Nちゃんの話
ひんやりしていってね!
【画像・コハさま】
あー、七夕ですねー。
もう終わったけど。
彼氏ナシ、希望もナシの私にゃ、縁のない日ですわ。
そんな夜に私の怪談を聞きにきたあんたらも大概だよ……愛してる。
それからね。
先に言っとくけど、会場になってるこの屋敷……ちょっと特別でね。
今晩、眠れるといいね。
そうだ、せっかくだし、今日はとある屋敷にまつわる話をしようかな。
私にとってちょっと特別な話だから、茶化しはナシでいきます。
私、今は岐阜に住んでるんですけど、小さい頃は家庭の事情で、あちこち引越してたんです。
一番長くいたのは、母方の祖母の家かな。
小学校低学年の時に引越して、三年くらいいたんですけど、ド田舎と地方都市の間くらいの場所、と思ってください。
それなりの人口はあるけど、地元のコミュニティが根強い、よくある町ですね。
そんな場所なんで、子供の付き合いもご近所さん中心で、私はよく、ほんの二、三分歩いたところにあるNちゃんと遊んでました。
Nちゃん家は、その地方の特産品を商売にしてる大きなお屋敷で、離れやら土蔵やらもある豪邸でした。
貧乏人の私からすれば全部が珍しくて、公園みたいなノリで遊びに行った記憶があります。
家の人は自営業で忙しくて、子供が友達を連れてきても何の干渉もないから、好き勝手遊んでましたね。
でも、Nちゃんとその家には、ちょっと変わったところがあって。
まず、Nちゃん、学校でいつもひとりぼっちなんです。
お金持ちの子だし、いじめられたりとかはないけど、避けられてるというか。本人もそれが当たり前と思ってるみたいで、気にしてなかったようですけど。
Nちゃんが変わってる、というわけじゃありません。ちょっと大人しいかな、くらいの普通の子で。
だから、転校生の私も話しかけやすかったんですよね。家も近いし。
それから、そこの家。
庭の隅にお稲荷さんの祠が祀られてるんです。
それは珍しいことじゃないかもしれません。会社の屋上なんかに祀られてるとこあるし、その延長と考えれば。
でも、祠がしめ縄でぐるぐる巻きにされてるのは、その当時も普通じゃないなと思いました。
それから、土蔵。
二階建ての大きな土蔵で、いつも入口の扉は閉まってました。
でも時々、二階の小窓が開いてるんですよ。
土蔵の前で遊んでた時、フッと気になって、窓を見上げたことがあるんです。
中から男の人が、私たちを見下ろしてました。
「あれは誰?」
私がNちゃんに聞くと、
「お兄ちゃん」
彼女はそう答えました。
「なんであんなところにいるの?」
するとNちゃんは、言いにくそうに小声で言ったんです。
「お兄ちゃん……まともじゃないから」
子供ながらに、あーこれは聞いちゃいけないことだったのかな、と、私たちはそれから、土蔵の近くを避けて遊ぶようになりました。
――で、そんなNちゃんが、突然、いなくなってしまったんです。
正確に言うと、Nちゃん一家が、ですね。
一番仲の良かった私にすら何の挨拶もなく、本当に突然、引越しちゃったんですよ。
さすがに私もおかしいと思って、祖母に事情を聞きましたよ。そしたら、
「夜逃げだな」
って。
田舎のコミュニティだから、祖母は色々と知ってました。
旦那さん……Nちゃんのパパですね。女癖が悪くて、奥さん、つまりはNちゃんのママが自殺したこと。
後妻に来た人はNちゃんを邪魔にした上、お金を使い込んで商売が傾いたこと。
そんな家だったんで、祖母は全く驚かなかったようです。
Nちゃん家はしばらく空き家になってました。
他に友達いないし、時々私は、コッソリとNちゃん家の空き家で遊んでました。
そんなある時、祖母が血相を変えて私を迎えに来たんですよね。
「もうここには来るな」
って。
それから間もなく、私も引越して、しばらく祖母の家には行かなかったんですけど、十年ぶりに親戚の集まりがあって。
祖母の葬儀ですね。
お通夜の席に親戚が揃えば、いろんな昔話が出るわけです。
私はいなり寿司をつまみながら、ふとNちゃんの家のことを聞いてみたんです。
祖母の家に来る途中、Nちゃん家の横を通ったら、草ボーボーの更地になってるのが見えたんで。
そしたら、伯父……母のお兄さんですね。
彼が母と顔を見合せて、
「あんな土地を買う奴なんか、地元にはいない」
と言うんですよ。
伯父は地元で不動産関係の仕事をしているから、そういうの、知ってるんですよね。
「あんな土地ってどういうこと?」
と、私がしつこく聞いていると、
「あんたも大きくなったし、もう話していいでしょ」
と、母が説明を始めたんですけどね。
――あの家は、まともじゃない。
そう切り出した母の話をまとめると、こんな感じです。
まず、あの家に祀られていたお稲荷さんは、お稲荷さんではない。
式神――名前くらいは聞いたことがあるんじゃないです?
陰陽師の使い魔、というのはファンタジーの世界で、実際には、呪術なんかに近いものがあったようですね。
蠱毒が有名じゃないかな。壺に虫をたくさん入れて共喰いさせて、その怨念を利用するってやつ。
詳しいことは分からないんですけど、Nちゃん家のお稲荷さんモドキが、そんなもののようで。
商売繁盛を約束する代わりに、その家の嫁の最初の子はまともに生まれない――。
だから地元には、「あの家に嫁は出せぬ」みたいな不文律があったようです。
まともに生まれない――
つまりは、お稲荷さんモドキの生贄――
ところが。
平成の話ですからね。生贄とか気楽にできる時代じゃなくなったんで、「まとも」に生まれなかったNちゃんのお兄さんは、ずっと土蔵で暮らしてたみたいです。
けれども、お稲荷さんモドキはそれじゃ納得しなかった。
それが、Nちゃんのママだったんだろうと、母は言ってました。
でも、一度約束を反故にした一族に、呪いは容赦ありませんでした。
商売繁盛どころか、多額の借金を背負って、夜逃げしなければならない状況に追い込まれた訳です。
「大手不動産会社があの土地を手に入れたんだけど、『アレ』を祓いもせずに更地にしたものだから、もうあの土地は使えない」
何度か、マンションやら建売住宅やらと計画が出たみたいですけど、必ず頓挫してしまうとか。
あるんですよね、そういう場所。
……え?
普通の怪談じゃん? 特別って何? って?
そう来ると思ったよ。
私が「特別」と言ったのには理由があって……現在進行形の話だから。
実は、少し省いて話したんだよね。
Nちゃん家によく遊びに行ってた私が、Nちゃんの境遇に気づかなかった訳がなくて。
いわゆる、ネグレクトってやつ。
豪邸だから、お手伝いさんがお世話してたみたいで。だから、外からは分からなかったんだよね。
でもさ、さすがに何度も家に遊びに行けば、分かるよ。
とはいえ、私も子供だったし、どうしていいか分からなくて、Nちゃんに言われるままに、祠にお参りしたんだよね。
――この家が消えてなくなりますように。
その通りになりましたよね。
多分、祖母は、お稲荷さんモドキのことを知ってて、私が手を合わせないように、連れ戻したんじゃないかな。
でも、遅かったんですわ。
ずっとおかしいと思ってます。
私みたいな陰キャが怪談大会で二連覇とか。
教員辞めてYouTuberでまったり生活とか。
スピーチコンテスト優勝から一気に有名人とか。
人生がうまくいきすぎてる。
だからね、私、結婚しないの。
だって、もし子供ができたら……。
Nちゃんのその後?
さぁ。
どこかで元気にしてるといい、けどねぇ……。




