「歌舞伎者の街」 第24話
桐生は黙って聞いていた。
「深夜か、誰も電話を使っていないような時間帯、そのまとまっている配線に、ある機械をくっつける。 その機械を見せてもらった事があるが、メーターのようなものが付いていて、電圧計みたいだった。 その機械をくっつけるにあたっては、配線カバーの上からで良いそうだ。 そして、そのメーターの針が振れていないのを確認してから、目的の部屋に電話を掛ける。 そうすると、電話がつながった時、その針が振れるそうだ。 どうやら通話している最中は、カバーの外に微弱の電気が漏れるらしい。 そこで確定する。 事務所には、大抵留守番がいるだろう? 何時であっても電話には出る。 そう見越していたのかもしれない・・・」
「!? そしたら、そこに盗聴器を仕込んだら・・・・・」
「丸聞こえだろうな」
桐生は、慌てて女の部屋電から電話をした。
どうやら舎弟に調べさせているようだ。
桐生は、電話を切った後も、受話器に手を置いたままその場を離れようとしない。
暫くして、その部屋電の電子音が鳴る・・・と、同時に桐生は受話器を取った。
「どうだった? ・・・あぁ・・・・・・うん。 !? あったか!! そうか! ・・・・・・あったりまえだ!! そんなもん外してぶっ壊せ!!!」
電話を切ると、桐生は元いた位置に戻ってきた。
「あったか?」
「はい・・・あったそうです。 それを逆に利用して相手をハメる手もありましたが、相手が解らない以上、危険がデカ過ぎる気がして壊させました」
「俺も同意見だ」
「でも不動さん。 こんな技術を持っている相手って・・・」
「恐らく・・・・・プロ・・・だろうな」
「プロ・・・・・盗聴のプロ・・・・・・・・」
桐生は、夢遊病にでも掛かったかのように、何度もこの言葉を繰り返していた。
「この歌舞伎町で、そんな話は聞いた事がない!!」
桐生の怒りは、逃げ場を失い、自分の掌を自分の拳で打ち抜くしか方法は無かった。
「・・・なんでうちが盗聴など・・・・・」
「・・・俺が考えるに、盗聴されていたせいでサ店が全焼した。 修の事件に関係してると思って間違いない」
「しかし不動さん。 こんな事ができる奴らって・・・・・」
「俺も、この歌舞伎町では聞いた事がない。 その情報屋も“この道にかなり精通してないと無理だ”と言っていた。 そして、そんな事ができる奴があの街にいれば・・・・・」
「全ての組から引っ張り凧だ」
「と、いう事は?」
「!? 歌舞伎町には無い組織! 関西か中国って事ですか!?・・・・・不動さん・・・」
「・・・・・それにもう1つ・・・・・・・国家権力・・・」
「!!? 警察・・・・・」
どれもあまりにデカい組織ゆえ、2人の顔に一筋の汗が流れた。
紛れもない冷や汗だった。
女に入れてもらったコーヒーを、喉を潤す程度に飲んだが、最適な考えが喉を通って出て来る事は無かった。
沈黙を破り、桐生が話し出す。
「不動さん・・・・・、頼みがあります」
「?」
「何処の組織にせよ、うちの組のシマで好き勝手させる訳にはいかない。 ケジメはうちでつけるので、相手が何処だか見つけてくれませんか?」
俺は暫く考えるフリをしたが、修をあんな目にあわせた奴らをほっとけやしなかった。
「・・・修をあんな目にあわせた奴を、俺は必ず見つけ出す。 その方向は、桐生さん、貴方と一緒だな」
「!? その依頼は誰から?」
「フッ・・・、これは依頼ではない。 私事だ。 俺の連れにこんな事をした奴に、報いをくれてやりたいだけだ・・・・・」
・・・つづく




