婚約破棄ですか?別に構いませんが。お兄様に近づくのは辞めてくださる?
◇◇◇
「エリザベート・バートス!今日をもってお前との婚約を破棄する!」
今日は貴族学園の卒業パーティー。誰もが新しい門出を祝う晴れの日だ。しかし、バレー王国王太子、ルドルフ殿下のあまりに場違いな発言に、お祝いムード一色だった会場は、しんと静まり返る。
せっかくのお祝いの場を台無しにしようとする行為に、眉をしかめ、ヒソヒソと噂する生徒達。
「ちょっと、いきなりなんなの?」
「そういうことは、卒業パーティーが終わってから勝手にやってくれないかしら」
正直誰も、あまり興味を示していない。
なぜならば、この貴族学園には各国の貴族令息や貴族令嬢ばかりでなく、王族も山のようにいるため、いちいち他の国の王族の政略結婚になんて興味がないのだ。
ある程度自由が許された学園生活。国や身分を超えて、交流してきた仲間たち。これからは自分らしく生きていきたい。そう、愛する人と共に。
そんな風にはっちゃけてしまった人がこういう公式な場で、こうした空気の読めない行動に及ぶことは多々あった。
しかし、あまりに多いし、なんならその後断罪されて消えてしまったり、別の国の王族や貴族とくっついたり別れたりして、まぁ、面倒くさいことになるのだ。
何が面倒くさいって、国に帰ってから、このことを逐一報告しなければならないのが面倒くさい。
国際情勢が変わってしまう一大事、になってしまうこともあるからだ。
いまどきはどの国も情報戦。特に王族のスキャンダルとくれば、飛びつかずにいられない。
けれども、今日は卒業パーティー。自分が主役の、一生に一度の卒業パーティー。
ほかの生徒たちにとって、正直他人の人生に振り回されるのなんて真っ平だった。
会場のそこかしこで、
「弱小国が!マジ空気読めよ。俺はこれから愛しのエリーちゃんに告白すんだよ」
「クソがっ、俺なんてこれから40歳年上のおっさんと結婚するのに、わがまま言ってんじゃねぇよっ!」
とかいう、逆にそっちのほうが詳しく聞きたいな、という言葉まで飛び出す始末。
「そして、今日からはこのライラ・プリナードと婚約を結ぶこととする!彼女こそ僕の……運命の人だっ!」
殿下の腕に軽く腕を絡ませて登場したのは、最近バレー王国の男爵家の養女として学園に転入してきた、可愛らしいピンクブロンドの髪の令嬢。
しかし、会場の雰囲気に臆することなく顔を上げるその姿は、まるで歴戦の勇者のように勇ましい。不敵な表情で、敵の姿をしっかりと捉えている。
それに対する名指しされた令嬢は、手に持った扇をさっと広げて、汚物を見るような目で二人を見下していた。
「あら、婚約破棄ですの?私は構いませんけど、王家はそれでよろしいのかしら?」
「いいに決まっている!お前のような傲慢な女は、国母として相応しくないっ!」
「ふんっ!わたくしだって、弱小国の王家になんて興味ありませんわ!ろくにドレスも買えない王妃なんてまっぴら!この政略結婚だって、元々わたくしの持参金目当てのくせに、図々しいったら!」
「くっ……貴様!王族に対して不敬だぞっ!」
「そもそもわたくしにも王家の血は流れてますけど。なんなら、平民出身の側室の息子のあなたよりも、前国王陛下と前王妃の娘であるお母様と、隣国の第二王子であるお父様との間に生まれた私のほうが、血統的には上ですわ」
「貴様!黙って聞いていれば!そもそもお前の母親がうちの母様を虐めるから、お前のことが嫌いなんだよ!」
「ふんっ!いじめてなんていませんわ!お母さまは王女として王族としての礼儀を親切に教えて差し上げただけですのに、お母さまの悪口を言いふらしたのはそっちですわっ!」
睨み合う二人。そもそもこの婚約には無理があったのではないか、と、カラッと揚げたポテトを頬張りながらフレッシュジュース片手に観戦する在校生たち。
正直在校生たちにとっては、いい暇つぶし程度の娯楽になっていた。
「え、おま、ちょっと、マジかよ……お前の国、同性婚がオッケーなの?」
「……俺は女だ」
「ええっ!!!」
だが、なんだかあっちも楽しそうだとソワソワする在校生たち。最近男装令嬢も一定の人気を博していた。
「チッ、女ですの……」
「渋いオジサマ✕儚げな美少年のカプ誕生かと胸躍りましたのに……」
逆に、こちらも一定層に人気のある、びーえるな展開を期待していた貴族令嬢からは、落胆の声が上がる。
「そもそも、その女がわたくしのお兄様に言い寄って、相手にされなかったからと、あなたに鞍替えしたのはご存じかしら!?」
ここでエリザベートから、爆弾発言が投げ込まれる。
「お、ちょっと面白くなってきたぞ?」
と、視線を戻す在校生たち。
「なっ!本当か、ライラ!」
真っ青な顔でライラに詰め寄るルドルフ。
「それが何か?」
しかし、ライラは少しも慌てず堂々としたものだ。
「ふんっ、お兄様に相手にされなかったから、嫌がらせにわたくしの婚約者を奪おうって魂胆なのでしょう?浅はかな女の考えそうなことだわ。でもお気の毒様。殿下なんて、熨斗付けて差し上げますわっ!」
「なっ……こ、コホン。えっと、ライラ?今愛してるのは僕だけだよな?」
「いいえ……私が本当に愛してるのは、レオン様だけですわ」
「なっ!なんて図々しい女なの!?わたくしのお兄様に近付かないでちょうだい!」
「え、ちょっと、ライラ?」
「……けれども、レオン様は私には振り向いてくれませんでした。それで、せめてレオン様のお役に立てればと、ルドルフ殿下と結婚することにしたのです」
「ど、どうして殿下と結婚することがお兄様のためになるのよ!」
「もう、気付いてらっしゃるのでしょう?レオン様が本当に愛してるのはエリザベート様、あなただと!」
ライラの爆弾発言に、再び食いつく生徒達。今度は白け気味だった卒業生たちも、目の離せない展開になってきた。
「なっ!!!何を仰ってるの!お兄様がわたくしを、なんて……わたくしたちは兄妹なのにっ!」
「……兄妹とは言え、血の繋がりは無いでしょう?公爵家にはエリザベート様しかお生まれにならなかった。それで、侯爵家の次男として、幼い頃から優秀だったレオン様が後継候補として養子入りしたはず」
「そ、それはそうだけど……」
「あなただって、殿下を奪われても何とも思わないのに、レオン様には近づくなど激昂する。本当は、レオン様のことを愛しているのでしょう?あまりに仲の悪い両家の関係改善のために、王家との婚約が持ち上がらなければ、レオン様とあなたは元々結ばれる運命だったはずです。殿下は私が引き受けます。どうか、レオン様とお幸せに」
「あ、あなた、そこまでお兄様のことを……分かりましたわ。わたくし、自分の気持ちに素直になります!ありがとう、ライラ様!あなたの献身は忘れないわっ!」
そう言うと、ドレスを翻して走り出すエリザベート。
満足そうに頷くライラと、
「え、えー……」
と呟いたまま、二の句が継げないルドルフ。
だが、ライラはルドルフにこっそり耳打ちする。
「嘘ですわ。本当に愛してるのはルドルフ殿下だけです。ああ言っておかないと婚約破棄の代償として莫大な慰謝料を請求されるし、レオン様が謀反を起こす可能性もありましたしね。あ、ちなみにレオン様がエリザベート様をヤバいくらい溺愛しているのは本当ですわ。ヤンデレレベルで」
「そ、そうなのか……」
ごくりと唾を飲むルドルフ。レオンは歴代最強の騎士としても名高く、謀反を起こせばあっという間に国家転覆されてしまいそうだ。
「なんて賢いんだライラ!やっぱり僕には君しかいないよ!」
「一緒に素敵な国を作りましょうね!」
ルドルフの手を握り、にっこり微笑むライラに、背筋の凍る他国の王族たち。
「おい、あれ、どう思う?」
「いやぁ、うまいこと全部手玉に取ってるよな」
「こぇぇ。俺の国じゃなくて良かった。バレー王国はそのうち女王の国になるかもな」
楽しいショーが終わり、くわばらくわばらとばらけていく生徒達。
その会場の片隅で。
「おい、やめろって」
「俺、お前のことがずっと好きだったんだ」
「言っとくけど俺は本当に男だからなっ!」
「知ってるよ」
(今度こそ本物ですわぁぁぁ!!!)
びーでえるな二人を、愛好家の令嬢たちが息を呑んで見守っていた。
おしまい
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