「歌舞伎者の街」 第33話
「俺はやったのか?」
「!? やったなんて・・・そんな・・・。 このニュースだと、午前2時過ぎに吉村って人は殺されたって言ってますけど、だって2時っていったら、先生、私と一緒にこの屋敷に居たじゃないですかぁ。 ・・・あっ! 私が証言すればいいのかぁ」
「事はそんなに簡単では無いが、茜が信用してくれていればそれで良い」
昨日の晩のように、茜の頭の上に手を置いた。
今にも泣き出しそうな茜の顔が、クシャッとなった。
「先生は、何でそんなに落ち着いていられるのですか?」
「慌ててもしょうがないからだ」
「!!!」
俺はニコッと笑い、茜に頼み事をした。
「茜、これから言う事を良く聞いてくれ。 この手帳には、昨日までの調べた事が全て書いてある。 この手帳を持っていて欲しい。 決して俺の無実を証明しようなんて思うな。 手帳にも書いてあるが、この件でハッキリした。 敵は警察内部にいる。 それもかなりの高官がな。 そんな奴の仕切る組織に無実を証明しても、揉み消されるだけだ。 逆に、その証明が確信に近いものならば、君が危なくなる・・・・・それは避けたい。 これは俺の望みだ。 いいね! 俺はこの屋敷を出る。 こちらから連絡するから、それまでは携帯を使わないように。 じゃっ、俺は行くよ・・・」
「・・・先生・・・・」
「泣くな、永遠の別れじゃない。 ほんの何日かだ」
廊下を通り、居間に差し掛かった時、会長と守氏、ハツさんが俺を呼び止めた。
「不動君、大変な事になったな・・・」
会長が封筒を差し出した。
「あっても邪魔にはなるまいて・・・」
封筒には、相当の額が入っている感じだった。
受け取るのを躊躇している俺に、後押しするように会長は声を掛けた。
「今の君には必要なものだ。 持って行きたまえ」
後ろに居た守氏とハツさんが、二度頷いた。
「・・・有難う。 皆さん・・・・・」
俺が皆の好意を受け取ると、ハツさんが“こちらへ”と案内してくれた。
向かった先は台所。
台所の壁側の床がマンホール状になっているところを開け、“ここからお行きなさい”という仕草をし、下水道の地図と懐中電灯を渡してくれた。
地図には、歌舞伎町方面、四谷方面、大久保方面、高田馬場方面と4つの行き方が書かれていた。
(まるで忍者屋敷だな・・・)
地下に潜って200メートルぐらい歩いただろうか、ちょうど良い窪みがあったので、そこに身を隠し煙草に火をつけた。
(・・・・・さて、これからどうするか・・・・・)
一服しても何か名案が出るとは思えなかったが、取り敢えず煙草が呑みたかった。
まだ、朝起きてから1本も呑んでいない・・・、禁断症状なのだろう。
(・・・俺も然して薬中と変わりは無いか・・・・・・)
紫煙を漂わせて時間を潰していると、コツコツと足音がする。
反響していて方向は掴めないが、確かに誰かが近づいてくる。
(チッ、もうここがバレたのか。 一服もしてられない・・・)
窪みのコンクリート越しに覗いてみる。
確かに足音はするが、姿が見えない。
(!? ・・・・・何かが変だ!!)
足音で、人物像を想像してみた。
(・・・・・1人は間違いないようだ。 ・・・それに革靴だな。 ・・・コンクリートに踵がつく音が鈍い。 女は消えたか。 !? 歩幅が狭い!! 子供か・・・!! 近い! 来る!!!)
拳を握り、飛び出した。
そこには、眼をまん丸くして驚く子供が1人立っていた。
「!? 宇宙!!」
・・・つづく




