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「歌舞伎者の街」  作者: 光鬼
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「歌舞伎者の街」 第15話

腕を組んで聞いていた俺は、思わずこの怪しさに頷いてしまっていた。




(確かに怪しい・・・。 風俗の人気など、雑誌かテレビにでも出ない限り、早々上がるものでもない。 でも、日比谷 雅子の人気は急に上がりだした・・・。 そして、日比谷 雅子は、純度の高い覚せい剤を売っている。 これを踏まえて考えれば、日比谷 雅子は純度の高い覚せい剤を店で売っている・・・・・、と、考えるのが妥当なのだろうが・・・・・)



「小島・・・その店は?」


「それが・・・・・、あの2丁目のファッションヘルスなんですが・・・・・・・・」


「・・・・・? 何だ?」


「・・・・・キャッツ・イン・ブーツなんです・・・。 黒岩組仕切りの・・・・・」


「黒岩!?」



衝撃が走った。


黒岩組は、昔ながらの極道。


全く法に触れる事をしていないといえば嘘になるが、堅気の人を立ち直れないぐらいに食い物にする薬や人身売買は、組で御法度になってるはずだった。


その、黒岩組仕切りの店で、薬、それも純度の高い覚せい剤が売られているとは考えづらい。



「私も、修からこの話を聞いた時には、信じられませんでした・・・。 そしたら修が言ったんです、”黒岩組が覚せい剤など売るはずがない。 あの組長さんは、不動さんの友達だ。 不動さんの事を裏切るはずがない”って・・・」


「・・・・・皆、間違えているようだが、俺は黒岩とは・・・」


「その問答は、今はいいでしょう。 見解の相違です」


「!? 相違って、おい・・・・・」



俺は、皆が思っている黒岩との関係を正そうとすると、”話を先に進めます”と小島が言って、その話しは聞かんとばかりに遮った。



「・・・・・あぁ、そうしてくれ」


「はい。 で、修はこう続けました・・・、”この事は、事態がはっきりするまで不動さんには黙ってて欲しい。 俺が調べてはっきりさせるから”と・・・」


「!? 馬鹿な!!」


「私も馬鹿だと思いました・・・。 だからやめろと・・・。 でも、あいつはやめなかった。 これがあいつ、修なんですよ・・・・・ねっ、不動さん・・・」


「・・・修・・・」



俺の頭の中は、修との思い出でいっぱいになった。


一緒に飯を食いに行って、世の中への反発の議論になり、熱くなりすぎて何を食ったか解らなくなった時の事。


ゲーセンで、UFOキャッチャーに1万円も使って盛り上がった時の事。


楠木会長事件の時に会った、道路越しのあの笑顔。


色々な事が、頭を駆け巡った。



(あの時、あれ程東京湾は嫌だと言っていたのに・・・・・)



「で、ですね、不動さん・・・」



小島の一言が、俺を現実に引き戻した。



「私も、私なりに少し調べてみたんです。 修1人では心配だったんでね・・・」


「・・・・・」


「そうしたら、変な噂が出て来たんですよ・・・」


「変な噂?」


「はい・・・」



小島は、顔を寄せてきて声のトーンを最大限に下げた。



「どうやらその覚せい剤、警察内部から流れてるんじゃないかって・・・」


「警察内部って・・・・・!? 押収品か!!」


「噂です。 まだ裏は取れていません。 あくまで今のところは・・・・・です。 でも、この噂、嘘だとしても危険じゃないですか?」


「・・・そうだな」


「これの出処は教えられませんが、黒岩組が覚せい剤を始めたとして、永成会よりも、ましてや花園連合よりも質の高い覚せい剤を仕入れられるとは考えづらい。 黒岩組にせよ、誰にせよ、やはり後ろに何かいる・・・、私はそう感じました」


「この事を、修は?」


「知らないと思います。 私が話す前に、修がこうなってしまったもので・・・。 ただ、自分で辿り着いた可能性はあります・・・」


「・・・・・わかった」



俺は、氷が溶けて2層に別れてしまったオレンジジュースを飲み干した。




                    ・・・つづく

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