「歌舞伎者の街」 第12話
これがあいつ、修との出会いだった。
担当医からの説明を受け、病院から出て来た哲さんと俺は、上着のポケットに手を突っ込みながら、行く宛ても無く歩いていた。
「・・・探偵、どう思うよ? 奴は薬漬けにされた・・・。 身体が拒否反応を示してるという事は、常用してはいなかったんだろうよ・・・可哀想に。 奴に何か頼んでたんか?」
「・・・・・いや」
「そっか。 普通にホストをやってれば、薬漬けなんかにゃされやしねぇ。 奴は何かに頭を突っ込んだんだ・・・、それが何かわかんねぇか?」
「いや・・・・・」
「あの医者の話しじゃ、相当純度の高いヤクだったらしい。 組関係とみて間違いなさそうだが、心当たりは?」
「・・・・・いや・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・・・・」
「・・・・・てめぇの職業は探偵か?」
「いや・・・・・えっ!?」
「てめぇ!! 聞いて無かったな!!!」
俺は、ボーっとしていた。
何故、修がそんな事になったのか?
麻薬を打たれ、海に捨てられる・・・、どれだけの事をしたら、そんな事をされるのか・・・・・・、考える事は沢山あった。
だが、ショックがの方が大きく、脳が上手く働かない。
(俺が・・・俺が悪いのか・・・・・)
無意味な発想ではあったが、その考えばかりが俺の脳を支配した。
「探偵! てめぇは腑抜けだな。 ・・・てめぇは高橋の事を、パシリじゃなく“連れ”だと言った。 警察官の俺が言うのも変だが、連れがやられてんのに黙っているんか? いれるんか? てめぇがやらねぇで、誰がやるんだ!?」
「!? 哲さん・・・・・」
俺の脳に稲妻が走った。
(そうだ!! 俺がやんなきゃ・・・)
気付けば中野駅近くまで来ていた。
「哲さん、俺は俺なりのやり方で調べてみる。 何か解ったら連絡するから、哲さんも何か解ったら・・・」
「ケッ! 探偵風情に教えられっか!」
哲さんは笑みを浮かべ、俺の肩を2度ポンポンと叩き、背中越しに片手を上げた。
(よし!! まずは戦略だな。 事務所に帰って練ってみるか・・・ただ、1つ・・・・・)
引っ掛かる事をそのままにして、中野駅前でタクシーを拾い事務所を目指した。
昼過ぎだという事もあって、中野駅南口は人でごった返していた。
事務所に戻ると、茜が心配そうに迎えてくれた。
「先生、大丈夫ですか?」
「あぁ・・・どうしてだ?」
「どうしてって・・・、電話の後、凄い形相で出た行かれたから・・・・・」
「あぁ・・・すまない。 心配かけたな・・・」
「・・・・・・・・」
「!? ・・・・・茜?」
「はい」
「書類整理が出来たら、ちょっと早いけど、今日はあがっていいぞ・・・」
「・・・・・」
「・・・ん~、その・・・あれだ! え~っと・・・・・」
「先生!! 話して下さい! ちゃんと。 先生は何かやろうとしています。 その事で、私にも何かきっと手伝えることがあるはずです! ・・・それとも先生、私が信用できませんか? 足手まといですか?」
茜は、真剣な眼差しを俺に向けていた。
その眼差しは、誤魔化す事を許さない強い光を放っていた。
「・・・いや、そうじゃないんだ。 そうじゃ・・・・・」
俺は戸惑いながら、今までの事、知り合った経緯をありのままに話した。
話した事が、正しいかどうか解らない。
ただ、真っ直ぐな眼差しを向ける茜には、素直にならざる終えなかった。
・・・つづく




