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「歌舞伎者の街」  作者: 光鬼
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「歌舞伎者の街」 第34話

「!? 宇宙そら!!」




俺の方こそ驚いた。


まさか、この下水道に宇宙がいるとは・・・。



「学校はどうした?」



頓珍漢な質問だった。


そんな事、言える立場では無かった。


今、自分の置かれている状況・・・、放火、麻薬の密輸密売、殺人、立派な第一級犯罪者である。



「学校なんて言ってる場合じゃないだろう? 不動の兄ちゃんが危ない時に・・・」


「・・・宇宙・・・」


「ここは、ちょっと前まで、僕の遊び場だったのさ。 お父さんが金貸しなんてやってるせいか、友達ができなくて・・・、ここでいっつも1人で遊んでた。 あっ!? 今のは、お父さんには内緒だよ。 余計な心配、掛けたくないからね」


「あぁ・・・」



楠木家の事件から、まだ2ヶ月ぐらいしか経っていないのに、宇宙が随分と大人に見えた。



「だがな宇宙、俺といたらお前まで危なくなる。 お前はすぐに帰れ」


「大丈夫! ただ道案内をするだけさ」



子供の“大丈夫”は、根拠も何も無いのに、何でこんなに説得力があるんだろう。


そんな疑問を浮かべたら、少し可笑しくなった。



「さっ、行くよ!」


「・・・はい・・・・・」


「!? 兄ちゃん! “はい”じゃ無いでしょう。 何処へ行きたいか言ってくんなくっちゃぁ」


「あぁ、そうだったな・・・」


「しっかりしてくれよ、兄ちゃん!」



何かこのやり取りが、この冷え切ったコンクリート迷路の中に、暖かさを運んできてくれたように感じた。



「そうだな。 俺は指名手配されている。 何処へ行っても同じだとは思うが、1つだけ行きたいところがある。 馬場へ案内してくれないか? 出来たら神田川沿いが良いんだが・・・」


「わかった! ついて来て」



宇宙に案内されるがまま、何分歩いただろうか。 


宇宙が止まるまで歩き続けた。


会話は何も無かった。


何処をどう曲がったのかは、俺にはサッパリだった。



「兄ちゃん! 此処を上がったらいいんじゃないかな?」


「!? 此処か?」


「うん! マンホールはちょっと重いけど、少し開けば簡単にずらせると思うよ」


「有難う、宇宙! 宇宙は此処で・・・・・」


「うん! わかってる。 僕は家に帰るよ」


「あぁ・・・、そうしてくれ」


「・・・・・兄ちゃん! 大丈夫だよね?」



宇宙の顔に不安が宿る。



「あぁ、大丈夫! また会おうな、宇宙!」



この“大丈夫”こそ、何の根拠も無い。


ただ、親指を立てている俺を見て、宇宙は笑顔を見せてくれた。


今の俺には、それで十分だった。


宇宙と別れ、表に出る。


確かに川沿い・・・、現状を把握する為周りを見回す。



「・・・・・!?」



ちょっと離れたところに、目的地の建物が見えた。



(ホッ!! Thank You 宇宙。 ベストポジションだ)



川沿いは、人通りも少なく、難なく目的地の建物に着いた。


“リバーサイド早稲田”


桐生に、どうしても会わなければと思っていた。


8階まで行き、インターフォンを押す。



「・・・はい」


「不動です・・・・・」


「・・・お待ちしておりました」



(!? ・・・待っていた? 俺を・・・?)



鍵が外れる音がして、扉が開く。


女は、素早く俺を誘ってくれた。


玄関には女物の靴しか無く、俺は女に“桐生に会いたい”と告げた。



「・・・奥に居ますよ」


「!! 靴が無い・・・」


「はい、彼がうちに来ている時は、大体靴を持って上がるんです」



(成る程・・・)



胸の中で感心し、中に上がらせてもらった・・・、桐生に習って、靴を持って・・・。



「不動さん、よくご無事で」



桐生は笑顔で向えてくれた。




                    ・・・つづく


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