「歌舞伎者の街」 第13話
ただ、真っ直ぐな眼差しを向ける茜には、素直にならざる終えなかった。
窓際で煙草に火を点け、ため息でいっぱいになった紫煙を、表の真面目ぶってる昼間の街に硝子越しにぶつける。
「・・・・・と、言う事だ。 だからこれは危険な仕事になる。 ・・・いや、これは仕事じゃないな。 金にはならない。 だから、茜には関係ないんだ・・・」
俺は、なんとか茜を諦めさせようと努力した・・・・・、これ以上ないくらいに。
「関係ない!? ・・・・・かん・・・・けい・・・・・・・な・・・い。 ・・・・・先生、話は解りました。 私は、足手まといになりそうですね・・・」
「解ってくれたか・・・」
「はい・・・・・。 では、暫く休暇を取らせて頂きます・・・」
「そうしてくれ」
「・・・・・何か解ったら、連絡しますね・・・」
「あぁ・・・・・・・・・・あぁ!? どういう事だ?」
「私は休暇を取ります。 この休暇中は、何をしようと誰にも縛られないという事です。 私は、私のやりたい様にやらせて頂きます」
「!? 何を言ってるんだ!!」
「先生。 先生は、言い出したら聞かない人です。 でもね先生・・・、私はその先生の助手です。 無茶をして、自分を傷つけて、それでも真実を見つけようとする・・・・・、私の時は、そうしてくれた先生の助手なんです。 覚悟も決めて、助手になったつもりです。 事務整理のおばちゃんになったつもりはないんです! 先生が一言“やって欲しい”と言って下されば、・・・・・その一言で私は・・・・・・・・私・・・・・」
「茜・・・・・」
茜の頬を、一筋の光が伝っていった。
歯を食い縛り、眼差しの力は衰えぬまま、茜は一生懸命立っていた。
茜の顔は、日の光も手伝ってか輝いて見えた。
(・・・・・参ったな。 俺はこの涙に弱いんだって・・・・・)
胸の中で、後頭部を掻きむしりながら、俺は覚悟を決めていった・・・・・“茜を護る”という覚悟を。
「・・・・・・・・・・茜、・・・休暇は無しだ! 茜には、俺を手伝ってもらう。 かなり危険な仕事となるが・・・・・やってくれるか?」
頬を伝う涙を拭いながら、茜は力一杯返事をした。
「はい!! 先生!! やります!! やらせて下さい!!」
笑顔を見せた茜の鼻頭には、やはり薄っすらとピンクの薄化粧をしていた。
「・・・ありがとう。 ・・・・・では、まず今日の動きを決めよう。 俺はまず、修の店の顧客リストを手に入れ、常連客からの情報を収集する。 茜は夜になったら、客を装い“麗氏人”に行ってくれ」
「れい・・・し・・・じん?」
「そっ。 修が勤めていた、ホストクラブの名前。 店長は小島といって、昔ながらの馴染みさ。 だからと言って、安心はできない。 店長と言ったって、従業員全員の私生活までを把握している訳ではない。 陰で、暴力団と繋がっている奴がいるかもしれない。 店長には、一言添えておくが、くれぐれも深追いはするなよ」
「はい!」
茜の眼力が、尚一層輝いた。
「茜・・・・・。 俺が言うのも変だが、約束して欲しい。 絶対に無茶はしないと。 そして、ここが歌舞伎町だという事も忘れないでくれ・・・」
「本当、先生が言うのは変ですね。 ・・・わかりました。 約束します」
茜は笑みを浮かべ、ピンク色に薄化粧した鼻を擦った。
「では先生、仕事に入ります。 夜まで時間があるので、ここで集められる情報を集めておきますね」
と、言うと、茜は自分のデスクに座り、何やらパソコンを弄りだした。
俺は、茜に笑みを向け事務所を出た。
・・・つづく




