかし、この御人は自分から進んで来た訳ではあるまい? それに堅気じゃないかい?」
「あぁ、その通りだ。 ・・・すまない。 あまり手を仕組む程、時間が無かった・・・・・言い訳だな・・・すまない・・・」
「・・・・・まっ、良かろうて。 取り敢えずは皆無事じゃ・・・」
「でも、あんた・・・・・」
「わしか・・・? わしはしがない田舎の極道じゃ。 ・・・不動よ、勘違いするでないぞい。 極道という輩は何処にでもおる。 歌舞伎町みたいな賑やかな街じゃなくてもじゃ。 花園連合や、永成会、黒岩のところだけが極道じゃないぞい」
「そんな事は解っているが・・・」
「ならば良しじゃ」
「爺・・・・・、名前を聞かせて貰えないか?」
爺は笑みを浮かべて答えた。
・・・つづく




