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「歌舞伎者の街」  作者: 光鬼
33/52

「歌舞伎者の街」 第32話

「!? わかり易さとわかり難さ?」




茜は少し悩んだようだった。



「そっ! まずは、茜に解って貰わなければならない。 君の記憶力なら、きっと数日前に話した暗号の事を覚えてると思った」


「はい。 覚えています・・・」


「だから、まず解り易さで52。 じゃっ、例えばこの会話を盗み聞きしている奴がいるとしよう。 そいつが“ゴーニー”と聞いて“2”を連想するかな? 人は誰しも、言葉の1つに意味がある時、もう1つの言葉にも意味を求めてしまう。 “ニー”が“2”なら“ゴー”はなんだ?・・・とね。 “ゴー”に意味を見出せない以上、“二ー”は“2”では無いのではないかって考えてしまう。 つまりブラフを張ったのさ。 簡単なブラフをね。 これが解り難さ」


「成る程ですね・・・」


「で、君は配達させると言った。 配達人は勝手口・・・、つまり裏口だ。 俺には、“その時間に裏口を開けておきます”と聞こえたけど?」


「その通りです。 伝わってて良かったです」


「あぁ、ありがとっ」


「いえ、別に・・・」



俺は、正直にお礼を言い、茜の頭に手を乗せた。


茜は、いい子いい子された子供のように、下を向いて照れた感じだった。


その晩は楠木邸に泊まり、次の日から茜と作戦を立て実行するはずだった・・・、その電話に起こされるまでは。



「ん~~~。 はい、もしもし・・・」


「!”#$✩%&△’Ω」


「ん~~、五月蝿いよ・・・」


「!? あっ!? いかん! 不動! 大変な事になった・・・」


「ん~~、何の話だ?」


「不動!! てめぇ、寝呆けてんのか!? 何を呑気な・・・」


「あぁ、哲さん・・・、おはよう・・・」



俺は朝が弱い。


頭が回り出すまで、何十分か掛かる。


だが、この時は違った。



「何が“おはよう”だ! てめぇ!! 聞いて驚け! てめぇは今日、麻薬取締法違反、薬物密売容疑、放火、殺人容疑で指名手配されたぞ!!!」


「~~~・・・・・・・・・・・!? なにぃ!? どういう事だ!!!」



慌てて上半身を起こし、携帯に向かって怒鳴った。



「五月蝿ぇ!! 黙って聞いてろ! 昨日の深夜2時過ぎ、新宿4丁目の公園で、永成会直系権田組の若頭補佐、吉村 浩司が殺された。 ナイフで心臓を一突きだそうだ。 そのナイフにはお前の指紋が付いていた。 そして、お前の事務所兼自宅を家宅捜索。 事務所から覚せい剤1kgと販売リストが押収された」


「なんだそれ! 随分段取りが良いな・・・」


「俺もそう思う。 一晩のうちに逮捕状など・・・準備していたとしか思えねぇな」


「あぁ、やられたな・・・」


「!? 関心してる場合か! 放火、麻薬、殺人! これでお前は第一級犯罪者だ・・・、どうするよ?」



遠くの方で、俺を呼ぶ声がする。


廊下を誰かがドタドタと走ってくる。



「哲さんは大丈夫なのか?」


「俺も、もうすぐ呼び出しが掛かるだろう。 てめぇとつるんでるのは、皆知ってっかんな。 だが俺の事は俺で何とか出来る。 心配なのはてめぇの方だ!!」


「哲さんが大丈夫ならそれで良い。 連絡有難う。 また連絡する・・・」


「おっ・・・・・・・」



電話を切ったと同時に、部屋の襖が開いた。



「先生!! 大変です!! テレビ! テレビを見て下さい!!!」



部屋のテレビを点けてみると、朝のワイドショーは皆、俺の顔を出して指名手配を唄っていた。



「・・・先生!? どうしましょう?」



腰が砕けたように、内股で座り込む茜を見て言った。



「茜、落ち着け。 茜はどう思う?」


「!? どうって???」


「俺はやったのか?」




                    ・・・つづく


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