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水の魔法陣で商売を始めた転生令嬢は生活水準をあげて綺麗な水を作り出す専門家と言われて浄化を試みる〜あなたのところからはもう販売しません〜

作者: リーシャ
掲載日:2025/09/21

突然、異世界のお貴族様の娘、シュルヘン・アルジェントに転生した。


前世では、ごく普通の社会人だったのに広大な屋敷、豪華なドレス、面倒な社交界のルールは、すべてが重荷で。


最もシュルヘンを悩ませていたのが、幼い頃から決められていた婚約者、アルベール・エルヴァルド公爵だ。


水のインフラを独占する一大企業アクア・リバイバル社の若き社長であり、冷静沈着で非の打ち所がない完璧な人物と評されていた。


彼と会うたびに、瞳の奥に、打算と傲慢さが見え隠れするのを感じて、不愉快だ。


「公爵家の妻として、社交界の表舞台に立つべきだ。いつまでも、庭で怪しげな実験に興じるのはやめてくれ」


などと、ありがたくないご高説をアルベールはシュルヘンに告げた。


庭にある池の水を浄化する魔法の練習をしていた。


転生したときに授かった、唯一の能力、それが水を綺麗にする魔法なので、遊びではなく、心の安らぎを得るための大切な時間である。


「これは実験ではありません。水は、以前よりもずっと清らかになりましたよ」


シュルヘンは、浄化された池の水を、アルベールに見せたが、興味なさそうに、ふんと鼻で笑った。


「ふん!その程度のことで、何になる?我々は、水の全てを管理し、支配する。些細な能力は、趣味の範囲にとどめておけよ」


心の底から嫌悪感を抱いた。


能力は、誰かを支配するためのものではないし、誰かの役に立ち、誰かを助けるためのもの。


傲慢な男との結婚を、どうにかして回避したいと強く願うシュルヘンは、アルベールとの婚約を破棄するために、自立の道を探り始めた。


目をつけたのは、自身の水を綺麗にする魔法を使用人や護衛の目を盗み、町へ繰り出せば、街は、貴族の住む地域とは異なり、水は濁り、不衛生な環境に苦しんでいた。


特に、小さな子供たちが、汚れた水を飲んで病に倒れていく姿を見て、シュルヘンの心は軋む。


この子たちを、助けてあげたいと、庭で練習していた魔法を、もっと手軽に使えるように改良。


現代のQRコードのように、紙に描くだけで浄化効果を発揮する魔法陣を生み出した。


「これ、よかったら使ってみてください」


魔法陣を描いた紙切れを、汚れた水を汲んでいた人々に配ると、最初は怪訝な顔をされたが、水が瞬く間に透き通っていくのを見て人は驚き、歓声を上げた。


魔法陣は、瞬く間にシュルヘンのクリアウォーターという名で広まっていく。


貴族の令嬢が、密かに皆を助けている、という噂は、一種の都市伝説のようになった。


そうとなれば、魔法陣を露店で販売することに。


「これがあれば、子供たちが安心して水を飲めます。本当にありがとう、お嬢様〜!」


感謝の言葉を聞くたびに、温かくなり、事業が正しい道だなのだと納得。


ビジネスが軌道に乗り始めた頃、ついにアルベールにそのことが知られてしまい、奴は激怒して感情のままに、屋敷に呼び出した。


「ああ!?君のやっていることは何だ!?貴族の娘が、みっともなく町で商売に興じるとはぁ!家門の恥だ!わかってるのかぁ!?」


「助けたいだけです」


「ああ!ああ!くだらない!ああ!君の能力は、アクア・リバイバル社が管理すべき。だから、君がやっていることは、我々のビジネスを邪魔しているだけなのだ!」


能力を商品としてしか見ていなかったので、シュルヘンの事業が、自社の水利権を脅かすものだと考え、怒りを露わに。


大袈裟だなぁ。


「今日をもって、君との婚約を破棄する。君の能力はコチラが責任を持って管理しよう」


呆れた。


覚悟していたとはいえ、通告に胸が締め付けられる。


「さぁ、寄越しなさい」


放たれた言葉に激しい怒りを覚えた。


「売るという形で、私の所有物とする。さて、契約書にサインしろ。そうすれば、公爵家の妻にはなれないが、金には困らない生活を約束する。対等な契約だろう?」


アルベールは能力を奪い、利益にしようとしている傲慢さで助けてきた人々を侮辱する態度に、静かに激しい怒りを燃やした。


「はぁ?なにを……」


要求をきっぱりと拒絶、誰もが予想しなかった行動に出た。


「分かりました。婚約破棄、承諾します。能力は、誰にも渡しませんよ」


その日のうちに、街中に張り紙を出し、マジック・コミュニケーター(SNSのような魔法道具)で、全世界に向けて宣言。


『私、シュルヘン・アルジェントは、本日をもってクリアウォーターの販売をすべて停止します。誰かの私利私欲のために使われるべきではありません』


発表は、世界中に衝撃を与え、アルベールは、シュルヘンが自分の能力を売り渡すことを拒否し、さらに自分のビジネスを妨害したことに激怒。


直接電話をかけ、脅迫めいた言葉を浴びせてくる。


「今すぐ販売を再開しろ!さもなければ、君の家族にも危害が及ぶぞぉ!いいのかっ」


「あなたの要求には一切応じません。水を必要としていることを知っている。だから、魔法を強引に奪おうとした。あなたも清らかな水を必要としていることをお忘れなく」


水を売らないという形で、反撃したのだ。


元婚約者のアクア・リバイバル社は、水利権を独占しているとはいえ、浄化システムは、莫大なコストと労力がかかる。


そのため、アルベールや、彼と取引する貴族たちも、シュルヘンの魔法陣を密かに購入し、生活用水として利用していた事実を突きつける。


「魔法陣を売るのをやめれば、あなた方も清らかな水を手に入れられなくなる。汚れた水を飲んで、贅沢な食事を続けられますか?貴族のプライドが、それを許すでしょうか?」


アルベールの急所を突いたようにら生活はシュルヘンのくだらないと切り捨てた能力に、依存していたのだ。


男は頑なな態度に苛立ちながらも、譲歩せざるを得なかったし、女の能力を力ずくで奪うことは、自身の評判を落とすだけでなく、シュルヘンの反撃によって、自社のビジネスにも大きなダメージを与えることを理解していたので、歯噛みする。


「わ、分かった。君の能力は、もう狙わない。婚約破棄の件は、このまま進める」


シュルヘンは、アルベールとの婚約を無事破棄することができたが、これで終わりではなかった。


「アルベール公爵。私は、あなたのビジネスを妨害するために、販売を停止したのではありません。能力は、誰かの私利私欲を満たすためのものではないことを、あなたに分かってほしかっただけです」


静かに言った。


再び、マジック・コミュニケーターを通じて、新たなメッセージを発信。


『私の能力は、私だけのものではありません。魔法陣の技術を、無料で公開します。誰でも、魔法陣を使えるようになります。水の渇きをみんなで解決していきましょう』


シュルヘンは、自分の能力をオープンソース化し、皆に解放したのだ。


目的は、アルベールに勝つことではなく、誰もが清らかな水を手に入れられる世界を作るこの行動は、世界中で大きな反響を呼ぶ。


皆は勇敢さと、無償の愛に感動し、技術を使ってそれぞれの地域で水の浄化を始めた。


貴族の令嬢でも、誰かの婚約者でもない、自らの力で未来を切り開いた、水の守護者となったのだ。


呼び声高く呼ばれるように。


婚約破棄という名の束縛から解放され、清らかな水が流れる街で、新たな未来へ向かって歩み始めても、アルベール公爵との婚約破棄後も、シュルヘンへの嫌がらせは続いている。


主犯格は、アルベール公爵の新しい婚約者候補となったセレスティーナ・ルバナティン侯爵令嬢。


「身分をわきまえなさい!商売女が、公爵様の婚約者候補である私に口答えするとは!」


セレスティーナは、シュルヘンが開催する技術交流会に乗り込み、彼女の事業を下賤な商売と罵る。


シュルヘンが作った魔法陣を不潔だと足で踏みつけ、水の浄化を学ぶために集まった技術者たちを侮辱。


「あなたのような人間が、この街の水に触れることすら、不快だわ?」


セレスティーナの嫌がらせは日ごとにエスカレートしていき貴族の権力を利用して、シュルヘンの事業に協力する商家を脅迫し、資材の供給を止めさせた。


また、マジック・コミュニケーターを通じて、シュルヘンに関する根も葉もない噂を流し、信用を失墜させようとしているとまで。


『シュルヘン・アルジェントは、魔法陣に毒を混ぜているらしいわよ。気をつけなさいな!』


『街の水の流れが乱れている。災いを招く女』


セレスティーナの悪意ある嘘は、一部の人々に信じられ、シュルヘンの元を去る者も出始め、自分に向けられる悪意に心を痛めたが、決して屈することはない。


「事業が、街にどれだけ大切かを知らないだけ。必ず、街の水の流れは、清らかに戻る」


嫌がらせに直接反撃するのではなく、言動を逆手に取る作戦を考えたセレスティーナは、シュルヘンの事業を妨害する一方で、自身の権威を示すために、計画を立てている。


それは、貴族たちが集う大規模な舞踏会で、特別に清らかな水を噴水から流し、皆に振る舞う。


「私の力で、この舞踏会を、誰もが羨むような素晴らしいものにしてみせるわ!」


セレスティーナは、自分の実力ではなく、アルベール公爵が裏で手配したアクア・リバイバル社の浄水システムを、頼りにしていた。


システムは、高価な魔石を使い、一時的に水を浄化するもので、シュルヘンの魔法陣とは比べ物にならないほど高コストで非効率なので、とてもではないが簡単にやってはいけない。


舞踏会の当日、豪華な会場には、多くの貴族たちが集まっていた。


セレスティーナは、得意げな顔で噴水に手をかざし、呪文を唱える。


「水よ、清らかであれ!」


言葉とともに、噴水からは澄んだ水が勢いよく噴き出し、貴族たちは歓声を上げ、水を口にした。


水は、数分後には再び濁り始め、しかも、水に混じっていたアクア・リバイバル社のシステムが浄化しきれなかった微細な不純物が、生き物のように蠢き始める。


「な、何だこれは!?」


「ひっ!」


「の、飲んでしまった!?」


「ど、どうなっている!?」


水を飲んだ貴族たちは、喉の渇きと、口の中に広がる不快な味に顔を歪め、異変に気づき、会場は一瞬にしてパニックに陥る。


「あの!セレスティーナ様!どういうことですか!?」


「早くどうにかなさい!」


セレスティーナは、自分が契約したシステムが、シュルヘンの魔法陣とは比較にならないほど粗悪なものだという事実に直面し、顔面蒼白に。


この場を繕おうと、シュルヘンのせいにしようと試み。


「こ、これは、あの商売女の呪いだわ!彼女がこの噴水に何かを仕掛けたのよ!そ、そう!そうなのっ」


しかし、貴族たちは、セレスティーナの言葉を信じなかった。


彼らは、以前シュルヘンが提供してくれた魔法陣の、確かな効果を身をもって知っていたからだ。


バカではないのだ、皆。


「なにを……馬鹿なことを言うな!我々は、彼女の魔法陣の、清らかな水を飲んでいる!」


「あなたの言うことが嘘だと、はっきりわかったわ!」


「最低だな!」


「責任はきっちり支払ってもらう!」


セレスティーナは、自らが流した嘘によって、逆に信頼を失うことになった。


因果応報。


舞踏会での大失敗により、セレスティーナは貴族社会での地位を失い、彼女の家族も世間からの非難を浴び、事態を静観していたが、セレスティーナが放った言葉はなにかを芽生えさせた。


「誰かのためだけにあるのではなく、この世界全体のためにある」


セレスティーナが流した毒の噂を逆手に取り、魔法陣の浄化能力を証明するために、新たなプロジェクトを立ち上げたそれは、汚染が最もひどい地域を対象に、大規模な水の浄化ボランティアを行うこと。


「毒すらも浄化できます。頑張りました。どうぞ、私と一緒に、街の水を綺麗にしませんか?」


呼びかけに、多くの人々が応じ、作った魔法陣を使い、泥にまみれた川や湖の水を、自らの手で浄化していく活動は、マジック・コミュニケーターを通じて世界中に拡散され、シュルヘンの信頼を完全に回復させた。


地位と名誉を失い、誰からも見向きもされない存在となった元婚約者の女。


最後の頼みは、婚約者候補だったアルベール公爵。


「アルベール様。どうか、私を助けて!」


しかし、アルベールは、冷酷な言葉を浴びせ、無駄なことをすると冷たい声が響く。


「君のせいで、信用は地に落ちた。君のような無能な女は、私の隣にはふさわしくない。近寄るな」


そして、再びシュルヘンの元を元婚約者は訪れ、擦り寄ったのだ。


「シュルヘン!君の技術を、もう一度、譲ってくれないか?」


男にシュルヘンは、静かに首を横に振る。


「能力は、私利私欲を満たすためのものではありません。清らかな水を求めていますが、まだ濁ったままみたいですね」


愚かなアルベールは何も言い返せなかったのは、シュルヘンが持つ水の力と、清らかな心のどちらも手に入れることができないと悟ったから。


セレスティーナは、自分がかつて不潔だと罵った水にまみれ、助けを求めることになり、そして、心に初めて清らかさを求める気持ちが芽生える。


セレスティーナの末路を、因果応報として捉えていたわけではないし、誰もが清らかな水を手に入れ清らかな心で生きられる世界を、心から願っているだけだ。


「私の仕事は、まだ終わらない。やらないと」


清らかな水が流れる街で、次なる浄化へと歩み始めたあと、アルベール公爵との婚約破棄後も、シュルヘンを目の敵にする令嬢がいた。


アルベールに接近し、新しい婚約者の座を虎視眈々と狙っていたエミーリア・グロース公爵令嬢。


そんなに、魅力的な立場らしい。


前任者が、あんな目にあったというのに。


「あら、シュルヘン様。水の魔法などという、下賤な力に夢中になって、公爵様に見捨てられたんですって?お気の毒」


エミーリアは、シュルヘンが魔法陣の事業で成功を収めていることを快く思っていなかったので、事業を泥水の商売と蔑み、ことあるごとにプライドを傷つけようとした。


「貴族たるもの、救うのは教会や国のお仕事でしょう?泥にまみれて、庶民と商売をするなんて、本当に下品」


高価な香水を振りまき、シュルヘンが作った魔法陣を指先でつまみ、汚物でも見るかのように軽蔑。


嫌がらせは、ついに公の場で最高潮に達する。


貴族社会で最も重要な舞踏会、水の祝福祭の夜のことで、舞踏会では、特別な魔法で浄化された清らかな水を、貴族たちが乾杯に使うという伝統があるのだが、エミーリアは、舞踏会で徹底的に貶める計画を立てていた。


「皆様!本日は、舞踏会の名物である祝福の泉から、清らかな水を皆様にご提供いたします。水は、私の家門の魔導師たちが、精魂込めて浄化した、真に高貴な水でございますの」


エミーリアは、得意げな顔で貴族たちに挨拶をすると、多くの貴族が拍手を送る。


シュルヘンも、会場の隅からその様子を見ていた。


エミーリアは自ら盃に水を注ぎ、近づく。


「さあ、傷物様。貴族の舞踏会で、泥水の商売女が飲むべきは、この清らかな水かしら?うふふ!」


エミーリアは、嘲笑を浮かべ、シュルヘンに盃を差し出し、周囲の貴族たちも好奇の目でシュルヘンを見つめ、静かに盃を受け取った。


「その水、一口でも飲めば、あなたは高貴な身分に戻れるかもしれませんわよ?なんてねぇ?」


シュルヘンは、盃の中の水をじっと見つめた。


水は、確かに透明に見えたが、シュルヘンの水清の能力アビリティは、水が完全に浄化されていないことを感じ取る。


祝福の泉は、見かけだけを浄化する、粗悪な魔法道具を使っていたのだろうと推理して盃を口に運ぶふりをした瞬間、会場に響き渡る悲鳴が聞こえた。


「うわあああ!なんだこれは!?」


「きゃああああ!」


見ると、エミーリアが誇らしげに立っていた祝福の泉の噴水から、濁った水が噴き出していた。


水は、会場の床を汚し、高貴なドレスや靴を泥で濡らして、水飛沫が降り注ぐ。


「な、なぜ!?完璧に浄化したはずなのに!」


エミーリアは、パニックになって叫ぶ。


浄化の魔法道具は、見かけだけを浄化するもので、水の根本的な不純物を取り除くことはできなかったらしいとシュルヘンの能力と違い、時間が経てば元の濁りに戻る、欠陥品。


「そんなはずはない!きっと、商売女の呪いに違いない!あなた!あなたのせい!あの女を捕まえて!早くうううう!!」


エミーリアは、シュルヘンを指さし、すべての責任をなすりつけようとした。


指をさされても冷たい目でエミーリアを見つめ、はっきりと反論。


「エミーリア様。水の魔法は、嘘をつきません。下賤と罵った力は、水の真実を映し出します。泉の水は、最初から汚れたままだっただけです。綺麗でないものは綺麗でない。当たり前のことですよ」


言葉に、貴族たちは動揺し、その場の誰もが信じられない光景を目撃した。


なんと、シュルヘンが手にしていた盃の中の水が、ゆっくりと濁り始めたのだ。


濁りの中には、微かに清らかさを求める声が聞こえるようシュルヘンがひっそり、作り出した演出。


『私は、まだ汚れている。もっと、もっと清らかな水になりたいよぉ』


エミーリアが使った魔法道具が、水の表面を誤魔化しているだけで、根本的な浄化がなされていないことを示し、盃を手に、貴族たちに向かって。


「皆様。水は、私たちの心と同じです。見かけだけを綺麗にしても、心の中が濁っていれば、やがて濁りは外に現れます。見せかけの浄化はしませんので、同じように同化して見ないでくださいね」


シュルヘンの言葉は、エミーリアの偽善と傲慢さを、完全に暴き出した。


バカにした報い。


泥水の商売と罵ったこと、貴族たちの前でシュルヘンを辱めようとしたことすべてが、浅はかさを露呈することとなった。


舞踏会での騒動は、瞬く間に貴族社会全体に広まり、エミーリアは、貴族のプライドを重んじると言いながら、最も重要な清らかさを偽っていたことが明らかになる。


家門は丸ごと信用を失い、アルベールも、彼女を婚約者候補から外すことを決めた。


「エミーリア・グロースは、我々の家門にふさわしくない」


アルベールは、冷酷な言葉で見捨てた。


シュルヘンは、エミーリアに直接罰を与えることはしない。


なぜなら、すでに因果応報という形で、過ちに対する報いを受けていたから、最も大切にしていた貴族としての地位と名誉を、自らの手で失ってしまったのだ。


再び、清らかな水を求めるために、魔法陣の技術を広めることに専念した活動は、貴族社会にも大きな影響する。


「シュルヘン様の魔法は、本当に清らかだ」


「見せかけの美しさではなく、本物の清らかさを持つべきだな」


貴族たちは、表面的な見栄を張り合うことをやめ、シュルヘンのように、本当に価値のあるもの本物の清らかさとして、求めるようになった。


魔法は、水を浄化するだけでなく、心に、真実と清廉さの価値を教える力を持つ。


エミーリアは、貴族社会から孤立し、誰からも相手にされなくなり、愛した高貴な生活は、シュルヘンが浄化した、清らかな水に流されてしまう。




「はぁ、また?」


事業は順調に拡大していたものの、シュルヘンの活動を快く思わない人物がいたらしい。


王立魔法研究所に所属する高名な魔導師、ロレンツォ・ライヒェンバッハ。


「あり得ない。魔法の素人が、我々専門家が築き上げてきた水利権の秩序を乱すなど、言語道断」


なんて言ってロレンツォは、シュルヘンの魔法をまがいものだと見下していたので、研究室は、シュルヘンの魔法陣を分析し、原理を解明しようと躍起になっていたが、未だに核心に触れることはできていなかった。


魔法は、単純な魔力操作ではなく、水そのものが持つ生命力に働きかける、まったく新しい種類の魔法。


「貴族の令嬢が、趣味で水を綺麗にしているだけなのだ。そんな幼稚な魔法が、我々の何世紀にもわたる研究成果を上回るわけがない。ああ、そうだ」


ロレンツォは、シュルヘンの魔法を軽視する一方で、技術を自分の手柄にしようと画策し、接触し、共同研究を提案してきた。


「シュルヘン様。あなたの持つ能力は、私のような専門家が管理すべきもので。我々の研究に協力すれば、あなたの名も魔法史に刻まれるでしょう」


しかし、シュルヘンは、ロレンツォの傲慢な態度と、背後に見える私利私欲に気づくと、きっぱりと断った。


「魔法は、誰かの研究道具ではありません。誰でも清らかな水を手に入れるためにあります」


この返答に、ロレンツォは激怒したので、恐らくお気に召さなかったらしい。


シュルヘンに直接対決だと、ロレンツォは、徹底的に貶めるため、貴族や専門家、一般市民が集まる大規模な水質改善公開討論会を開催した。


彼は、討論会で魔法を科学的に否定し、自身の研究の正当性を証明するつもりらしい。


「皆様。水質改善は、高度な魔導技術と、膨大なコストを必要とします。シュルヘン様の魔法は、一見、素晴らしいものに見えますが、実態は、科学的根拠のない、一時的な誤魔化しに過ぎません!まがいものなのです」


ロレンツォは、壇上でシュルヘンの魔法陣の欠陥を、専門用語を並べて説明して、研究成果を証明するために、特別な装置を用意。


魔力残留量測定器というもので、水に残る不純物や、魔法の痕跡を可視化したりした。


「私の装置を使えば、どちらの水が本当に清らかか、一目瞭然です。まずは、私が浄化した水をご覧ください」


自分の浄化装置で作った水を測定器にかけると、装置のランプが清廉を示す緑色に点灯し、聴衆から拍手が起こった。


「これが、科学に裏付けられた、真の浄化です。さあ、シュルヘン様。あなたの魔法陣で浄化した水を、この装置にかけてみてください。ふふ」


ロレンツォは、勝ち誇ったように笑った。


シュルヘンは、静かに頷き、自分の魔法陣で浄化した水を、測定器にかけたがランプは緑色にはならず、無反応を示す。


「な、なんだと!?」


予想外の結果に驚くと理由を、シュルヘンの魔法が不完全だからだと決めつけた。


「見なさい!彼女の魔法は、不純物を完全に消去できていない!完全に浄化された水なら、装置は必ず反応するはずだ。ええ!」


ロレンツォの言葉に、聴衆はどよめいたが、シュルヘンは慌てることなく、静かに反論。


「ロレンツォ様。あなたの装置は、不純物や魔法の痕跡を測定するものです。私の魔法は、浄化するのではなく消滅させます。結果、水は存在するどの浄化技術でも作り出せない純粋な水に戻るのです」


シュルヘンは、さらに続けていく。


「あなたの装置が測定できるような魔法の痕跡を残しません。なぜなら、水に魔力を残すのではなく、水自身の生命力を呼び覚ますからですよ」


聴衆は息をのむ。


魔法が、ロレンツォのような科学技術とは、まったく異なる次元の力を持つことを理解していった。


真実であることを証明するかのように、浄化装置で作られた水に、再び異変がおき、時間が経つにつれて水はわずかに濁り始め、不快な匂いを放ち始めた。


それは装置が、不純物を一時的に固定化しただけで、根本的に浄化できていなかったことを示す。


やはり、かと目を伏せる。


「は?な、なぜだ!?」


ロレンツォは、自分の装置を叩きつけ、絶叫、混乱と屈辱に歪む。


一方、こちらが魔法陣で浄化した水は、いつまでも透き通り、清らかなまま。


聴衆は、ロレンツォの傲慢な態度と、結果に失望すると同時に彼らは、シュルヘンの魔法が、見せかけではない、本物の力であることを悟る。


「ロレンツォ様の研究は、ただの自己満足だったのだな」


「本当に人のことを考えていたのは、シュルヘン様の方だったよ」


男は高名な専門家としての地位と信望を、その場で完全に失う。


知識と技術を過信し、暮らしに寄り添うことを忘れ、研究は、シュルヘンのまがいものにさえ遠く及ばず。


直接罰を与えることはしなかったが、プライドが最も残酷な罰となり、自分の専門分野で、無名の令嬢に完敗したという、一生消えない屈辱を味わうことに。


ロレンツォの件を教訓に、自分の魔法を水と心を浄化する力として、さらに磨きをかけた。



魔導師ロレンツォとの騒動が一段落し、日常は、以前にも増して活気に満ちていた。


事業は、貴族の令嬢が始めた奇抜な商売ではなく、暮らしに欠かせないものとなっている。


早朝、魔法陣を積んだ荷車を押して街に出ると、朝市の皆が温かく迎える。


「シュルヘン様、今日も来てくれたんですね!」


「おかげで、うちの野菜がみずみずしくて、飛ぶように売れるんですよ!」


「それがねぇ!」


青果店の店主は、浄化した水で野菜を洗っていた。


野菜は、新鮮さを保ち、格段においしくなると評判に魔法陣を売るだけでなく、客の暮らしに寄り添う提案も行う。


「魔法陣は、お風呂に入れると、肌がすべすべになりますよ」


「お花の水をこれに替えると、長持ちします」


シュルヘンの助言は、間で瞬く間に広まり、次第に水の女神様と呼ばれるようになり子供たちは、シュルヘンの周りに集まり、荷車を引くのを手伝ってくれる。


「ねえ、シュルヘンお姉さん!ぼくの魔法のステッカー、もうちょっとキラキラさせてよ!」


「はいはい。ちゃんと、お母さんのお手伝いしてね」


シュルヘンは、子供たちの汚れた手に、魔法陣のシールを貼ってやった。


すると、シールが貼られた部分から、水の波紋のような光が広がり、子供たちの手はきれいになる子供たちは、不思議な光景に目を輝かせ、無邪気に笑う。


キラキラのシールは子供心を擽る。


活動は、生活だけでなく、心にも大きな影響を与えていたある日、街の片隅にある小さな食堂を訪れた店は、以前は客足が途絶えがちだったが、今では連日満員。


それもこれも。


「シュルヘン様、あなたの魔法のおかげで、うちの料理が美味しくなって、お客さんが増えました。本当にありがとうございます」


店主は、深々と頭を下げ、シュルヘンは微笑みながら答えた。


「水が持つ、本来の美味しさを引き出しただけです」


厨房から、店の料理人だった男が顔を出すと、目には、以前の疲労の色はなく、生き生きとしていた。


「実は、料理長、以前は酒に溺れて、店を潰しそうになっていたんです。でも、シュルヘン様がくれたクリアウォーターで料理を作ったら、お客さんに喜んでもらえて。それで、また料理への情熱を取り戻したんですよねー」


シュルヘンは、話を聞いて、胸が熱くなった。


水を浄化するだけでなく、心を洗い、再び立ち上がる力を与えていたことに。


「すみません」


「ああ、シスター」


孤児院を運営するシスターから相談を受けた。


「この子たちは、汚れた水で病気になり、なかなか健康になれません。どうか、お力をお貸しください」


快く引き受けた。


「わかりました」


孤児院に浄化装置を設置し、子供たちがいつでも清らかな水を飲めるようにしてみると、みるみるうちに元気になり、走り回る。


街を歩けば、笑顔で挨拶を交わし、悩みや相談を持ちかけた。


「シュルヘン様、うちの娘が熱を出して」


「シュルヘン様、この川の水を、もっときれいにできませんか?」


声に耳を傾け、一つひとつに応えていった。


魔法が、単なる浄化の能力ではなく、仲間意識を深めるための道具であることを実感して、一人で、街の明かりが遠くに見える丘の上に行けば足元には、透き通った水が静かに流れる川があった。


以前は、濁って淀んでいた場所。


「こんなにきれいになった」


水の流れの音ではなく、感謝と、喜びと明日への希望が詰まった清らかさのある、水面に映る自分の顔を見つめる。


不安や貴族令嬢としての憂鬱はなく、代わりにあったのは未来を切り開くという秘めた清々しい表情でぽちゃん、と水を指で弾いた。

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― 新着の感想 ―
婚約者候補で喧嘩売ってきた馬鹿達高位貴族の癖に碌に情報収集もできねえのか
清水に関する事業所が何軒もあるが、まともな事業所が見当たらない、よくこれまで皆さん元気に暮らしていましたねと思いました。
感想一覧
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