第4章 出迎えは来たか (6)
第4章 出迎えは来たか (6)
よく破壊されなかったものだ、とアンディは思った。
王城の壁際にあった王族の墓の多くが魔法使いの破壊によって潰された城壁の下敷きとなる中、母の墓はその瓦礫のすぐ横にちんまりと存在していた。
「そら、とっくりお袋さんと話し合うがいい」
やらせで捕り手をやっていたディアスの扱いとは違い、カトランズの兵はアンディを”捕虜”としてしか扱わなかった。足で蹴飛ばされて母の墓前に膝をついたアンディは、墓石の小ささに愕然とした。生きているうちからも華奢で儚げであった母がこのような姿になろうとは。
両手が縛られたこのような状態でなければ墓石に取りすがり声をあげて泣いたかもしれないものを。それはウォルホール地方には珍しい滑らかな白い石で、確かカトランズの方で多く産出されるものだと聞いたことがある。
母は故国の石を抱いて眠っているのだ、とアンディには思えた。
……帰ってきたよ。
黙したまま語らぬ母にアンディは心の中で語り続けた。
僕がいなかったから国はこうなったのかな。
父上や兄上は僕がいなかったことを恨んでいるかな。
国の人たちは……今頃帰ってきた僕を嫌っているかな。
よく母さんと城外へ出て国の人たちと話をしたね。瓜やら芋やら畑で採れたものをよく差し出してくれたっけ。
……誰も目を合わせようとしなかったよ。戒めを受けて船長と共に国に入ってきた僕を、誰も助けようともしなかったよ。声すらかけなかったよ。皆、見てはいけないものでも見るかのように、そそくさとその場を立ち去っていったよ。
……僕は何をしたらいいんだろうね。
”ズァ・ガンの針”には父上、兄上もいるらしいんだ。僕になんと言うのだろうな。「それでも国を守れ」と言うのかな。
……国は、国民は僕に守られたくないと思うんだよ。
僕は、何をすればいいのかな。
船の生活は大変そうだけど、がんばってやれる仕事もあると思うんだよ。……少なくとも僕を心配して叱り飛ばしてくれる人がいるんだ。
でも、僕はまだ、この国の王子なんだよね。
……父上や、兄上に話さなくちゃな。
”自分にはもう国は背負えません”って。
いつの間にかアンディの口元には笑みが浮かんでいた。間違っているかもしれないけど、これが今の自分が行く道だと思えた。
「おら! さっさと立ちやがれ! いつまで座ってんだ! 」
乱暴に兵士が縄を引っ張って小突いた。
アンディは落ちついた表情で立ち上がった。
今、アンディは自分の意思で自分の行く道を決めた。




