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もしものはなし

作者: 巡理

来週、夏休みが終わる。


外は、傘をさすかどうか迷うような小雨が降っている。


夏の暑さを洗い流してくれているようだ。


哲也は、図書館の窓から外を見て、

小さな溜息をついた。


高校三年の哲也は、夏休み中毎日、

地元の図書館の自習室を訪れていた。


「あー、てっちゃんまた溜息。今日で3度目だよ。

おばあちゃんがよく言ってたんだけど、

溜息1回につき、結婚年齢が1年上がってるんだって。」


「なんだよ、それ。聞いたことねえ。」


哲也の正面に座っている菜美は、

持っていたシャーペンをぐるん、とひと回しした。


哲也は、ペン回しができなかったので、

菜美が上手く回すのを面白くなさそうに見た。


菜美と哲也は幼なじみだ。


元々家が隣同士で、昔からずっと見知っていた。


頭の悪い哲也と違い、菜美は勉強が良くできた。


わざわざ、他校の菜美を誘って図書館まで来るのは

自分のわからないところを補助する、

「先生」役が欲しかったからである。


「普通は、『幸せが逃げるよ』ってゆうんだけど、ウチのおばあちゃんってば、

『幸せは、生まれた時から決まった量が訪れる事になってんのさ』って。

だから、溜息つけばつくほど、恋愛の幸せが離れてくよって脅すの。」


「へぇ。」


お喋りな菜美の話を右から左に流しながら、

哲也はまた小さく溜息をついた。


「てっちゃんワザとやってる?」


菜美は、唇を尖らしながら聞いた。


「別に俺、結婚出来なくていいもん。

その分の幸せ別んとこで使い込んでやる。」


ちらり、と菜美を見ると、

その目はじっと哲也を捉えていた。


慌てて目をそらすと、菜美はふふ、と笑った。


「てっちゃん、恋愛には疎いもんね。」


菜美はまた、ペンをぐるん、と回した。


外は、相変わらず雨が降っている。


サァー、という雨音が、2人の沈黙の間に流れた。


「もしものはなし、してもいい?」


「だめ。俺、もしもの話嫌いだもん。」


不意の菜美の言葉を、哲也は素早く切り捨てた。


菜美も、哲也が「もしも嫌い」である事は知っていた。


だが、菜美は聞こえないふりをして続けた。


「もしも、てっちゃんが結婚しても、

私は、笑って、飄々としてるんだろうね。」


菜美は、別段赤くなるわけでもなく、

普段の世間話と変わらない雰囲気で話した。


「…何が言いたいわけ?」


哲也が聞き返すと、菜美は三度目のペン回しをした。


そして、ノートに目を落として呟いた。


「…生涯、独身を貫く女性って、

なんだかかっこいいと思わない?」


哲也は、それに対する上手な答えを、

持ち合わせていなかった。


家に帰った後、ペン回しを練習したが、

やはり上手にはできなかった。

私も今年高3で、この夏休みは、塾と家の往復です。

その中に、こんなのがあればなぁ。

楽しくなるのになあ。


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