きっかけ
「お待ちください!!」
私はなんとか話を聞いてもらえるよう声を荒らげる。
「君の意見は関係ない。あくまで君は参考人だ。」
しかし、男の冷たい声がこれで話は終わりだと告げてくる。
「この国を守ってきたのは私たちです!」
(何度訴えても無駄かもしれない。でも──)
「だからなんだというのだ。」
「っ!!」
「確かに、数年前までは君たち一族が国を守っていた。だが、君の代になってから、森の魔物どもの勢いは強くなるばかりではないか。」
「それは──」
この世界には、人間とそれ以外のものが存在する。
『森の魔物』我が国に接する森にすむ、強力な力を持った生き物たち。
昔から、人間の敵だと恐れられ、私たち一条家が代々国を守ってきた。
一条家は、神社の者たち。そのなかでも、特別な力をもつ巫女はとても大切にされてきた。
それなのに──
「魔物の力が強くなっているというのだろう。もし、本当にそうならば、君がもっと力をつければいい話だ。まぁ、我らには、君が仕事をさぼっているようにしか思えないがね。」
(私たちを馬鹿にしている。国に被害がでないよう、命を懸けているのは私たちなのに……)
「なにも言えぬなら話は終わりだ。我らは今後の魔物への対策で忙しい。早く帰ってくれ。これも、君が自身の役目を果たさぬからだがな。」
「魔物の力が強くなっているのは事実です。先日も、襲ってきた魔物を討伐しに行った者たちが、何名も命を落としました。」
「だからなんだというのだ!ろくに役目も果たさぬ愚か者どもの命など、どうでもいい!貴様もさっさとこの場から立ち去れ!!」
(許せない! こんなゴミみたいな国のために私の仲間は!!)
「そうおっしゃるのならば、私たち一条家は二度とこの国を守りません。よろしいのですね。」
私たちが国を守らなければ、この国はすぐに滅びる。
「はったりをかましたところでなにも変わらん!」
「よろしいのですね。」
返事は受け取った。私はもう、この国を助けない。
「失礼します。」
私は部屋を後にした。