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第7話 四つに

マリアは市場に慣れていなかった。


修道院では、買い物は調達係の仕事だった。何を食べるかを自分で選ぶことがない。


マリアになって一週間が経った朝。


「今日、私が市場に行っていい?」


銀貨を三枚持って、階段を降りた。


蕪はどこで買う。パンはどこで買う。値段はどう確認する。カタリーナはいつもこれを一人でやっていたのだ。


一番近い露店で蕪を買った。次の露店でパンを買った。お釣りが計算できた。二十五年間、お金を扱ったことがなかった手で。


貸間に戻った。


「買えました。蕪と玉葱とパン。お釣りが一枚」


マリアは紙袋から蕪を取り出していた。三つの蕪を並べて、一番大きいのを手に取って、少し嬉しそうに眺めていた。


「これが一番よさそうです」


カタリーナは何も言わなかった。蕪を選んで嬉しそうにしている人を見て、胸が痛んだ。二十五年間、蕪の大きさを自分で選ぶことすらできなかった人間が、今、三つの中から一番いいのを選んでいる。





ある日、カタリーナが仕事帰りに荷物を抱えて帰ってきた。


「鏡」


貸間には鏡がなかった。修道院にも鏡はなかった。虚栄は罪だから。


カタリーナは鏡を居間の壁に掛けた。


マリアが鏡の前に立った。動かなかった。


鏡の中に、一人の女性がいた。茶色の髪。本家国の平服。


「……これが、私ですか」


「そう。それがマリア」


「……修道女に見えない」


「修道女じゃないから」


「髪が——こんな色だったんですね。修道院では、自分の髪の色を忘れていました」


カタリーナの手がマリアの肩に触れた。鏡の中で、二人が並んでいた。


「……ありがとう。鏡を買ってくれて」


「たかが鏡だよ」


「たかが鏡じゃないです。二十五年間、自分を見なかった人間に——自分を見せてくれた」





ある夜。寝台の中で、カタリーナがマリアの名前を呼んだ。


「マリア」


「はい」


「もう一回。マリア」


「はい」


「反応が遅い」


「……まだ慣れなくて」


「練習しよう。マリア」


「はい」


「マリア」


「はい」


「マリア」


「はい」


「……マリア」


最後の一回だけ、声が変わった。呼んでいるのではなく、確認しているような声だった。


「います。ここにいます」





梅雨のような季節が来た。カタリーナは傘を二本買ってきた。


「私——傘を使ったことがないです。修道院では、雨でも頭巾があったから」


「祈りで乾くと言われていました」


「祈りで乾くわけないでしょう」


「ないですね。いつも風邪を引いていました」


雨の日、二人で出かけた。マリアの傘の差し方は不慣れだった。


「寄って。二人で入れるから」


一つの傘の下で、肩が触れた。


「こういうの——何て言うんですか。二人で一つの傘に入るの」


「……どの言語にもないかもしれない」


「でも、やってます」


「やってるね」


「言葉がないことを——やっている。この国では——それが普通なんですか」


「普通かどうかは分からない。でも——禁止されてはいない」


「禁止する様式がない」


「ない」


二人は笑った。雨の中で。一つの傘の下で。





夕食。マリアが蕪を切っている。四つに。


「引っ越す?」


「……引っ越す?」


「もう少し広い貸間に。台所が広いところ」


「……引っ越したら。寝室が——二つある必要はないですよね」


「……ないね」


「一つでいいです。居間と、台所と、寝室が一つ。それだけあれば」


「それだけあれば、十分」


マリアは蕪の残りを切った。四つになった。


「カタリーナの好きなもの、作りたい」


カタリーナは玉葱を刻みながら、泣いていた。


「マリア」


「はい」


「好きだよ」


マリアの手が止まった。


「……私もです。好きです」


二人は料理を続けた。台所は狭くて、肩が触れて、玉葱で涙が出て、鍋からスープの匂いがした。

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