0
五歳になった頃。ベランダから妹とメイドが遊んでいるのを眺めていたときだった。前世のことを思い出した。俺は自分かそうでない柔肌のありもしない無精ひげを掻いていた――ざらざらと。
ざらざらと――パラパラと。ちょうど三十枚。答案用紙を摩った。夜も八時に差し掛かっていた。廊下が外よりも暗い。不思議と職員室も同じような気がした。最近あまり眠れていない。
いわゆるモンスターペアレンツというやつだ。少し説教しただけで、およそ説教ではない罵倒を、もちろんその母親よりも沢山浴びた。これは皮肉だ。そのせいで最近は余計に忙しくなって、寂れた職員室に一人、もう九時になっていた。
帰ろう。
車を運んで、コンビニでやけに高くなったような気もしない、考えるのも面倒だ、そんなものをすっからかんな助手席に置いた。右とか左とか曲がるたびに弁当が席から落ちそうになる。俺はいつだって公平に生に接してきたはずだが、安全な運転などない。暗く殺風景な夜ならなおさらだ。スピード違反のあの車は実は道路が横に傾いているからなのかもしれない。
黄色信号を通り過ぎて車を止める。アパートは随分と年季が入っている。地震が起きれば間違いなく潰れるだろう。そのとき俺は随分と丈夫な中学校舎にいるだろうが。今のような、真夜中なら、それこそ呪われている。
すでにそうかと重い足で階段を叩き、軽い音を鳴らす。錆びついた階段も暗いので見えない。下ばかり向いていても自分の影のおかげで気づかない。
これには理由がある。俺の影が他よりも濃いのだ。目が霞んでいるからでもある。201号室の鍵穴に鍵を差し込み、捻る。押戸だ。引き戸じゃない。それと陰湿な空気が俺を僕から解放した。ネクタイをほどきながらレンジに安い弁当を入れて温める。
一分で良いところを二分半。その間に荷物を落し、座布団に座る。椅子は無い。高所恐怖症なんだ。この二分半は数少ないどうでも良い時間だ。だから机に寝そべる。馬鹿みたいに。
肘に何かがぶつかった。肘の骨も折れていないし、かさぶたさえもできていない。ゲームソフト。コンシューマー版の『Knight Warrior』というゲームだ(以下だいたいKW)。昔、よくやっていたゲームだ。PC版も買ったほどハマっていた。もうほとんどすることはなくなってしまったが。よくあるナーロッパのRPGだ。
楽しい日々を思い出すという、湯船に浸かるとしよう。これは比喩だ。最後に湯船に浸かったのはいつだったかさえわからないが、KWを始めて触ったのは高校生の頃だ。そこには一つの世界があるようだった。オープンワールド。街並みと人々の暮らし。平和でもあり混沌ともしていた。日常の退屈を埋めるには丁度のいい世界だった。
KWは自由に主人公を作ることができる。戦士や軍人にもなれるし、魔法使いや信仰者にもなれる。戦いとは無縁の商人にもなれた。意味が分かっただろう。べつの世界がそこにあるのだ。色んな生き方ができる。まぁ大抵はバトル寄りのキャラになってしまうが。
そういえば昔、最強キャラを作ったな。あれは面白かった。自由に暴れ回った。芸術的に敵をなぎ倒していった。救いたい人を救い、倒すべきやつを倒した。英雄気分だった。武術スキルも魔術スキルも制覇したな。制覇とは全部手に入れたってことだ。
でもそれが最後だったな。最強のキャラを一度やると他のキャラの物足りなさに気づいてしまう。つまらなく感じてしまう。だからやらなくなった。というかそれ以上にリアルが忙しくなった。
暇が出来たらまたやってもいいけど、いつ暇になるのか。休日も部活の顧問だ。とてもゲームをする体力も気力も残らない。大人はよく心と喉が渇くということだ。
冷蔵庫にいつのかわからないビールがある。もちろん飲まない。酔えないというよりすでに酔っているし、酔ってしまえば眠たくなる。目を覚ましたら朝じゃ死にたくなる。もっと時間を無駄にしたい。ノンアルコールにする。肝臓にも優しい。
ずっとノンアルコールだ。宴会だと学年主任が「子供かよ」と煽ってきたりもする。「どちらが」と煽れないから子供ではないようだ。本当に子供だったら楽だろう。
なぜ教師になってしまったのか。十年くらい前の自分を刀剣でぶった斬ってやりたい。そう不満を抱いても仕方がない。最近は特にそうだ。生徒が、子供が向けてくる教師への視線、それがキツイ。まるであれは赤いレーザーみたいだ。あの赤線が俺の周りを複雑に囲って身動きが取れない。もう取れない。普通の仕事なら辞めてやれるが、迷惑がかかるのは同僚だけじゃない。
さっきまでゲームのことを考えていたはずなのにいつの間にか職場に戻ってしまった。もう止めよう。ここは自分の部屋だ。ワンルームだ。
そろそろ二分半。温まってきたころだろう。大して腹も空いていない。舌にこびりついた弁当の味が想起する。開ける前に。
じゃあ開けたらどうなるって?――パカリ
「ただ取るだけだ――」
ドカーン! 電子レンジ大爆発。俺は吹き飛ばされた。
黄色い破片が目を潰す。目玉焼きだ! 違う! 爆発生卵だ!
そのまま俺は爆風で壁に激突。後頭部を壁に強打。
え? 嘘だろ。視界がほんとに真っ暗に。
ヤバい。ヤバい感触がどんなかって実際に生卵をレンジに入れてみればわかる。これはヤバいやつだ。
「嘘だろ……死因、電子レンジかよぉ……」
当たり所が悪かったらしい――村田恭介(33)死亡。
その後はご察しの通りだ。ゲームの世界の貴族の息子に転生した。マリアという町の領主の息子だ。
俺、レイディン・マリアスローグは、今年16歳になる。流石に、そろそろ自分の前世のことを家族に話さないといけないような気もするが、死亡理由だけに明かせない。明かしたくない。
だから成人16歳の現在、この秘密を墓場まで持っていこうと決意した。
俺の専攻はエレメンタル魔術だ。日本語で言うと属性魔術。火とか水とかがうんぬんする分野だ。うんぬんが何かはご想像にお任せする。
ともかく俺はソナリカ学院を中退したのを父親にバレて、マッムスとかいう田舎の管理を任されたので、一日中屋敷の中でひっそりと暮らしている。村人から税金を搾取する代わりに税金の管理をするというなかなか大変な仕事だ。
大変過ぎてもう19歳になってしまった。大変過ぎて見合いの話すら来ない。
今日も書斎にどっかから仕入れた桃色の本を埋めたり、抜いたりするだけだ。ああ。忙しい。
「レイディン様。そろそろ盗賊からエロ本を密輸するのを止めた方がよろしいかと」
こいつは執事のライアス。23歳の好青年だ。
おいおい。メイドは美少女にしないとダメだろって? 二人くらい手を出したらどっか行ってしまった。それが父にバレてこうなった。言わせるな。
「俺がどうしようと勝手だろ。せっかく二度目の人生だし、貴族の生まれだ。自由にさせてくれ。お前は悪魔か」
「敬虔なる光教会の信者であり極めて道徳的なあなたの執事です。ええ誰よりも道徳的な」
「あれ。ロリ本がある。ロリは性癖じゃねえから絶対違うな。いつ紛れたんだ? 要らないし、焼いてしまうか。よいしょ! 焚書!」
「お待ちになってください。レイディン様! レイディン様ぁ!?」
声からわかる通り、俺は枯れ葉と焼き芋の隙間に忌まわしきロリ本を挟んだ。ライアスが慌てて枯れ葉に頭を突っ込んだところで、俺が火の魔術で火力を上げるとライアスは本片手に出てきた。
「なにするんですか!」
「いや。早く焼き芋食べたいなって」
「焦げますよ! 芋も私も!」
焼き芋を手に取り一口。ちょうどいい甘さと食感だった。
ライアスはなおもあたふたしていた。
「同人誌は無事だろ。なに焦ってんだ?」
「レイディン様。先ほども言いましたが、盗賊からの密輸をやめたほうがよいかと」
「あー。もしかして盗賊が捕まったってやつ? 大丈夫だって。神経質だな。芋食べるか?」渡す。
「よく考えてください。もしもこのことがハルディン様にバレてしまえばどうなるか」摘まむ。
「バレないって」
「そう言って今までバレてきましたよ」猫舌。
「それはお前がバラすからだろ。ポリアンサからの禁制品での摘発だろ? エロ本はアスチルベからだから関係ねえよ」
「でもエロ本もユーシアから輸送されているはずですよ?」
「ん。待て。摘発ってスレンじゃなくてユーシア?」
「そうですよ」
「畜生! あのカス! 俺を騙しやがったなぁ!!!」
俺は荷物をまとめに屋敷へ戻った。
「うん。やはり不味いですね」
ライアスは枯れ葉を水の魔術で消化して同じく出発の準備に取り掛かった。
色々と単語が出てきたが、それほど重要じゃない。
ただ一つだけはっきりとさせておく。ユーシアに俺を騙したクソ盗賊がいる。しかもじきにそこへ騎士の捜査が入ってくる。もしもあのクソ盗賊が捕まっちまったら俺のことを吐くかもしれねえ。いいや、吐くだろう。だから今から俺とライアスは馬車に乗り込み、ユーシアへ行くのだ。
「なんのためだって? もちろん奴を殺すため――」
「レイディン様。冷静になってください。暗殺者に依頼しましょう」
「そんな金も時間もねえよ!」
「地位も名誉もすでに?」
「ねぇよ! あるよ!」
とにかく馬車が走ってユーシアへ。ユーシアはマッムス村から山を越えたところ。そこ周辺はよく山賊が出る。だから旅人は絶対に日中、やや遠回りになるが安全な道路を進む。
しかし俺たちにそんな余裕はない。ビビり散らかす運転手のおっさんに怒鳴りちらかして無理やり夜、近道を進む。
ああそうだよ。そのせいでだ。今、廃砦。俺とライアスは山賊に捕まっちまった。見慣れた光景だ。縄で縛られている。
長髭の禿のおっさんがぶらぶらと俺たちに近づいてきた。
「ここはなぁ……俺たちの縄張りなんだよ。知らなかったじゃ済まねえな」短刀頬へペチペチ。
「やめろぉ!」
「冷えるかぁ? 夜だもんなぁ。女がいたらそうじゃなかったんだけどな。よりにもよって全員男かよ。ツイてねえな」
「失礼ながら言わせてもらいたい。そこのおじ様はわかりませんが、私たちは付いています!」
「ひょっとしてボケてるのか?」俺に聞いてきた。
「パニックなんだよ」
「そ、そうか。とにかく見たところいい身なりだな。身代金をがっぴり――」
「がっぽり。がっぴりってなんだよ」
「下痢とかですかね?」
「ごほん……がっぽりと頂けそうだ。なぁ、誰に手紙を送ればいい?」
山賊が俺に顔を近づけてきた。ライアスが横で「あばば!」と涎巻き散らかして暴れているのも無視して。
さて。茶番はこれくらいでいいか。
「アスチルベ百番地に送ってくれ」
「宛名は?」
「アスチルベ騎士団だ!」
俺は火の魔術で足の縄を焼き切ると山賊を顎から蹴り飛ばした!
同じくしてライアスも手足の縄を焼き切ると、近くにあったマットレスを窓から落とした。
「異世界で縄で縛るとか。時代遅れなんだよ!」
「貴様ぁ!」山賊が斧を装備した。
「おっと。手紙にちゃんと自分の名前を書いておけよ。送っておいてやるよ」
「そうだ!」指差すおっさん。
「……?」
おっさんを窓から落とした。その後、山賊の攻撃を難なくよけ、ライアスがなんかベタベタした緑色の魔法で山賊を威嚇。
「なんだこりゃ?」
「今のうちです!」
俺とライアスも窓からマットレスに着地。おっさんが馬車を運んできた。
「急ぎましょう!」
「おっさんやるじゃん。見張り倒したのか?」
「いえ?」
見張りは俺たちが持ってきた同人誌に夢中だった。夢があるな。
ともかく俺とライアスは馬車に乗り、廃砦を後にした。
「待て! 貴様ら! おい、お前らなにしてやがんだ!」
と後ろ窓に山賊が説教するのを眺めながらライアスは呟いた。
「ここの話って必要ですかね?」
「山賊を野放しにしてもいいってことか? そいつは貴族らしくないだろ」
ともかく馬車は進んでいく。
まぁ確かに茶番だった。こんなのはどうでもいい。途中、森から助け呼ぶ美少女の声が聞こえたり、奴隷商人に追いかけられている幼女を見かけたが、茶番なのでスルーした。お前らが言ったんだろ。
まぁ美少女のほうは追ってきた山賊のおっさんがどうにかしたし、幼女はロリなのでライアスがどうにかした。それ以上は知らん。
とりあえず馬車に美少女とロリを乗せてユーシアへ向かう。山賊のおっさんは置いていく。山賊だぞ。温情なんているか。
なんとか夜明け前にユーシアに着いた。昼になったら騎士が本格的に動くだろうからさっさと奴を見つけ出さないと。
「ううん! これは幼女であってロリではない! 夢とは認識の間にあると言うが、これに関しては完全に異世界にある。このことを論文にしてソナリカ学院に提出するべきだ!」
「お前、元気だな」
ユーシアへ入って行く。昔までは見張りと検問が厳しかった。そのおかげで治安もよかったろうが、今は寂れている。戦争があったからだと言われている。平気で路上にゴミが捨てられているくらいにアスチルベの町って感じになっちまった。
「確か、ヨルダでしたね。盗賊の名前は。なにかあてがあるんですか」
「俺を誰だと思っている」
「マリアローグ家の落ちこぼれ」
「黙れ。ロリコン!」
「で、どこへ向かうのですか」
「兵舎だ」
「なるほど。まだ誠実さが残っていたのですか。では私はこの辺で失礼して」
「自首じゃねえよ。べつに犯罪してたわけじゃないし。町のことをよく知っているやつに聞くべきだろ」
衛兵ネットワーク。およそどこの異世界でも衛兵が世の中のことを一番知っている。これは異世界の常識だ。
俺は格式高いマリアローグの一人。秘密の関係がいたるところにある。今から会う衛兵もその一人だ。
短髪黒髪、平均的な背、細身、起きたばかりの17歳。
「久しぶりだな。マックス」
「えーっと。レイディン先輩でしたっけ? こんな時間に何の用です」
「ちょっと道を聞きたいんだ」
「道ならそこの同僚に聞いてください。眠いので寝ます。また今度」
「(怪しい。もしやこのマックスとかいう衛兵。知り合いというだけでは?)」
「俺とお前の仲だろ」
「部活が一緒ってだけですよ。しかもすぐに来なくなったし、なんなら中退したし。道ならそこの衛兵に聞いてください。今は勤務外です」
「そこを何とか」
サッと俺は300ゴールド渡した。
マックスの面持ちが変わった。
「しょうがないですね。古い友人の頼みです」
「(む? どうやら勘違いでしたか)」
よし。買収できた。
あとついでに衛兵たちに少女とロリを渡した。
マックスにヨルダの家の場所を聞いた。マックスはかなり驚いた。バリバリ裏社会の住人だからだ。俺は違うが。断じて。
「ヨルダは盗賊団の一員の疑いがあります。もしかしてレイディン様。事件に関わっているんじゃ?」
サッと600ゴールド。
マックスの面持ちが変わった。
「ついて来てください。あ、ここでした」
貧民街の隙間を通って、たまに野良犬の尻尾を踏んで、猫にひっかかれて。やっとついた。廃聖堂だ。
「聖堂ですね」
「ヨルダの母は光教会の神巫でしたからね」
「待ってください。神巫は子供が作ってはいけないはずです!」
「話が進まねえ。黙ってろ。案内はもういいぞ」
「勝手にしゃべります」キリッ。
マックスは去っていった。俺とライアスは廃聖堂の中へ。案外掃除されいて綺麗だな。
おいおい。聖なる鏡の前で祈っている女がいる。白い衣装で見るからに信者っぽい。あれか?
「あのーすいません。ヨルダさんですか? 仕事の話が」
「もうじき……来ます」
「なにが?」
「祈っている最中です。待ちましょう」
「まぁいいか。ん?」
「どうかしました?」
「今、なんか揺れなかったか?」
揺れ。暇じゃなきゃ気づかないくらい。自分の鼓動と見分けもつかないくらい。
揺れ。髪がわずかに靡いただけ。風かと思った。
揺れ。
揺れ。
――揺れている。揺れている! 立てないくらいに揺れ始めた!
「この揺れは――」
「レイディン様。このまま建物の中にいたら危険です!」
「来る……来る!」少女はハッとこっちを向いた。
「なにがだ?」
「来てしまった!」
なにやらよくわからねえ。こっちじゃない。少女はどちらかというと入り口、町のほうを見ていた。
聖堂の瓦礫が落ちてきた。ともかくライアスの言うとおりだ。このままここにいちゃまずい。
俺とライアスは外へ出ようとした。でも少女はそうじゃなかった。鏡に祈り始めやがった。
「レイディン様! 善人じゃないでしょう!」
「傍観者ってわけでもねえよ!――おい。逃げるぞ」
「逃げる……逃げられません。だってもう――」
この子が何を言っているかだなんてわかるやついるか? いないだろ。俺も全く分からないからな。
だた少女の真っ白の手首を握ったとき、そこから地震の振動が伝わってきたとき、それが頭まで来たとき。刺さった。恋じゃない――俺はこの揺れを知っている。
「ライアス! 外に出るな!」
「死ねと?」
「違う! これは罠だ!」
ライアスが振り向いた聖堂の出口の手前、そこからとんでもない爆風が飛んできた。ライアスがこっちまで吹っ飛んだ。
黒い煙が竜のようにうねって外を埋め尽くしている。そして今度やって来るのは、そうだよな、隕石だ。隕石がドタバタと降ってきて炎と黒煙を巻き散らすんだ。悲鳴と一緒に。
「レイディン様。これは一体?」
「こんなことあり得るのか? いや、俺も転生者か。と、とにかく隠れろ」
「どこにですか!」
「ここは確か。地下室があるはずだ。運がよければそれで助かる」
俺とライアスは地下室へ逃げた。少女ももちろん連れてきた。
暗くてカビ臭い。最悪な空気。酷い揺れ。鳴りやまない悲鳴。冷たい地下室。
十分くらいした頃、揺れが収まった。悲鳴も止んだ。
「ここで待ってろ」
「レイディン様! 危険です!」
確かめなければならない。俺の勘が正しければこれは――階段をのぼって地下室を出た。
そこすでに外だった。天井が無くなっていた。壁も無くなっていた。あるのは火事と煙、血と死体、建物を残して誰もいなくなった町。嘘みたいに声の無い町。
風が吹いた――竜が向こうへ飛び去っていた。その頭に見覚えのある衣装の男が乗っていた。そいつがこっちを振り向いた。銀色の仮面がはっきりと見えた。
「お前はキョウスケか?」
あの化け物は俺に気づいていたのか。わからない。奴は去っていった。
「なんですか。これは……まるで地獄ですよ」
「そうだ。あれは間違いなく――」
「古い英雄。炎の翼で世界を焼き払う。血と悲鳴の海に人が沈む……ついにやってきてしまったのです。終焉が」
少女は陰る太陽へ祈った。
俺たちはこの誰もいなくなった町に取り残された。しばらく現実を受け入れられず、祈るように空を見上げていた。到底、生存者を探す気も起きなかったのは、やはりあいつがこの世界の主人公だからだ。そんな気がした。
てきとーおぶざいやー




