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02 シルバークラウン

第2話




 地震から十日。武田攻めなどとは言っていられない状況へと越後の国は陥っていた。

 それもそのはず、越後から出る手段が越中路しかなくなっていたのだから。

 皆、あまりの混乱に昼時だと言うのに飯の事すら忘れている様だ。


「なんだと!? 越中が無いだとー?」


「ははっ、親不知が綺麗さっぱり無くなっていてそこから見知らぬ土地が!」


 覚束ない伝令の兵と越後の諸豪族の使いの者が引っ切り無しにここ春日山城を出たり入ったりと大騒ぎとなっていた。

 こんな大混乱な城内はついぞ見た事が無いほど。謙信でなくともこの騒ぎは時間を待つしかないとそう思うくらいの混乱ぶりである。


「少納言殿。ついでに出羽、信濃、陸奥への国境も無くなっていて、越後山脈の向こう側は断崖絶壁に! 下を見れば遥か下にある海へと吸い込まれるほどの崖で御座います」


「何? それでは他国との連絡が取れぬではないか!?」


 越後西頚城(にしくびき)郡に所領のある梶川少納言などは、越中との国境に見知らぬ土地を発見したと地震の次の日にはこうして春日山へと赴き、謙信に対処の方法を聞きに来ていると言う始末。

 



「皆の者。少し落ち着きなさい」


 その情報を扱うこの伝書部屋に眩いばかりの金髪の小柄な少女が現れると、騒いでいる者達へ向かって静かに注意をする。間違う事無き上杉謙信その人である。


「こ、これは御屋形様。この様な場所までお出でになられるとは恐縮の至り」


「ははーっ」


 騒がしくしていたこの部屋の者も流石に謙信が来れば黙らざるを得ず。平伏と共にシンと静まり返った。


「少納言殿? 越中路以外は全て分断されていると言うのはまことですか?」


「はい。情報を集めた結果としましてはその結論しかありませぬ」


 梶川少納言は自身でも信じられぬ事と思いながらもそう謙信に告げる。そして書類をまとめて謙信に差し出した。

 立ったまま謙信は書類をめくり読み進めていく。読んでいくうちに面白い箇所を見つけた謙信はそれをそのまま梶川少納言へと問いただす。


「この越中辺りを捜索した時の現地人と言うのはなんですか?」


「はっ。その折、私めも同道したのですが、髪の色は赤や青、果ては桃色などのなんとも奇妙な連中が居りました。そうそう、それに着物も何かと奇妙ないでたちで御座いました」


「ふむ。それは今流行の南蛮人なのではありませんか?」


 ここ数年の間にやって来たと言う、鼻の高い天狗の様な言葉の通じぬ人間が鉄砲や異国の宗教を持ってきたのは有名な話。もしかするとそれの事ではないのかと尋ねているのである。


「さて、そこまでは私には判りかねます。そもそも南蛮人を見た事がありませぬ故」


「なるほど。してその者達と言葉は通じるのですか?」


「はっ。私共が話しかけたところ、普通に通じる様でございました」


「言葉が通じるのであれば南蛮人ではないのでしょうか……」 


 間違った解釈で南蛮人ではないと決め付ける謙信ではあるが、そもそも南蛮人、要するにイスパニア人やポルトガル人を知らぬのだからどうしようもない。風聞からでしか証明できないのだから。

 ちなみにオランダ人とイギリス人の事は紅毛人と言う。




 ※図1 女神暦元年 カルマ暦元年 西暦1561年 永禄四年 の大陸図


挿絵(By みてみん)







 さてここは場所を越後から遠く離れた場所。人口で言えば二万人規模の大都市。三百年間この神聖王国シルバークラウンの首都であり続ける『王都クラウン』。その王城内にある玉座の部屋でふたりの人物が話しこんでいた。


「どうですか? 救世主様は見つかりましたか?」


 齢十七の女王ロール・ロム・シルバークラウンは叔父でもあるメッチガー・ロム・クラウンに疲れた声で聞く。

 この女王ロールがこの国の巫女として異世界からの救世主を召喚したのに、未だにその人物が見つからないのだ。


「すまぬ。未だそれらしき人物すら見つからぬでな……。せっかくロールが大魔法を執り行ったと言うのに」


 心労と責任感で、この十日ほど女王ロールはまるっきり睡眠が取れていない。それもこれも救世主が未だ見つからないから。手応えは合った。初めての召喚の大魔法ではあったが召喚に成功したのだけは実感できたのである。

 ただ、その召喚した救世主がいくら探しても見つからないのはどう言うわけなのか。


「そうですか……」


 気落ちした女王ロールは顔を傾ける。すると肩に掛かっていた見事な銀色の長い髪が一本、二本、また一本と顔の傾きと同じく下の方へとゆっくりと流れていき、最後には『パサパサ』と何百、何千の銀髪が肩から下へと流れ落ちた。

 彼女の顔は心痛のあまり眉間に皺の様なものがよってはいるが、そもそもの顔のつくりが整っており誰が見ても美少女だと判る。

 本来は明るく無邪気な女の子ではあるのだが、今のこの状況が彼女を明るくさせる事が出来ないでいる。

 

 その理由は……。


「申し上げます!」


 いきなり玉座の部屋の大きな扉が開くと伝令の者が現れた。その伝令は階下で片膝を付くとひとつ礼をとり報告をしはじめる。


「なんだ?」


 伝令の言葉に女王は言葉を発せず、変わりにメッチガーが答える。


「はっ! 我が砦は未だ五千もの帝国兵に囲まれている状況。援軍はいつ頃出発いたしますか!! 我が砦の食料も一ヶ月は持ちません!」


「う、うむ。兵を今集結させているところだ。もうしばらく待て!」


 砦の兵は一〇〇〇にも満たない兵。しかもこちらはあまり魔法兵が少ないのだ。そしてここを陥とされたらもう王都まではひたすら平原しかなく、砦の陥落は実質三百年続くこの王国が消えて無くなってしまう事を意味した。

 事態はすでに悪化している。

 速やかに救世主を探し出しこの国を守ってもらわなければと女王ロールはそうひたすら思うのだった。

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