魔物と一条家
「おかえりなさい。」
「ただいま。」
家に帰ると、薫が出迎えてくれる。
「どうでしたか?」
言葉は短いが心配してくれているのが伝わってくる。私は、今日あったことを全て話した。
「そうでしたか。やはり、そうなってしまいましたか。」
薫は、昔から私のそばにいてくれて、いつも私を見守ってくれていた。
「仕方がないわ。理解できないのなら、私が守る理由はない。」
「今日の会議は、被害を減らすための対策を考えることが目的でしたよね。どうして、争うことになってしまったのですか。」
本当は、薫のいう通りだった。強くなる魔物たちへの対策を考える会議。先日の討伐で多くの犠牲者が出たことで、私たちだけでは国の全てを守ることは出来ないと思った。もちろん、自分達だけを守るのは簡単なことで、自分達だけだったら、犠牲者なんか出なかった。でも、討伐の場には、一般の人がいた。国の定めを守らず、勝手に森に入った者たちが魔物に襲われたのだ。人を守りながら戦うのは難しい。魔物の力が強くなっているのは事実だし、あの時は、勝手に森に入られたことで魔物たちも怒っていた。私が会議に参加したのは、「森に入らない」という決まりを守ってほしかったから。けど、彼らは自分達のことを棚にあげて私たちを罵った。ならば、自分勝手なものたちを私たちが守る必要もない。
「朱莉様……」
「あ、ごめんなさい。少し考え事してて。」
また、薫を心配させてしまった。そんなことを考えていたとき、
「朱莉様!!」
家の者が駆け込んできた。
「どうした!」
「魔物が怒っているようで!」
「すぐに行く!」
私は意識を切り替えて魔物のもとへ向かった。
『ナゼ、モリヲ、ケガス!!』
『ナゼ、ナカマヲ、コロス!!!』
外に出ると、すぐに大きな声が聞こえてきた。
「怪我人は!」
「3人ほど、死者は出ていません!」
死者が出ていないのは幸運なことだった。これだけ怒った魔物なら人などすぐに殺せる。
「貴方たちは下がっていなさい。」
私は皆に命令し、一人で魔物に向き合う。
いつもなら、全員で魔物に立ち向かうが、今日は違う。もう、自分勝手な人間は守らないと決めたのだ。
(人間を守る必要がないなら、私は魔物の方に味方する。自分勝手な人間のための死者なんてもう出さない!)
『森の民よ、どうか心をお静め下さい。』
私は話しかける、すると魔物から返事があった。
『ナゼ、ナカマヲ、コロシタ』
私は気になっていた。誰が魔物を殺したのか。私たちは決して魔物を殺さない。魔物の力を一時的に封印し、森に返す。それが私たちのやり方。討伐と呼ぶのは、国の人間たちにとって都合がいいから。
『誰が貴方たちの仲間を殺したの?』
私は、森に住む者たちと話すことが出来る。巫女として生まれ育った私だけの特別な力。これからは、この力は森の者たちのために使う。
会話をしている間、私は力を使って、魔物の力を押さえていた。そのおかげか、少し落ち着きを取り返したようだった。
『人間が、殺した』
『人間が?』
『こないだと、同じ人間』
『森に来て、仲間を、連れていこうとした』
(そうなのね……)
今までずっと不思議だった。けど、これでようやく分かった。もう、私は許さない。