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第一話 薄陰
俄雨。
頭上には、鈍色の雲が出来損ないの石瓦のように敷き詰められている。
天澤由景は障子の隙間から庭をぼうと眺めている。
ふと目を下に移すと縁側まで雨水で水浸しになっているのが見えた。
「旦那、聞いてますかい。ねえ」
仁吉が先程からややこしい話を繰り広げている。
──女が目の前から消え失せるらしいですぜ。
半時程前。どじょう売りの仁吉が旦那、入りますよ。と戸をがらりと開けて入ってきた。
三和土で着物の裾をばさばさはためかせながら、すげえ雨粒ですぜ。と独り言のように言っている。
天澤は肩肘を立てて横になっていた。