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Nちゃんの話

作者: 篠田林檎
掲載日:2026/07/08

ひんやりしていってね!

挿絵(By みてみん)

【画像・コハさま】


 あー、七夕ですねー。

 もう終わったけど。

 彼氏ナシ、希望もナシの私にゃ、縁のない日ですわ。


 そんな夜に私の怪談を聞きにきたあんたらも大概だよ……愛してる。


 それからね。

 先に言っとくけど、会場になってるこの屋敷……ちょっと特別でね。

 今晩、眠れるといいね。


 そうだ、せっかくだし、今日はとある屋敷にまつわる話をしようかな。

 私にとってちょっと特別な話だから、茶化しはナシでいきます。


 私、今は岐阜に住んでるんですけど、小さい頃は家庭の事情で、あちこち引越してたんです。

 一番長くいたのは、母方の祖母の家かな。


 小学校低学年の時に引越して、三年くらいいたんですけど、ド田舎と地方都市の間くらいの場所、と思ってください。

 それなりの人口はあるけど、地元のコミュニティが根強い、よくある町ですね。


 そんな場所なんで、子供の付き合いもご近所さん中心で、私はよく、ほんの二、三分歩いたところにあるNちゃんと遊んでました。


 Nちゃん家は、その地方の特産品を商売にしてる大きなお屋敷で、離れやら土蔵やらもある豪邸でした。

 貧乏人の私からすれば全部が珍しくて、公園みたいなノリで遊びに行った記憶があります。

 家の人は自営業で忙しくて、子供が友達を連れてきても何の干渉もないから、好き勝手遊んでましたね。


 でも、Nちゃんとその家には、ちょっと変わったところがあって。


 まず、Nちゃん、学校でいつもひとりぼっちなんです。

 お金持ちの子だし、いじめられたりとかはないけど、避けられてるというか。本人もそれが当たり前と思ってるみたいで、気にしてなかったようですけど。

 Nちゃんが変わってる、というわけじゃありません。ちょっと大人しいかな、くらいの普通の子で。

 だから、転校生の私も話しかけやすかったんですよね。家も近いし。


 それから、そこの家。

 庭の隅にお稲荷さんの祠が祀られてるんです。

 それは珍しいことじゃないかもしれません。会社の屋上なんかに祀られてるとこあるし、その延長と考えれば。


 でも、祠がしめ縄でぐるぐる巻きにされてるのは、その当時も普通じゃないなと思いました。


 それから、土蔵。

 二階建ての大きな土蔵で、いつも入口の扉は閉まってました。

 でも時々、二階の小窓が開いてるんですよ。


 土蔵の前で遊んでた時、フッと気になって、窓を見上げたことがあるんです。


 中から男の人が、私たちを見下ろしてました。


「あれは誰?」

 私がNちゃんに聞くと、

「お兄ちゃん」

 彼女はそう答えました。

「なんであんなところにいるの?」


 するとNちゃんは、言いにくそうに小声で言ったんです。


「お兄ちゃん……まともじゃないから」


 子供ながらに、あーこれは聞いちゃいけないことだったのかな、と、私たちはそれから、土蔵の近くを避けて遊ぶようになりました。


 ――で、そんなNちゃんが、突然、いなくなってしまったんです。


 正確に言うと、Nちゃん一家が、ですね。

 

 一番仲の良かった私にすら何の挨拶もなく、本当に突然、引越しちゃったんですよ。

 さすがに私もおかしいと思って、祖母に事情を聞きましたよ。そしたら、

「夜逃げだな」

 って。


 田舎のコミュニティだから、祖母は色々と知ってました。

 旦那さん……Nちゃんのパパですね。女癖が悪くて、奥さん、つまりはNちゃんのママが自殺したこと。

 後妻に来た人はNちゃんを邪魔にした上、お金を使い込んで商売が傾いたこと。


 そんな家だったんで、祖母は全く驚かなかったようです。


 Nちゃん家はしばらく空き家になってました。

 他に友達いないし、時々私は、コッソリとNちゃん家の空き家で遊んでました。


 そんなある時、祖母が血相を変えて私を迎えに来たんですよね。


「もうここには来るな」


 って。


 それから間もなく、私も引越して、しばらく祖母の家には行かなかったんですけど、十年ぶりに親戚の集まりがあって。

 祖母の葬儀ですね。


 お通夜の席に親戚が揃えば、いろんな昔話が出るわけです。

 私はいなり寿司をつまみながら、ふとNちゃんの家のことを聞いてみたんです。


 祖母の家に来る途中、Nちゃん家の横を通ったら、草ボーボーの更地になってるのが見えたんで。


 そしたら、伯父……母のお兄さんですね。

 彼が母と顔を見合せて、

「あんな土地を買う奴なんか、地元にはいない」

 と言うんですよ。


 伯父は地元で不動産関係の仕事をしているから、そういうの、知ってるんですよね。


「あんな土地ってどういうこと?」

 と、私がしつこく聞いていると、

「あんたも大きくなったし、もう話していいでしょ」

 と、母が説明を始めたんですけどね。


 ――あの家は、まともじゃない。


 そう切り出した母の話をまとめると、こんな感じです。


 まず、あの家に祀られていたお稲荷さんは、お稲荷さんではない。


 式神――名前くらいは聞いたことがあるんじゃないです?

 陰陽師の使い魔、というのはファンタジーの世界で、実際には、呪術なんかに近いものがあったようですね。

 蠱毒が有名じゃないかな。壺に虫をたくさん入れて共喰いさせて、その怨念を利用するってやつ。


 詳しいことは分からないんですけど、Nちゃん家のお稲荷さんモドキが、そんなもののようで。


 商売繁盛を約束する代わりに、その家の嫁の最初の子はまともに生まれない――。


 だから地元には、「あの家に嫁は出せぬ」みたいな不文律があったようです。


 まともに生まれない――

 つまりは、お稲荷さんモドキの生贄――


 ところが。

 平成の話ですからね。生贄とか気楽にできる時代じゃなくなったんで、「まとも」に生まれなかったNちゃんのお兄さんは、ずっと土蔵で暮らしてたみたいです。


 けれども、お稲荷さんモドキはそれじゃ納得しなかった。


 それが、Nちゃんのママだったんだろうと、母は言ってました。


 でも、一度約束を反故にした一族に、呪いは容赦ありませんでした。

 商売繁盛どころか、多額の借金を背負って、夜逃げしなければならない状況に追い込まれた訳です。


「大手不動産会社があの土地を手に入れたんだけど、『アレ』を祓いもせずに更地にしたものだから、もうあの土地は使えない」


 何度か、マンションやら建売住宅やらと計画が出たみたいですけど、必ず頓挫してしまうとか。


 あるんですよね、そういう場所。


 ……え?

 普通の怪談じゃん? 特別って何? って?


 そう来ると思ったよ。


 私が「特別」と言ったのには理由があって……現在進行形の話だから。


 実は、少し省いて話したんだよね。

 Nちゃん家によく遊びに行ってた私が、Nちゃんの境遇に気づかなかった訳がなくて。


 いわゆる、ネグレクトってやつ。


 豪邸だから、お手伝いさんがお世話してたみたいで。だから、外からは分からなかったんだよね。

 でもさ、さすがに何度も家に遊びに行けば、分かるよ。


 とはいえ、私も子供だったし、どうしていいか分からなくて、Nちゃんに言われるままに、祠にお参りしたんだよね。


 ――この家が消えてなくなりますように。


 その通りになりましたよね。


 多分、祖母は、お稲荷さんモドキのことを知ってて、私が手を合わせないように、連れ戻したんじゃないかな。

 でも、遅かったんですわ。


 ずっとおかしいと思ってます。

 私みたいな陰キャが怪談大会で二連覇とか。

 教員辞めてYouTuberでまったり生活とか。

 スピーチコンテスト優勝から一気に有名人とか。

 人生がうまくいきすぎてる。


 だからね、私、結婚しないの。

 だって、もし子供ができたら……。


 Nちゃんのその後?

 さぁ。

 どこかで元気にしてるといい、けどねぇ……。

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― 新着の感想 ―
最初のフリがしっかり最後とも絡んできてゾワッとしました(;^△^) なんでこうジャパニーズホラーって、どれもこれもじっとりねっとり恐怖が這い寄ってくる感じなんですかね……大好物です(*´艸`) 楽しく…
ラストの展開で『うおおお、そうなるのか!』唸りました(`・ω・´) からっとした語り口なのに、ずっと不気味な雰囲気が漂っていて、その不安定な感覚も上手くホラーとして落とし込んでいるって感じがしました。…
お見事な大トリの怪談でしたね。仄めかすようにだけどスタジオになっている屋敷がこの噺で語られている屋敷なんじゃないか……?と思わせぶりに語っているのがイイですね。だけども明言はしてない。ここがそうだとは…
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