条件
「分かりました。貴方と契約します。ただ、私からも条件があります。」
「条件?」
「私は、貴方の言う通り、街の人間が好きではないのかもしれない。でも、それは、一部の人のことです。街で偉そうにしている人が嫌なだけなんです。だから……」
「お前は優しいな。」
金色の瞳が揺れた。とても儚げで、少し苦しそうだった。
「分かった。必要以上に人間を殺さないようにする。」
「ありがとうございます。」
「気にするな。契約の内容だが、『必要以上に人間を殺さないかわり、街の人間への仕返しを手伝う』でいいか。」
「あの、『仕返し』って具体的に何をするんですか?」
人間を殺さないのに、どうやって仕返しをしようとしているのだろうか。力を見せつければ森に入る人間は減るはずだけど、このひとの『仕返し』はそんな単純なことではなさそうに思える。
「あぁ、そうだな。───お前、俺と結婚しないか。」
「は?」
何を言っているんだろう?契約の次は結婚?いよいよ意味が分からない。
「私をからかって遊んでいるのですか?」
「俺は本気だ。」
「なら、なおさら意味が分かりません。私たちはつい先ほど出会ったのですよ?それに、忘れてましたが、きちんとした自己紹介だってまだじゃないですか。」
「……それもそうだな。」
「ですから───」
「我はルディ。1000年以上森の王をやってる。巫女であるお前にはルディと呼ぶことを許そう。後ろに控えているのは我の連れだ。レオンとギド。後で紹介しよう。」
「…………」
(真面目にしているとかっこいいのに。)
完璧な自己紹介だった。王様としての威厳が感じられたし、森の王というだけあってすごく堂々としたかっこよさがあった。
(確かに見た目はすごく王様なのよね。)
ルディは、金の瞳と、銀の長い髪がとても神秘的だった。私のまわりにはこんなに綺麗なひとはいない。
「おい、次はお前の番だぞ。」
「……一条朱莉と申します。先代の巫女、一条紫莉の後を継ぎ、8つの頃から巫女をしております。本日はわたくしどものために、こちらへおいでくださり、感謝申し上げます。」
(………まあまあね。小次郎がいたらきっとたくさん直されていた。)
「お前、そんなに長い間巫女をやってたのか。」
「母と姉が早くに亡くなった以上、私が後を継ぐしかありませんでしたから。」
「そうか。」
「それで、なぜ、私と結婚したいのですか。」
「俺は、この国をもらう。」
「そうですか。」
もう反応に困るどころではない。好きにしてもらって構わない、なんて口から出そうなほどこのひとの話しにはついていけない。
「お前も、この国の上の奴らが嫌いだろ。良かったな。」
「国を乗っ取ってどうするんです?」
「俺は昔からこの国をみてきた。昔はもっと人々の仲が良く、楽しい国だった。だが、今はもうあの頃の国ではない。だから、俺がもとに戻そうと思ってな。その為にはこの国を作り直す必要がある。」
「この国の王になるのですか?」
「あぁ。人間の王には王女がいるのだろう。だから、俺と結婚しないか?」
「なぜ、私なんですか?」
「お前が、綺麗だったから。」
「…………私は朱莉です。『お前』じゃありません。自分の奥さんのことぐらいしっかり名前で呼んでくださいね。」
「そうだな。朱莉、ありがとう。」
私は騙されやすいのかもしれない。『綺麗』なんてきれいな言葉に踊らされて結婚してしまうなんて、おかしいのかもしれない。けど、このひとなら、ルディなら私を愛してくれるのではないか、なんて思ってしまった。
やっと自己紹介してくれた!