プロローグ
ずっと、ずっと、ずーっと。
恋焦がれる人がいる。
フロスティーナ・パンテラ・ユニス。
私が仕えていたお屋敷「ユニス家」の嫡男だった人だ。
私は、彼のことがこの世の何よりも大好きだった。
「っ好き、です」
「───……ああ」
だけど、貴族と一使用人。
おまけに、可愛いくもない私がその想いを伝えたところで、ロミオとジュリエットのような喜劇が起きるこも無く、呆気なく私の初恋は散った。───そう、今世までは。
私は前世の記憶を持ったまま、この世に新しい生を受けた。
漫画やアニメなんかではこういう場合、大抵、環境は違えどビジュアに関してはさして違う事はない。それがセオリーだろう。
だけど、私はそれを完全に無視して、まったくと言っていいほど違う人間に、文字通り産まれ変わった。
特に見た目に関しは真逆と言いっていいほど、今世の私と前世の私は何もかもが違う。同じ箇所といえば名前ぐらいだ。その理由としては、きっと、私が前世での死に際で、こう思ったからに違いない。
「ああ、もしも来世があるのなら、どうか絶世の美女になりたい。そしたらきっと、もっと罵声の少ない生活を送れただろう」
人は見た目じゃないというけれど、どのご時世もブスには人権などない。ブスがブスなりに努力してもだ。
そんなことを痛いほど知っていた私は、泉に沈む身体から意識を手放した。それが私の最後の記憶。
そして、次に目を覚ました時。
私は神様がチャンスをくれたのだと悟る。
いや、そう思わずにはいられなかった。
「可愛いね」
それほど、今世での私のビジュアルは整っているということだ。
それはもう、自分の名前が「可愛い」と錯覚しそうになるぐらいには。
だから、自信があった。
きっと、今の私ならフロスティーナ様だって好きになってくれるって。───それなのに
「好きです」
「───……ああ」
今世でも、その綺麗なアンダーの瞳には、私は一度も映されなかった。
フロスティーナ様に振られるのは、これで2回目だ。
重なる記憶に心臓が締め付けられる。
「話は終わったか」
「あ、……はい。お時間いただきありがとうございます。……失礼します」
居た堪れなくなった私は、ふらつく足を必死に動かし、その場から逃げるように去った。




