「歌舞伎者の街」 第11話
「佐川、封筒の中身を教えろ・・・」
「うぅ~~~~~っ」
「うぅ~っじ解らん」
頭を抱えている佐川の腕を、無理矢理伸ばして地面に這わせ、袖の部分にナイフを刺した。
「脅しじゃない。 次は刺す・・・中身を教えろ」
「うぅぅっ、へっ! 何・・を・・・いま・・さら・・・・・!? うぎゃーーーーーっ!!! いってーーーーー!!!」
俺は黙って、ナイフを奴の手の甲に突き刺した。
地面にまで貫通し、血だらけの虫の標本になった。
「脅しじゃないと言ったはずだ。 次は足を刺す。 次は耳・・・その次は・・・・・」
「わっわかった・・・・・、話す・・・話すから・・・・・」
その時、周りの餓鬼どもを押さえていてくれた大門寺が、声をかけてきた。
「不動さん、餓鬼は片付きやした。 あの4人は事務所へ連れて行きやす。 そいつも不動さんの聞きたい事が終わったら、渡して下せい」
「解った。 佐川聞こえたな・・・話せ。 中身は何だ?」
「なっ中身は・・・ヤクだ・・・・・MD・・MA・・・・を・・くっ・・砕いて・・・粉末・・・・状に・・したもんだ・・・・・」
ナイフを手の甲から引き抜き、佐川から身体を離した。
「大門寺、もう連れていっていいぞ。 それにこいつも頼む・・・」
「へぃ」
大門寺は、俺からナイフを受け取り、佐川の血塗れになった手をあえて掴み、引きずるように公園から出ていった。
(俺も長居は禁物だな。 誰かが通報しているかもしれない・・・)
佐川の血で汚れたジーパンをコートで隠し、事務所へ戻った。
「不動さん、どうでした?」
修は、緊張状態で待っていたせいか、俺が事務所のドアを開けるなり、質問を浴びせてきた。
「あぁ、中身、解ったよ。 あれはMDMAだ」
「・・・MDMA?」
「そう、合成麻薬だ」
台所で、手についた血を丁寧に洗い流しながら、修にMDMAを説明した。
「そっそんなにヤバいもんだったっすね・・・」
「そうだ。 これで、お前も相当ヤバくなった。 黒岩の協力で、今のところ組系は押さえているが、佐川達の前後関係が解らない以上、身動きがとれない。 お前には、もう少しここにいてもらう」
「あの~、学校は・・・?」
「生きるか死ぬかの時に、学校へ行きたいのか? 行きたいなら構わんが、お前の周りにいる奴も、被害にあうぞ」
修は、声を出さなかったが、自分が仕出かした事の大きさに落胆していた。
真相は、殊の外簡単だった。
関西系暴力団、川梨組の末端組織“扇会”が、関東に進出するための足ががりを作ろうと、佐川達を使ってヤクをばら撒いた。
この事で、中国側に火が点けば、歌舞伎町は戦争になる。
何処が生き残ろうと、全面戦争では五体満足な組織は1つも無いだろう。
その弱った組織を狙って、武器を売りつけたり薬を流したりして漁夫の利を得ようとする作戦だったようだ。
下の下、末端組織が浅知恵で先走ったらしい・・・、その事に、親の川梨組は関与していないとして、謝罪と共に手打ちの品々を黒岩へ送ってきた。
修といえば、学校を辞め、歌舞伎町で人生を学ぶと言って新宿に住み着いたから驚きだった。
物好きな奴もいるものだと思ってはみたが、ほっとくと何をするか解らないので、知り合いのホストクラブを紹介した。
世話をした俺も、つくづく物好きだと思った。
これがあいつ、修との出会いだった。
・・・つづく




