「歌舞伎者の街」 第10話
俺は、色々な算段をしながら時間を待った。
青葉公園に着いたのは、午後2時。
公園内には入らず、公園を見渡せる喫茶店に入った。
冬支度の様相を見せている公園の木々は、着ている衣を殆んど脱ぎ捨て、無防備な状態で覚悟を決めていた。
修は事務所に置いてきて、俺1人?の対応となった。
交渉するにしても、逃げるにしても、1人の方が動きやすいからだ。
それにこの歌舞伎町を、包帯をグルグル巻きにした奴とフラフラ歩いていたら、それこそ目立ってしょうがない。
警察に呼び止められ、“こいつは怪我をしていたから、病院へ連れて行き、包帯を巻いて手当してやった”なんて言ったって、信用して貰えるはずもなかった。
一服しながらオレンジジュースを飲んでいると、公園に5人の餓鬼が入って来た。
その真ん中にいるパーカーのフードをかぶった餓鬼が、周りに指を指して指示している。
(・・・あれが佐川か?・・・)
修に特徴を聞いていたものの、フードをかぶられていると、遠目からでは確認できない。
背格好は合っている様だった。
(時間まではまだあるし、もう暫くほっといてみるか・・・ニッ)
ちょっといやらしく笑みを浮かべ、紫煙を燻らせた。
午後2時55分、フードの男の貧乏揺すりがなお激しさを増したので、携帯で“頃合いだ”と声をかけ喫茶店を出た。
公園に入り、フードの男に近寄る。
後の4人は隠れているらしく“全員隠れているところは知っているが・・・”フードの男1人で待っていた。
「お前が佐川か?」
フードの男に問いかける。
「あぁ、そうだ!」
その男はフードをとり、素顔を曝した。
眉毛の上のピアス・・・、修から聞いていた特徴に酷似していた。
(・・・間違いない)
「てめぇか!? 舐めたマネしてくれちゃってんの!? あーーーーーっ!!」
凄んでみせてる。
「あぁ、俺だ。 俺は不動、この新宿でしがない探偵をしている・・・」
「!? なんだと! この野郎!! てめぇ黒岩組だって言ったじゃねぇか!?」
「・・・黒岩組じゃなかったらどうするんだ?」
佐川は“ヘッ”と1つ笑った。
「仲間ぁ、要らなかったみてぇだなぁ」
俺は持っていたつながりっぱなしの携帯を取り出し、一言告げた。
「やってくれ」
各場所にスタンバイしていた黒岩組の大門寺率いる助っ人達が、隠れていた餓鬼達を抑え込んだ。
「なにぃ~~~!?」
「残念だったな佐川。 俺が時間通りに来ると思ったか? お前らが来る前から、俺はその喫茶店に居たよ。 お前らの行動は丸見えだった・・・」
「くそっ! 嵌めやがったな!!」
「お互い様だ」
佐川はナイフを取り出し、俺に突っ込んできた。
咄嗟の行動だった。
こうなる事は予測していて、身構えていたから良かったようなものの、思ったよりも佐川の動きは早かった。
ちょっと焦った俺がいる。
佐川は右利きだった為に、ナイフを右手に持ち右脇腹に構えていた。
突っ込んできた佐川を左側にかわし、佐川の後ろを取った。
右利きの人間は、咄嗟に左側にかわされると対応が遅れる・・・、それを狙っていた。
突っ込んできたまんまの勢いで突き抜けて間合いを開ければ、また一からの駆け引きが始まるのに、人と言うのは面白いもので、目標が目の前から消えると探したくなるのか、立ち止まる。
背後に回ればこっちのもの。
プロレスの神様、カールゴッチが必殺技としているジャーマンスープレックスをかけてやった。
ジャーマンスープレックスなんて大層な名前がついているが、要は相手の背後から胴体に腕を回し、思いっきり後ろへ投げるだけだった。
佐川は宙を舞い・・・そんなに飛んでないとは思うが、後頭部から地面に落ちた。
「うぅ~~~っ、うぅっ、うっ」
頭を抱えて唸っている佐川の傍により、ナイフを拾い上げて声をかけた。
「佐川、封筒の中身を教えろ・・・」
・・・つづく




