「歌舞伎者の街」 第31話
「その事は、俺に任せろ・・・」
「!? 哲さん!? それじゃ哲さんが・・・・・」
「そんな事は、気にしなくていい。 もし、本当に警察内部にそんな奴がいれば、俺もそいつは許せねぇ。 俺の立場がどうなろうが関係ねぇ。 俺は、そいつを必ず捕まえる!」
「哲さん・・・」
「フッ、おめぇがそんな事、気にするなんてらしくねぇな。 あの綺麗な助手さんに、腑抜けにされちまったんじゃねぇか? あぁ~~~」
哲さんが、俺の顔を覗き込む。
「!? そっそんな事は無い。 少し長風呂で逆上せただけだ・・・」
「なら良いがよ。 柄にもなく、気弱になってんじゃねぇかと思ってよ。 ハハハッ」
「ハハハッ・・・」
俺は、風呂から先に上がり、身体を涼めながら哲さんに感謝した。
服を着てる最中も、哲さんは風呂で気持ち良く鼻歌を歌っていた。
コルドングリーンを出て、楠木邸に向かう。
茜がそこで待っているはずだった。
ここからだと歩けない距離では無かったが、あえてタクシーを使い、回り道をしていく事にした。
暫く走って、つけられていない事を確認した。
楠木邸には直接停まらず、1キロぐらい前で降りて歩く。
煙草を吸いながらも、周りに気を配った。
歩き煙草は好きでは無かったが、煙草は便利な小道具で、ただ吸っているだけで油断している様に見えるし、煙が目に入ったフリをして、左右を向く事もできる。
煙草を消す時も、道端に1回煙草を捨て、靴底で消し、フィルターを拾う時に後ろも確認できる。
俺は、煙草が最高のアイテムだと思っている・・・、ただ好きなだけかもしれないが。
深夜2時、楠木邸の裏口をそっと押すと、扉は抵抗無く開いた。
素早く中に入ると、その暗闇の中に茜が立っていた。
「うわぁっ!!」
「先生、時間通りですね」
「驚かさないでくれ」
「先生がこれぐらいで驚くとは思いませんでした。 クスクス」
「つけられて無いか、気を張って来たんだ。 誰もいないと思っていたところに人がいたら、誰でも驚く。 ・・・もしかして、これは仕返しか?」
「クスクス、はい、その通りです。 先生、何の打ち合わせのせずにあんな事を言い出すから、本当にここで良いのか心配しました」
茜は、への字口で俺に訴えた。
「でも、ちゃんと通じた」
「なんとかです。 私のお父さん、楠木 守。 その家に挨拶に行くといえば、恐らくここかと。 ちょっと真っ直ぐ過ぎる気もしましたが、他に思い当たる節も無かったですし・・・。 それが泊まりになった時点で、私は事務所に居ちゃいけないんだと思いました」
「ご名答。 そして土産だ」
「はい。 この会話の中には、先生がいつ来るか、どこから入るつもりなのか解りませんでしたので、確認させて頂きました」
「土産に果物は良い案だったな。 20世紀梨や525苺など、数字をつけ易いからな」
「はい。 そして先生は、“ゴーニー”とおっしゃいました。 最初は、5と2で“なか”と読みましたが、意味が通らないので、52にして“に”。 なので2時だろうと。 でも先生、1つ疑問がありまして・・・、先生はもうすでに“に”を言ってしまっています。 これはニー林檎では駄目だったのですか?」
「うん。 今考えれば、それでも良かったかもね。 でも俺はその時、わかり易さとわかり難さを混ぜ合わせたかったのさ」
「!? わかり易さとわかり難さ?」
・・・つづく




